第324話 成王1
誤字報告ありがとうございます。
322話で銘板の表記が右に寄り過ぎていたため、スマホでは折れてしまっていたようでした。
誤字報告で報告があったんですがそのとき意味が分からず削除してしまいました。申し訳ありません。
案内された部屋の中で待つこと小1時間。
扉がノックされ、お付きの巫女さんが現れた。
「王宮までの行き来で1時間かかりますので、ブラウさまがお戻りになるのはおそらく昼過ぎとなります。
昼食の準備をいたしますが、ご要望はございますでしょうか?」
ここで、ステーキが食べたいとか、刺身が食べたいとか言える度胸がある者はいないだろう。刺身は最初からないと思うがな。
「わらわは、都の名物料理が食べてみたいのじゃ」
いたよ。度胸のある子が一人だけ。
「他の皆さまも同じものでよろしいでしょうか?」
「「は、はい」」。俺たちじゃそう言うしかないよな。
「かしこまりました」
巫女さんはそう言って、部屋を出ていった。
昼までにはまだ1時間以上ある。暇である。
「大変なことになったけど、なるようにしかならないものな」
「そう言えば善次郎さん」と、はるかさん。
「何です?」
「思い出したんですが、エドモンドⅠ世が王さまになる前には、別の王さまがいたんですよ」
「王国だったらそうでしょう」
「それで、石から引き抜けば王に成れるという聖剣を引き抜いた者が出たわけですから、その時の王さまはその聖剣を抜いた者に刺客を送ったそうなんですよね」
「えっ!? 刺客?」
「だって、自分の王位が危うくなるわけですから」
確かに。俺って今の王さまだか政権から見れば、国家転覆をたくらむ超危険分子じゃないか?
ただ、錦の御旗だけはこっちにあるってところか。これは冗談じゃなくてアスカ1号、2号に寝ずの番で俺の身辺警護させておいた方がいいかもしれないな。
あれこれ考えていたら、扉がノックされ、料理の乗ったワゴンが運び込まれてきた。
「奥の食堂のテーブルにお着き下さい」と言われた俺たちは食堂に移動した。
10人用のテーブルだったので、ほぼ屋敷の時と同じ形で俺たちは席に着いた。
真っ白なテーブルクロスのかかったテーブルの3カ所に丸いパンの乗ったカゴも置かれた。
各自の前にナイフとフォーク、スプーンが並べられていき、次にバターの乗った皿、それにグラスが二つ置かれ、片方のグラスには俺と華ちゃんとリサとはるかさんには白ワイン、子どもたちにはオレンジジュースが注がれた。もう片方のグラスは水である。どちらもグラスにすぐに水滴がついたところを見るとよく冷えているようだ。
今気づいたが、窓枠には板ガラスがはまっていた。そこから明るい日差しが入っているせいか、部屋の中はそれなりに暖かい。
飲み物の後はサラダが各自の前に置かれていった。
「アボカドのキャビア添えです。どうぞお召し上がりください」
と言われたので、みんな揃って、
「「いただきます」」
アボカドの上の黒い粒々がキャビアか。フォークで一緒にすくって食べてみたが、正直、単体ならイクラの方が美味しいと思った。ただ、アボカドにはキャビアの方が合っているように思う。
アボカドのキャビア添えを食べ終わったところで、皿が片付けられて、次は、スープ皿が置かれていき、順番にポットからお玉で掬って湯気の立つスープが注がれていった。
「スッポンのコンソメです。どうぞ」
茶色のコンソメスープの中に、ゼラチンのかたまりのようなものと白身の肉が入っていた。
スープはとろみがありコクのあるスープとしか表現できないが、一口、二口と口にしただけで、体の芯から温かくなってきた。
弾力のあるゼラチンにスープの味がしみていた。白身の肉は鶏に近いのかと思って口にしたが、近いと言えば近いかもしれないような、そうでもないといえばそうでもないような。不思議な食感と味だった。蛇は食べたことはないがカメは蛇と同じ爬虫類だから、蛇に近いのかもしれない。
スープの後は、
「マスの塩焼きです」
「お口直しの、ミント茶です」
