第283話 バレンダンジョン本道整備。
7月も下旬に入りイワナガ運送の宿舎の第2棟の建築が始まった。10月中旬に完成する予定だ。第10階層からの運搬も堅調だ。はっきりとは分からないが、徐々に第10階層辺りで活動する冒険者が増えてきているのではないだろうか。
バレンの奴隷商会では読み書きのできる孤児奴隷が揃わなかったため、よその街からバレンの奴隷商会にいったん移された孤児奴隷を含めてエヴァが4名購入している。4人は、会計係がまだ配属されていない4つのチームに割り振った。
ゴーレム列車のための第1階層での作業員については、あらたな宿舎ができるまで、ダンジョン近くの安宿を使わせることにして8名エヴァが雇った。追加で孤児奴隷4名も新たに雇っている。この12名の宿の代金はイワナガ運送が持つ。いわゆる借り上げ社宅だ。食費の補助も出すそうだ。至れり尽くせりかもしれない。
そして、今日はゴーレム列車の営業開始日。
午前8時、第1階層から3両編成のゴーレム列車が第10階層に向けて出発した。その後は1時間ごとに発車する。この日23時の発車分まで無料としている。ダンジョン内では時刻が分からないので、電池式置時計を魔道具と称して各作業場に予備も含めて2つずつ置いている。
明日0時以降の料金は、第1階層から第10階層が1名(1マス)銅貨50枚、2人乗り可。第10階層から第1階層が1名(1マス)銅貨100枚=銀貨1枚としている。
冒険者ギルドの壁にちゃんと宣伝用ポスターをはったおかげで、第1列車は満席で発車した。
8時に出発した列車の第10階層への到着予定時刻は9時30分。そこで折り返し、10時に第1階層に向けて出発して11時半に第1階層に到着する。到着した列車は12時出発の列車になる。
第10階層では8時、9時とゴーレム列車を第1階層に送り出し、第1階層に到着すると10時、11時発車の列車になる。
ということで、全部でゴーレム列車は4列車必要だが、第1階層、第10階層どちらにも1列車予備を置いている。
今のところ1列車は3両編成の9マスだが、需要が増していけば4両、5両と編成を増やしていくことは簡単だ。
問題は、列車が走行中、向かいから荷物運搬のゴーレムとすれ違ったり、先を進むゴーレムを追い越す場合、本道とはいえ洞窟がそれほど広くないので、ほかの冒険者の通行の邪魔になることだ。
なので、ダンジョンの本道を階段を含めて第1階層から、第10階層まで拡幅することにした。勝手にやってしまってはマズいと思って、冒険者ギルドにエヴァと一緒に顔を出して許可を貰おうとしたのだが、バレン北ダンジョンは誰が管理しているわけでもないので勝手に拡幅でも何でもしていいと言われてしまった。
洞窟を広げて崩落事故でも起こしたら大変だが、しっかりした岩盤に見えるし、階段前後の空洞の広がりから見て、洞窟を少々拡幅するくらい何でもないだろう。創作の世界ではあるが、ダンジョンが罠以外で崩落したとか見たことも聞いたこともないからな。
冒険者ギルドから許可?が出たので、俺はさっそく本道の右側の岩壁を深さ3メートルほどでアイテムボックスに収納することで拡幅して、ついでに洞窟の出っ張りを収納することで路面を平たくする拡幅工事を始めることにした。
最初から本道で試して失敗するとマズいと思い、一心同体のメンバーを連れ第4階層の枝道で練習してみた。華ちゃんがライトからデテクトなんちゃらを唱え危険がないことを見極めて、100メートルほど、高さ4メートル、幅6メートルの長四角の断面に洞窟を整形してみた。だいたい10メートルおきに洞窟をその形になるように削っていったのだが、最初の4回は若干いびつになった。それでもそれから先はきれいな直線通路ができ上った。
「こんなものでいいな」
「ここだけ、きれいになってしまいましたね」
「さすがはお父さん」
「ゼンちゃん、こうなったら全部削ってきれいにしてやってはどうじゃ」
「そのうちな。
だいたいコツは掴んだ。それじゃあ第1階層に跳んでそこから下に向かっていこう」
第1階層に跳んで、本道の拡幅を始めた。しばらくやってみたところ、拡幅はいいのだが、行き交う冒険者の数が多くて、路面を平たくするのが結構大変だった。
洞窟が広くなった上に路面の凸凹がなくなったことに冒険者たちが目を瞠る中、気にせず俺は作業を続けた。見た目は誰かが作業しているようには見えないので、冒険者たちは勝手にダンジョンが変形したものと思ったろう。
それでも、ゆっくり歩く速さで本道の拡張整備を進めていき、30分ほどで第2階層への階段の空洞に到着した。作業そのものは俺一人で十分なので、華ちゃんたち3人に屋敷へ返そうかと言ったが、みんなついてくるというので、そこからも3人を連れて作業を続けた。
階段の拡幅が鬼門かとも思ったが、ステップの上っ面に合わせて階段状にそのまま右の壁を3メートルほど収納してやったら、簡単に収納できた。拡幅だけなので階段を上り下りする人には関係なく、洞窟の通路の拡幅整形より却って楽に作業ができた。
第2階層からも何事もなく作業が進み、11時には第5階層の作業場に到着した。作業員たちにあいさつして、ついでに飲み物も置いてやった。ついでに空洞の路面も削ってやった。
第6階層からの階段下の第7階層の空洞に到着したのがちょうど12時だったので、空洞の隅で昼食をとることした。
4人で車座になってハンバーガーを食べながら、
「もうこんなところまできちゃったけど、ホントにすごいですよね」と、華ちゃん。
華ちゃんとキリアは炭酸水を飲んでいる。アキナちゃんと俺はコーラだ。
「天盤を柱なんかで支えたりしないから簡単だったけどな。これが本当のトンネル工事だったらこんなに簡単じゃないだろう」
「だけど、あれだけの量の岩?を岩永さんはアイテムボックスに入れちゃったんですよね。一杯になるってことはないんですか?」
「一杯にならないってことはないと思うけど、まだまだいくらでも入りそうだな」
「わたしの魔術も大概だと自分でも思っていますが、岩永さんって、アイテムボックスの他に転移もあれば錬金術もある。いい意味でメチャメチャですよね」
「さすがはお父さんです」
「そういったスキルを手に入れることができたし、華ちゃんにも巡り合えたし、キリアたちや、アキナちゃんにも巡り合えた。運だけは良かったんだろうな」
「なんだか、ゼンちゃんの今の言葉は、いまわの際の言葉のようじゃの」
「そんなことはないはずだがな。
もう少し休んだら、再開するか」
久しぶりに、桃のシャーベットを最後に食べて、紙くずなんかを片付けて、作業を再開した。
結局2時半過ぎには第10階層の作業場空洞に到着できた。
作業員たちにあいさつして好きな飲み物を渡し、そこでも、路面を平らにしてやった。
実測したわけではないが、ある程度ゴーレム列車も速くなるだろうし、荷物運びのメタルゴーレムも動きが良くなるだろう。もちろん、一般冒険者も移動が少し楽になるだろう。




