第323話 オストラン大神殿2
都の王宮を目指して通りを歩いていたら、国の名まえを冠した神殿があった。神殿の裏庭には、引っこ抜いたら王に成れるという聖剣が石の中にすっぽり刺さっていた。
「どうぞ、お試しください」と、青い巫女服を着たブラウさん。ブラウさんは継世の巫女と呼ばれるこの神殿の最高位の人で、アキナ神殿では大神官に相当する人らしい。
「ゼンちゃん、試してみるがよい」と、アキナちゃん。
「じゃあ、俺が最初に試してみるな」
剣の刺さった石の上に立った俺は、力を込めて剣を引っこ抜こうと、腰を落として両手で石の上に突き出ている剣の柄をぎゅっと握ったのだが、それだけで聖剣はグラグラしていた。
あれっ?
そのまま剣を持ち上げたら、剣の重さだけは感じたが、全く抵抗なく聖剣が石からするりと抜けてしまった。
これって、相当、マズいんじゃないか?
顔を上げて、周りを見たら、ブラウさんとお付きの巫女さんはじめ、華ちゃん以下うちの連中も、半分口を開けて俺を見つめていた。ただ一人、アキナちゃんだけが、ニヘラ笑いをして、
「じゃろ?」と、ひとこと俺に。
引っこ抜いたものの、どうすればいいのか分からなかったので、聖剣が刺さっていた穴に戻そうとしたが、剣先が少しだけ穴に入っただけで、それ以上突っ込むことはできなかった。
「えーと、ゼンジロウ殿?」と、ブラウさん。
「は、はい。ゼンジロウです」
「聖剣を抜かれた以上、ゼンジロウ殿がこの国の正当な主となられました」
「はあ?」
「そういう決まりがこの国にはあるのです」
「は、はあ」
「これからわたしは取り急ぎ王宮に赴き、このことを宰相に伝えます。
ゼンジロウ殿とみなさんは、そのあいだこの神殿でお待ちください。
あなたは、ゼンジロウ殿とアキナさま、それとお仲間のみなさんを客室に案内しなさい。
あなたは、王宮までの馬車の手配を」
「「かしこまりました」」
ブラウさんともう一人のお付きの巫女さんは小走りに神殿に駆けていき、残ったお付きの巫女さんが、
「こちらにどうぞ」
そう言って先頭に立って、俺たちを神殿の中に案内してくれた。客室に案内するという。俺の手には抜き身の聖剣が握られたままなのだが、これどうすんの?
「この聖剣ですが、どうすればよろしいのですか?」
処置に困ってしまって前を歩く巫女さんに聞いてみたところ、
「ゼンジロウさまがその聖剣の正当な所有者ですので、どうぞお持ちください。お部屋にご案内したら、すぐに鞘をお持ちします」
半ばあきらめて、巫女さんのすぐ後ろを歩いていった。
「こちらのお部屋です」
彼女は最後に「聖剣の鞘お持ちします」と言って、部屋から出ていってしまった。
持ったままでいるわけにもいかないので、聖剣は目の前のテーブルの上にそのまま置いておいた。聖剣の柄の長さは30センチほどで長さのわりにやや細身の剣身は90センチ。鍔はかなり大きくしっかりしている。
聖剣というからには、おそらくこの剣もキリアのフレイムタン同様マジックアイテムなのだろう。
俺は誰ともなく、
「俺って、これからどうなっちゃうんだろ?」と、口にしたところ、
「これから、この国の王さまに成るのじゃ」と、こともなげにアキナちゃんから答えが返ってきた。
「そんなに簡単に王さまに成れるとは思えないし、そもそも俺はダンジョンマスターだけで十分で王さまなんかに成りたくないんだけど」
「ゼンちゃんの気持ちなど『継世の巫女』には関係ないのじゃ。『継世の巫女』は聖剣を抜きし者を王と成すことを最大の使命として生きておる。この神殿もそのために存在しておるのじゃからな。この神殿にとって聖剣を抜けない王はかりそめの王。国の儀式だけは執り行なってはいるが、あくまで聖剣を抜いた者こそ真の王なのじゃ」
「善次郎さん、その話、わたしも聞いたことがあります。
この国では子どもたちでもみんな知っている話です」と、はるかさん。
どうする? どうすればいい?
なんとなくいやーな気持ちでソファーに座っていたら、扉がノックされ、お茶の用意のワゴンが女の人によって運び込まれた。その人は巫女服ではなく普通の制服のような飾り気のない服を着ていたので、この神殿の侍女なのだろう。侍女さんの後ろには黒くて長細い箱のようなものを持った先ほどの巫女さんがいた。
侍女さんが、お茶の用意をしているあいだ、巫女さんが、
「これが、聖剣の鞘です」。そう言って、黒い箱を開けて中を見せてくれた。
箱の中に入っていたのは、やや黄色が濃いベージュ色の本体に金、銀で象嵌された見事な鞘だった。
「どうぞ、鞘の中に聖剣をお納めください」
言われるまま、テーブルの上に置いていた聖剣を鞘の中に納めた。まるで抵抗なく聖剣はスルリと鞘に納まった。
木箱の内側はエンジ色のビロード張りだが、ちょうど聖剣を収める形にくぼみが付いていたので、鞘に入れた聖剣は箱の中にしまっておいた。
「鞘にもすんなり聖剣が納まったようですね。その鞘は、エドモンドⅠ世が即位する前、まだ市井の人だった時に聖剣のために当時最高の鞘職人に作らせたものです」
鞘にも大層な謂れがあったようだ。
「何かございましたら、テーブルの上のベルを鳴らして下さい」
そう言って巫女さんは部屋を出ていった。
お茶とお茶菓子を配り終わった侍女の人も一礼して部屋を出ていったあと、すぐに大切な聖剣は箱ごとアイテムボックスにしまっておいた。
「逃げ出すわけにもいかないし、どうしようもないから、お茶でも飲んで落ち着こう」
俺は紅茶のカップを手に取って一口口に含んだ。
「熱ちっ!」
いつもなら、フーフーして少しは冷ましてからお茶を飲むのだが、それさえも忘れていたようだ。俺はかなり動揺だか動転している。
「岩永さん、本当に王さまに成るんですか?」
「うーん。どうなんだろう。
さっきのブラウさんだけど本気だったものな。お付きの巫女さんもそうだけど」
「ですよねー」
「お父さんが王さまに成ったら、わたしたちどうなるんだろう」と、エヴァ。
「王さまの子じゃから王女さまじゃろ?」と、アキナちゃんがさも当然そうに答えた。
「「えーー!」」「「うそーー!」」
「うそも何も、ゼンちゃんが王さまに成ったら、王女さま以外に呼べんじゃろ」
アキナちゃんのそのひとことで、エヴァたちも黙り込んでしまった。
「わらわもゼンちゃんの娘じゃから王女さまじゃ。女神さまで王女さまじゃからわらわも偉くなったものじゃ、ヒャッヒャッヒャ」
出されたお茶菓子はクッキーだったが、アキナちゃんだけがポリポリ食べて上機嫌だった。




