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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第312話 準備と確認と授賞式


 イオナが美術コンクールの西洋画部門で総理大臣賞と文部科学大臣賞を同時に取ったという連絡がきた翌日。


 明日の受賞式を控えて、式の会場のXXXホテルを確かめておくことにした。転移で跳ぶだけの話なので、俺一人で帝〇ホテルの横の道に転移して、そこからタクシーに乗って赤坂にあるXXXホテルに向かった。


 場所さえわかれば、赤坂なんぞに用事はないので、とっとと屋敷に戻った。


 屋敷に戻ったものの、これといった用事はないので、屋敷の中の消耗品を補充して回り、外に出て発電機用の軽油タンクに軽油を補充して、プロパンガスボンベにプロパンガスを補充しておいた。


 気温は下がっているはずなのだが、俺自身はそれほど寒さを感じないというか、全く気温について不快感がない。知らぬ間に皮膚が丈夫になっているのかもしれない。


 つらの皮は歳をとればだんだん厚くなっていくが、俺の場合は面の皮だけでなく体全体の皮が厚くなったようだ。



 昼食時。


「11月に入って寒くなっているはずなんだけど、あんまり寒く感じないんだよな。夏は逆でそんなに暑く感じなかったし。俺の皮膚は気温に対して強くなっているんじゃないかな?」


 気温に対して強くなっているということは、言い方を変えれば、鈍感になっているということだが、悪いことではないだろう。


「わたしもそれは感じています」と、華ちゃん。華ちゃんもそうだったのか。


「あっ! それ、わたしも感じてました」と、キリア。


 そして、


「わらわもじゃ」とアキナちゃんまでそうだった。


「この4人ということは、防具が強化されたのと同じで、俺たち自身がダンジョンを巡っているあいだに強化されてたのかもな」


「わたしたち、黒くなるんでしょうか?」と、華ちゃんが心配そうに聞くので、


「大丈夫。黒くなってもヒールポーションで簡単に治るから」


「そうですよね。よかった」


「ハナちゃんは黒くなるのが嫌なのか? わらわは別に構わんがの。

 キリアも黒くなっても構わんじゃろ?」


「別に気にならないかな」


「人それぞれだからな。黒くなろうとしても、これからもたまにヒールポーションを飲むだろうから、本人にとって一番健康的な肌の色になるだけじゃないか?

 そう言えば華ちゃん、話は変わるけど、次の防衛省での会議どうするかな?」


「どうするとは?」


「俺が日本のダンジョン全部のダンジョンマスターになっただろ。あれって教えた方がいいかな?」


「黙っていた方がいいんじゃないでしょうか。D関連局の人たちが驚くだけでは済まなそうな気がします」


「直径700キロもある、日本くらいの広さの大空洞が1つだけ見つかったって話すのはどうだ?」


「広さなどは何も言わず、20階層まで下りていって、大空洞を見つけた。それくらいでいいんじゃないですか」


「それだけでも、相当インパクトがあるよな」


「グリーンリーフでも、あそこには簡単にはたどり着けませんから、それくらいでいいんじゃないですか」


「今のままだとそうだけど、おそらくコアに頼めば階段の位置も簡単に変えられると思うし、サービスする気になればかなり便宜を図れるぞ」


「なにか、向こうでダンジョンがらみの問題があればその時黙って(・・・)対応すればいいんじゃないですか」


「そうか、そうだよな」


 昼食を食べたあと、デザートにフルーツゼリーを食べ終えた。フルーツゼリーはリサが作ったもので、甘さ控えめだが、上品な味で定番になりつつある。



 午後から俺はコアに聞き忘れていたことを聞くため、コアルームに一人で跳んだ。コアルームの中をメタルバジリスクが徘徊しているのだが、自分の家来と思えば頼もしく感じる。


「コア、教えてもらいたいんだが」


「何でしょう?」


「ダンジョンの目的って何なんだ?」


「それはわたしにもわかりません。生まれたときにはわたしはダンジョン・コアでしたし、このダンジョンもほぼ出来上がっていました」


「そうなんだ」


「ただ、DP(ダンジョンポイント)を得ることはわたしの喜びなので、DPを得るため、いわゆる冒険者を招き入れていく工夫をしていました」


「なるほどな。

 あと聞きたかったのは、転移とアイテムボックスのスキルブックなんだが、作れるかい?」


「転移とアイテムボックスについては作れないこともありませんが、指定スキルでは作れずランダムスキルでしか作れません。転移スキルが出現するのは0.5パーセント以下、アイテムボックススキルは2パーセントです」


