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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第284話 オリヴィア、音楽コンクール地区大会


 8月に入った。しょっぱなに、オリヴィアのピアノコンクールの地方予選があった。


 オリヴィアにはこの日のためにセミロングのドレスを作っている。もちろん華ちゃんが見立てたものなので、立派なものだ。肩の出た濃いエメラルド色のワンピースに黒いエナメルの革靴だ。靴はピアノ演奏用のものでピアノシューズというのだそうだ。


 同じ型のドレスでサファイヤブルーのものと真っ赤なものも作ってやった。それぞれ、ブロック大会と全国大会用だ。何かあってもいいようにコピーもしているので、安心だ。汚れてしまったりしわになってしまってクリーニングの白洋○に出すくらいなら、素材にしてコピーを新しく作った方が楽だしな。


 ドレス姿で一度オリヴィアにグランドピアノを演奏させた。その姿をイオナが油絵にしてくれている。イオナの絵画コンクールに何を出品するのか分からないが、手数料を払えば応募だけは何作品でも可能なので、2、3作品応募すればいいと思っている。



 ぞろぞろと会場にいってもマズそうだったので、俺と華ちゃんだけオリヴィアの地区大会の会場にいった。


 オリヴィアの演奏は午前の最後だった。オリヴィアのエントリーした一般部門では地区大会の演奏時間は5分しかない。華ちゃんとオリヴィアが地区大会のために選んだのは、ラベルの「クープランの墓」より"トッカータ" とかいう曲だった。何でもちょっとくらい技巧を見せておこうということで、演奏時間との兼ね合いからこの曲を選んだそうだ。


 どう見ても中学生か高校生にしか見えない上、外国人に見えるオリヴィアだ。しかも、たかだか地区大会の演奏のためにドレスまで着込んでいる。見た目だけで、相当注目を浴びたと思う。


「一般部門30歳以下、岩永オリヴィアさん」と、オリヴィアの名まえが呼ばれた。


 舞台の袖から緊張した面持ちでステージ中央に現れ、会場に向かって一礼したオリヴィアだったが、ピアノの椅子(キーボードベンチ)に座ったとたん表情から緊張感がとれたようだ。


 出だし、居間で練習していた時と変わらない演奏と思って聞いていたところ、演奏が始まって1分ほどで、それまでどことなく落ち着かない感じがしていた会場が、静まり返ったような気がした。親の欲目ではないと思う。それにピアノの音もこれまでの演奏者の演奏などとは比較にならないほど力強くはっきりと聞こえた。


 演奏が終わり、オリヴィアが席から立ち上がって会場に向かって一礼して、ステージの袖に消えていった。コンクールでの拍手はマナー違反だそうで他の演奏者同様拍手はなかったが、


「華ちゃん、今のオリヴィアの演奏良かったんじゃないか?」


「はい。完璧でした。前半少し緊張していたようですが、後半は気持ちが乗っていたようです」


「相手は全員オリヴィアより年上だけど、地区大会通るかな?」


「審査員がちゃんとした耳を持っていれば必ず通ります。この地区大会では順位は出ませんが、これまで聞いた中では1位です。もちろん、オリヴィアちゃんのエントリーした一般でも1位です。動画提出でのエントリーも多いでしょうが、問題なく地区大会は通過します」


「華ちゃんのお墨付きなら安心だな。

 オリヴィアがここに帰ってきたら、どこかにいって食事しよう」


「そうですね」



 5分ほどして、オリヴィアが観客席の出入り口に現れたので俺と華ちゃんで迎えて、そのまま、待合の方に移動した。


「オリヴィアちゃん、すごく良かったよ」


「ハナお姉さんありがとう」


「オリヴィア、なかなか良かったんじゃないか」


「お父さんもありがとう」


「そろそろ昼だから、どこかで食事して帰ろう」


「はい」


「何にするかなー。跳んでいけるのは、銀座、東京、新宿、原宿、俺の街と隣り街だな。あと熱海と秋葉原もあった。俺の実家じゃ仕方ないしな。

 そうだ、帝○ホテルのカレーはどうかな?」


「オリヴィアちゃんはドレスだから、カレーは止めた方が良くないですか?」


「コピーで新品が簡単に作れるから、汚れても平気なんだがな。

 とはいえ、汚れること前提でカレーもないな。

 それじゃあ、浅草に跳んでとんかつにするか」


「いいですね」


「オリヴィアはとんかつでいいか?」


「はい!」



 俺たちは以前入ったことのある浅草のとんかつ屋の店の前に跳んだ。


 店の中に入ると、ちょうど4人席が一つだけ空いていたので、そこに座った。いかにもなドレスを着たオリヴィアにみんな驚いていたが、コスプレイヤーとでも思ったのかもしれない。


 3人ともミックスフライ定食を頼んだ。もちろん美味しかったよ。




 地区大会の翌日から、俺と華ちゃんは昼食前、日本に跳んで地区大会の結果が発表されていないかスマホで確認した。大会から4日目、地区大会の通過者がweb上で発表された。もちろんオリヴィアの名まえがあった。


 昼食時、オリヴィアが地区大会を無事通過したことをみんなに報告した。


「「オリヴィアおめでとう」」


「みんな、ありがとう」


「オリヴィア、次の何とか大会も、わらわがついておるゆえ安心しておればいいのじゃ」


 アキナちゃんがニヨニヨ笑いながらオリヴィアを励ました。


「うん。アキナちゃんありがとう」




 華ちゃんが翌日に次のブロック大会のエントリーを終えている。ブロック大会は10月の中旬だ。ブロック大会も曲は自由だが5分程度なので、ショパンの夜想曲ノクターン第20番というのを演奏することにしたそうだ。決勝である全国大会では、これもショパンの夜想曲第2番を演奏するそうだ。全国大会では技巧もさることながら、音の表現が大切だそうで、誰でも知っている曲で差をつけると華ちゃんが言っていた。俺も曲名は知らなかったがもちろん聞いたことのある曲だった。




ラヴェル「クープランの墓」より"トッカータ"

https://www.youtube.com/watch?v=cIUzglet-k0


ショパン、夜想曲第20番「遺作」

https://www.youtube.com/watch?v=dOSsitOK44s


ショパン、夜想曲第2番(演奏フジ子・ヘミング)

https://www.youtube.com/watch?v=CJV4l0cnNO4


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