第290話 オリヴィア、ブロック大会。マンション購入1
順調にイワナガ運送の宿舎第2棟と第10階層の冒険者用簡易宿舎ができ上ってきた。簡易宿舎については、イオナがポスターを描き終えており、1枚俺がコピーしてバレンとバレン北冒険者ギルドの掲示板の横に貼りだしている。
10月にはオリヴィアのピアノコンクールのブロック大会、次にイオナの絵画コンクール、そして、エヴァの宿舎と簡易宿舎の完成が予定されている。目白押しってやつだ。
まずオリヴィアのピアノコンクールのブロック大会。俺と華ちゃんが前回同様オリヴィアに付き添っている。会場は地区大会と同じ会場だった。
発表曲はショパンの夜想曲第20番とかいう曲だ。前回同様4分ほどしかない曲なのでいささか物足りないのではないかと俺は少し心配したのだが、そんなことはなく、オリヴィアの短い演奏が終わった時、もともと静かだった会場が本当に水を打ったように静かになった。いけるんじゃないか?
その日のオリヴィアの演奏順は午前中の早い時間だったので、演奏の終わったオリヴィアを連れておとなしく屋敷に帰った。
結果発表は7日後、地区大会同様web上で行なわれる。ブロック大会を突破すれば、12月の中旬に横浜での全国大会だ。これの結果も7日後ということだ。全国大会ではショパンの夜想曲第2番を弾くという。
イオナの絵画コンクールというか美術コンクールだが、六本木の国立新美術館に出品申込書と出品手数料を添えて現物を搬入すればいいだけだった。イオナが出品するのは西洋画部門。1次審査で合格すれば作品が美術館に展示され、そこでさらに最終審査が行われ、総理大臣賞を始めとした各賞の受賞作、入選作が選ばれる。
イオナが出品するのは2作品。1つは例の『着衣の善次郎』を油絵にして大きくしたもので題名は『若さ』。もう一つは楽園の風景画で題名はそのまんま『楽園』だ。『楽園』は写実的ではあるが幻想的でもある。俺の素人目でも引き込まれるような何かがある。メラー先生は絶賛しているが、果たして日本の審査員がどう見るかは正直分からない。
イオナの絵の搬入指定日はオリヴィアのブロック大会の翌日だった。俺と華ちゃん、イオナの3人で原宿に一度跳んでそこからタクシーで六本木の国立新美術館に向かった。単純に搬入口で手続きして2作品を置いただけで仕事は終わってしまった。1次審査の結果は1週間後に郵送される。宛先は俺の実家、親父のところにしているので、1週間ちょっとしたら親父のところに顔を出さないといけない。
オリヴィアのブロック大会からちょうど1週間。昼過ぎに俺だけで日本に跳んだ。跳んだ先は俺のアパートだ。台所への上がり口に散らばっていた郵便物を片付けて、台所のテーブルの椅子に座ってブロック大会の結果をスマホで確認したが、まだ発表されていなかった。時間つぶしも兼ねて、さっき片付けた郵便物の中身を確かめてやった。結局不動産とかのチラシのようなものばかりだったので、素材ボックスに突っ込んでおいた。
そう言えば、あと40日ほどでこのアパートの契約期間が切れる。引き払ってマンションを買ってもいいかもしれない。知らない土地でマンション選びは面倒なので、この近くがいいな。期間満了でここを引き払うことを不動産屋に連絡して、この近くにいい出物がないか探してもらう。
ということで、俺は、引っ越しのためアパートの中の荷物を片っ端からアイテムボックスに収納していった。アイテムボックスは便利なスキルだが、特に引っ越しに最適なスキルだと実感した。狭いとはいえ、ものの5分もかからずアパートの中がすっかり片付いてしまった。部屋の薄いカーテンは不動産屋の確認の時に外せばいいな。
普通なら引越し先が決まってから退去するのだろうが、俺の場合は引っ越し荷物は全部アイテムボックスにしまっておけるし、ニューワールドに屋敷があるので、そういった制約はいっさいない。
1カ月前に退去するむね知らせる必要があるので、退去予定日は契約が満了する日として不動産屋に退去日を知らせておいた。
次に水道と電気、ガスを止めてもらおうと電話したところ、1カ月先までしか予約できないと言われてしまった。忘れてしまいそうだ。
せっかくマンションを買うのだから、全員で寝泊まりできる方がいいかと思うが、ここらで売りに出ているマンションではおそらくそこまで大きなものはないだろう。将来、日本で活躍するかも知れないオリヴィアやイオナが使えばいいか。俺にとっては大きな買い物というわけではないが、屋敷に帰ったら、華ちゃんとはるかさんにマンションの件を相談してみるとしよう。
そんなこんなの作業を終えて再度スマホでオリヴィアのブロック大会の結果を調べたら、結果が発表されていた。
「岩永オリヴィア、岩永オリヴィア、……、あった!」
俺はアキナちゃんではないが、ニヘラ笑いしながら、アパートの戸締りを確かめて屋敷に跳んで帰った。
俺が居間に現れたところで、ピアノを弾いていたオリヴィアと傍に立っていた華ちゃんが俺に気づいた。オリヴィアがピアノを弾く手を止めたところで、
「オリヴィア、ブロック大会通過してたぞ! やったなオリヴィア」
「お父さんと、ハナお姉さんのおかげです」
「オリヴィアちゃんが頑張ったからだから。次は全国大会。あと2カ月がんばろう」
「はい!」
その日の夕食はお祝いムードだったが、まだイオナの結果が分からないのではしゃぐというほどでもなかった。
子どもたちの勉強時間が終わって、みんなそろってデザートのショートケーキを食べながら、華ちゃんとはるかさんに、マンションのことについて意見を聞いてみた。
「俺のアパート契約がもうすぐ切れるから、どうせならマンションを買おうと思っているんだけど、どうかな?」
「場所はどのあたりを考えているんですか?」
「俺のアパートの近く」
「あの近くがいいんですか?」と、華ちゃん。
「知らない土地に引っ越すのも面倒だから、あの近くでいい出物があればな」
「広さはどれくらいを考えているんですか?」と、今度は、はるかさん。
「みんなであっちに住むには相当広くないとだめだけど、そうなると出物がないと思うんですよ。なので、4LDKくらいかな。持っていれば何かの時使えるし、将来、イオナやオリヴィアが日本で活躍するようになるかもしれないからあってもいいかなって感じです」
「そうですか。高認(高等学校卒業程度認定試験)を通れば大学受験もできるから、もし大学に通いたいならいいかもしれませんね」
「ネットで確認して不動産屋に連絡すれば、何とかなるんじゃないかな」
結局あれこれ考えても、物件を見なければ分からないということになり、明日ははるかさんの学校も休みなので、華ちゃんとはるかさんと3人で朝から俺の街に跳んで、物件を探そうということになった。