 うちのみんなに転移とアイテムボックスのスキルブックを渡そうと思ったが、なかなか厳しいな。


「スキルポイントって分かるか?」


「いいえ、分かりません」


 やはりスキルポイントは別系統のようだ。


「そうか。ならいい。

 それじゃあな」


「はい」


 華ちゃんとキリア用にスキルブックを作らせようかと思ったが、南のダンジョンなり北のダンジョンを探索した時のお楽しみということで止めておいた。


 結局、聞きたいことを聞いただけで、俺は屋敷に戻った。






 美術コンクールの授賞式の当日。


 式は午前11時からなので、10時40分に、日本用の余所行き(よそいき)を着たイオナを連れて、俺と華ちゃんと3人で赤坂のXXXホテルの正面玄関脇に転移した。


 招待状に書かれていた会場の広間に移動したら、椅子が50個ほど並べられていた。係りの人が入り口で受付をしていたので、名まえを告げたら、イオナは部屋の中の最前列に連れていかれ、俺たちは一番後ろの席に座らされた。仕方ないよな。


 俺たちが会場に入った時には席が半分くらい空いていたが、式の10分前には席はちゃんと埋まった。


 5分前に司会が現れ、会場に向け簡単にあいさつした。


 俺の座った位置からでは、イオナの様子は見えないのだが、俺のどのスキルが関係しているのは分からないものの何となくイオナの気配は分かる。イオナはかなり緊張しているが、恐がっているといった感じではないようだ。これなら安心して見ていられる。



 時間ピッタリに司会者がマイクを取って受賞式は始まった。


 コンクールの主催者側からのあいさつが終わり、さっそく各部門の総理大臣賞受賞者の名まえが呼ばれていった。呼ばれた人はステージに上がり、そこで賞状を受け取る。賞状を渡すのは総理大臣の代理で、内閣官房副長官の何某だった。


「総理大臣賞、西洋画部門、岩永イオナどの」


 席に着いていた時から注目されていたようだが、60歳を超えるような受賞者が何人もいる中で、中学生に見えるイオナがステージに立ったことで、会場がどよめいた。カメラマンも会場に入っていてフラッシュが何度もたかれた。


「マズい、カメラ用意しとけばよかった」


「仕方ありませんから、美術館に絵が飾られたところをはるかさんに頼んで写真に撮ってもらいましょう」


 俺たちがそんなことを言っているあいだにイオナは席から立ち上がってステージに上っていった。


「岩永イオナさん、おめでとう」そう言って、手渡された賞状を受け取ったイオナはちゃんと日本語で「ありがとうございます」と、礼を言った。


 イオナは総理大臣賞の賞状を持っていったん自席に戻った。


 総理大臣賞の発表が終わり、次は文部科学大臣賞の発表だ。


「文部科学大臣賞、西洋画部門、岩永イオナどの」


 再度、イオナの名まえが呼ばれたことで、先ほど以上に場内がざわめいた。


 文部科学大臣賞の賞状を渡すのは文部科学大臣だった。


「岩永イオナさん、おめでとう」


「ありがとうございます」



 来賓のあいさつというか講評が終わり、最後に受賞者の集合写真を撮って授賞式は滞りなく終了した。


 式が終了したところで、司会者の案内で、出席者はホテルの中のパーティー会場に移動し始めた。


 俺と華ちゃんはイオナと合流して、みんなにくっ付いてパーティー会場に向かった。


 会場では、先ほどの司会者が音頭を取って乾杯があったが、もちろんイオナにはジュースが配られて、華ちゃんもジュースを手にしている。俺はビールだ。


 乾杯の後、堅苦しいあいさつなどなかったところが実にいい。


 テーブルの上に並べられた料理を適当に小皿にとって食べていたら、次々とイオナのところにおじさん、おばさんたちが詰めかけてきた。おじさんおばさんと俺は簡単に呼んでいるが、いずれもそれなりの芸術家なのだろう。


 イオナにいろいろ質問するのだが、イオナは無難に答えている。たいしたものだ。


 俺たちのことはイオナが簡単におじさんおばさんたちに紹介してくれたのだが、芸術についての造詣など皆無の俺は、軽く会釈しただけで済ませておいた。華ちゃんは俺と違ってちゃんと受け答えしていたようだ。


 こうして、イオナは画壇に彗星のようなデビューを果たした。



 美術館での展示は明日から月末までとなっているので、みんなで見に行くつもりだ。





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