「ローストビーフです。ソースはバターと玉ねぎのソースです」
ここで、グラスが追加されて赤ワインが注がれた。子どもたちのグラスにはリンゴジュースが注がれた。
「デザートのタルトと果物です」
最後にデザートとお茶が出された。もちろんみんなお腹がパンパンだ。食事前はなんとなく気が重かったのだが、食事の後は何だがそういった諸々が気にならなくなっていた。美味しい食事は偉大だ。
「お腹がパンパンで苦しい人?」
みんな手を挙げたので、軽めのヒールポーションを9つ作ってみんなに配って、俺も1本飲んでおいた。
「「ごちそうさまでした」」
給仕してくれた侍女たちはテーブルの上を片付けてワゴンを押して帰っていった。
「いやー、美味しかった」
「わたしも頑張ります!」と、リサ。
これは返し方が難しいな。
「今まで通り研究していけばいいよ」
「はい」
リサが嬉しそうに返事をしたところを見ると、今の返しは正解だったようだ。
毎日女子を相手にしているおかげか、以前の俺では考えられないほど女子との会話での受け答えが上手くなっている。ような気がする。今さらそれでどうなるわけでもないけどな。
さて、もう昼をだいぶ過ぎているのだが、ブラウさんが現れない。王宮で揉めていることは十分考えられる。
今日は都見物にきたのだが、見物どころではなくなった。今度、アキナちゃんたちを式典に送る時にはちゃんと都見物しよう。見どころは、ここの神殿の人に教えてもらえばいいだろう。
などと現実逃避していたら、扉がノックされて、ブラウさんが現れた。
「お待たせしました。
エドモンドⅠ世が王となった故事と同じく、一週間後、王の代理の者と、ゼンジロウ殿が真剣勝負を行ない、勝った者が王位に就くということで話をまとめてきました。
この試合は国法に則った『成王の試合』ということですので、試合の勝敗が付いた段階で、正当な王が決まります。
ゼンジロウ殿がAAランク冒険者だと王宮の者たちが知れば腰を抜かすでしょう」と、いい笑顔でブラウさん。
おいおい、俺が真剣勝負をするのか? 王さまの代理ってことは、王さまが知ってる中で最強が出てくるわけだろ? 嫌だよそんなの。
「試合までの間、ゼンジロウ殿は王宮からの刺客に狙われるでしょうから、試合の日までこの神殿の中でお過ごしください」
刺客に狙われることがデフォルトなのか。はるかさんが言ってた通りじゃないか!
「ブラウ殿、ゼンちゃんは転移の術が使えるのじゃ。じゃから、ここよりもバレンの屋敷に帰っておいた方が良かろう?」
「なんと! 大錬金術師のうえにAAランク冒険者というだけでも驚きでしたが転移の術までとは。それなら何も心配はありません」
「そうなのじゃ。ブラウ殿、われらは大船に乗ったつもりでいればよいのじゃ」
「アキナさまのお言葉、実に頼もしい。わたくしの代でも夢がかなうとは。ありがたや」
「そうであろう、そうであろう」
アキナちゃんが勝手に話を進めちゃったよ。どうするんだ?
「そう言えば、聖剣はどちらに?」
「ゼンちゃんはアイテムボックスのスキルも持っておるのじゃ」
「な、な、なんと!
そこまでの人物ですと王になるのはもったいないかもしれませんが、それだけの能力があるなら王の仕事など片手間でしょう」
「その通り。ゼンちゃんなら、チョチョイのチョイなのじゃ。ハッハッハ」
「実に頼もしい。ホッホッホ」
とにかく俺は1週間後、王さまの代理人と真剣勝負をすることになった。嫌なものは嫌だが、杖術レベルマックスの俺にかなう相手は最低でも何かの武術スキルがマックスの必要がある。そうそうレベルマックスなどいないだろうから、楽勝ではないかもしれないが、俺が負けることなどないだろう。華ちゃんのバフ魔法もあれば、アキナちゃんの5割増し効果と祝福もあるしな。さらに言えば、こっちにはZダンジョンで見つけた、超高速化砂時計まである。
それでも負けそうになったら、相手をどっかに転移で送ってしまうだけだ。絶対とはもちろん言えないが、勝ったようなものだ。




