第293話 岩永善吉4、親孝行
親父はうな重を食べて大満足のようだった。シャーベットを食べて、リサが用意してくれた緑茶を飲みながら、
「久しぶりのうなぎ、うまかったー。これだけたくさん食ーたのは10年ぶりくらいじゃ」
みんなと一緒に食べたのもよかったのだろう。
「親父、今日はどうする? ここに泊ってもいいんだぞ」
うちの連中もうなずいている。
「隣に今日は出かけて夕方までに往ぬ言うて出てきちょーけん、もう少ししたら往ぬわ」
「じゃあ、腹が落ち着いたら風呂にでも入ってそれから帰ればいい。俺が背中を流してやるよ」
「うーん。ほんなら、もうちょっこししたら風呂に入ろうかの」
昼食の後片付けも終わり、オリヴィアは華ちゃんについてピアノを弾き始め、イオナは絵画部屋に引っ込んだ。キリアは剣を練習すると言って裏庭に出ていき、エヴァはお金の計算をすると言って2階に上がっていった。はるかさんとリサも2階に上がっていった。
座卓に残っているのは、俺と親父とアキナちゃんだけになった。
「おじいさん、わらわはゼンちゃんに命を救われておる。
そこでオリヴィアのピアノを見ている華ちゃんもゼンちゃんに救われておる。
養女となった6人のうち、わらわは別じゃが、残りの5人は奴隷じゃった。それをゼンちゃんが解放して養女にしたのじゃ。わらわはついでに養女になったのじゃがな」
「そげなことが」
「あったのじゃ。
おじいさんの息子はいい男なのじゃ。誇ってよいのじゃぞ」
「あんがとな。アキナちゃん」
アキナちゃんがそこで嬉しそうに笑った。
30分ほどして、親父を連れて脱衣場にいった。
裸になった親父は俺の覚えていた親父の体と違ってだいぶ肉が落ちていた。昔は畑仕事をしていたが、今は何もしていないのだろう。
軽く掛湯をして二人で湯舟に並んで入った。
「広え風呂じゃのー」
「人数いるからな」
「われとこうして風呂に入ーのは、われが小学生の時以来じゃのー」
「そうだったな」
しばらく二人で肩まで浸かり、
「親父、背中を流してやろう」
「おう」
親父を風呂用の椅子に座らせて、スポンジにボデーソープを付けてごしごしこすってやった。
「どうだ? 強すぎないか?」
「気持ちええ。もっと強うてもええぞ」
ついでに肩まで洗ってやってシャワーで流してやった。
「どれ、儂もわれの背中を流えてやれー」
今度は俺が親父に背中を流してもらった。
気持ちいいー!
そういった感じで背中を流し合い、頭も洗ったところでもう一度湯舟に浸かって風呂から上がった。
親父の体格は俺とそこまで違わなかったので、親父に俺の新品の下着をコピーしたものをバスタオルと一緒に渡しておいた。白いものが半分以上ある親父の頭は坊主頭に近いほど刈り込んでいるので、乾かす必要がない。俺は親父ほどではないが自分でハサミで刈って短くしているのでタオルで拭くだけで済んでしまう。
「その服、ちょっと大きいか?」
「いや、ちょうどじゃ」
風呂上がりにスーツはないので、俺の普段着をコピーしたものを渡しておいた。
「いろんなもんが、宙から湧き出てくーんじゃな」
「勝手に湧き出すんじゃなくて、いちおう、用意したものを出してるだけだけどな」
錬金工房の中でその場で作っているわけだから、用意もくそもないといえばないかもしれない。
「われが、いきなり現れーのもそうじゃが、物が出てくーんも魔法なんか?」
「魔法とはちょっと違うんだが、区別しても仕方ないから魔法と思ってくれてればいい」
「ふーん」
「こういった魔法が使えるおかげで、この屋敷も手に入れたし、日本でポーションを売って儲けてるんだ」
「ふーん。まっ、人さまに迷惑をかけんと生きちょーなら儂は何も言わんけん」
「言い忘れてたけど、ちょっと前にマンションを買ったんだ。親父に一昨日俺宛の手紙がきたら取っておいてくれって頼んだのは登記関係の書類だ」
「ほう。マンションを買あたのか。金はどうした?」
「ああ、即金で払っておいた」
「そういえば、われは大金持ちじゃったんだものな」
「まあな」
親父の着ていたものは紙袋に入れて、そのまま親父の家の居間に転送してやった。
「親父の服は紙袋に入れて家の居間に送っておいたからな」
親父は脱衣場に置いたはずの衣服がなくなっていて驚いていた。
着替えた俺たちは、居間に戻ってしばらく休んでいたら、リサがワゴンにお茶の用意をして居間に入ってきた。親父が土産に持ってきたどじょう掬いまんじゅうを小皿に乗せて、座卓の上に並べていった。みんな集まってきて、座卓を囲み、ひょっとこ顔のどじょう掬いまんじゅうを食べた。久しぶりのひょっとこは甘かったが、美味しかった。
親父も嬉しそうに食べていた。それからしばらくして、親父を送り返そうとしたところで、
「「おじいさん、それじゃあまた」」
「おう。それじゃあな。みんな元気でな。
うちにも遊びにきなぃ」
「「はい!」」
親父を玄関の土間に送って、そこで別れて俺は屋敷に帰った。親父は別れ際に、俺に向かって、
「善次郎、ありがとうな」と、礼を言ってくれた。
帰ってきた居間ではみんなが俺を待っていたので、俺もみんなに礼を言った。
「みんな、今日はありがとう。親父も喜んでたよ」
「岩永さん、親孝行できてよかったですね」
「うん」
「善次郎さんのお父さん、優しそうな人でしたね」
「昔はそうでもなかったんですけどね」
「ゼンちゃん、わらわは温泉旅館にいってみたいのじゃが、おじいさんも一緒に温泉旅館にどうじゃ?」
「そうだな。いきそびれていたから、年末の休みにいってみるか」
「「わーい」」「また踊り食いが食べられる!」「「やったー!」」
後日、親父を含めて10人で座卓を囲んでうな重を食べている絵をイオナが描いてくれた。その絵を額に入れたものをコピーしたあと親父に届けておいた。届けたのはおそらくオリジナルと思う。たぶん。




