第279話 宿舎完成。足立と下村と火野1
メタルゴーレム列車の試乗が終わり、一心同体用のカスタムも済んだ。実戦はまだ先になるが、いいところだろう。
翌日。
俺はエヴァを連れて、イワナガ運送の宿舎の建設現場に跳んだ。現場では作業員たちが声を掛け合って立ち働き、資材を運ぶ荷馬車がひっきりなしに出入りしていた。
建物の方は、柱が立ち上がって屋根を葺いているところだった。屋根が終われば壁を塗ってそれから内装か。
「エヴァ、ここもだいぶ形になってきたな」
「はい。でもまだあと2カ月近くかかります」
「それでも、2カ月だ。楽しみだな。
この先どんどん事業が大きくなっていくんだろうけど、しっかりな」
「はい。お父さん」
「ダンジョン関係で何かあるようなら言ってくれよ。できることはするから。
ダンジョンじゃなくても何かあればな」
「はい。でも、お父さんにばかり頼るわけにはいかないので、自分でできることは自分でやっていきます」
「そうか、そうだな」
エヴァに限らず、うちの子どもたちは一人一人がこうやって大人になっていくんだろう。頼もしいし、嬉しいが少し寂しいような気もするな。
工事は順調のようだったので、そのまま俺たちは屋敷に跳んで帰った。
それまであまり意識していなかったが、気が付いたら、俺がニューワールドにやってきて1年が経っていた。拉致召喚されたのは、ずいぶん昔、4、5年前のような気がする。非常に濃い1年だったというべきか、1年で4、5年分歳をとったというべきか。
とにかく有意義な1年だった。そう言えば華ちゃんも俺と一緒に拉致召喚されたわけだから1年になるのか。毎日顔を合わせているから変化に気づかないが、少しずつ華ちゃんも大人になっているんだろうな。
子どもたちを買ってからも1年だ。定期的にヒールポーションを飲んで病気を予防しようと思っていたので、忘れないうちに、全員にかなり高級なヒールポーションを飲ませておいた。これで気づかぬうちに体の機能が衰えていたり、病におかされていたとしても完治したはずだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
6月に入った。
善次郎の屋敷では、自衛隊員が出向いてくれて、発電機の整備を含め電気周りの点検と浄化槽の清掃を行なっている。もちろん人員や資材などは善次郎が転移で運んでいる。
浄化槽の清掃については、善次郎がその気になれば、アイテムボックスの中に汚水を収納し、さらに有効利用までできたのだが、結局その気にならないまま1年経ってしまったようだ。
日本のダンジョンでは、土日、祝祭日の入場制限が撤廃されている。入場者数は増加していったが、冒険者の活動範囲も広がった関係で、ダンジョン内が混雑することもなく、またモンスターの出現数も予想通り増加していた。一部から乱獲によってダンジョン資源の枯渇が心配されたが杞憂だったようだ。
7月に入り、日本ではこれまで、第1から第3ピラミッド=ダンジョンのみ公開されていたが、第4から第10ピラミッド=ダンジョンが公開された。
足立と下村の高校では期末試験も終わり、1学期が終わろうとしていた。二人は1学期の間、昼食後の休憩時間、雨の日以外は休むことなくランニングを続けており、自宅では、バットの素振りを欠かすことなく続けていた。体力がついていると二人とも自覚している。これまで、6度ダンジョンに入っており、その都度何がしか獲物を斃している。
モンスターの買い取り価格は、当初の価格の半値近くまで下がっていたが、それでも二人はかなりの収益を上げている。
その日、期末テストの最後の答案を返してもらった足立と下村は、放課後二人揃って教室を出ようとしたところで、後ろから女子に呼び止められた。振り返ると帰り支度を終えた火野だった。
「ちょっと、足立と下村、待ってよ」
「火野?」
「一緒に帰ろう」
「あ、ああ」
足立と下村は、いやだと断わるわけにもいかないし、火野に何か用事でもあるのかと思っていたところ、
「二人とも、わたしに付き合ってくれない。駅前のドト○ルおごるから」
駅前のドト○ルは少し遠いが、高校生が気兼ねなく入っていけるコーヒーショップだ。
店まで歩きながら、
「二人とも期末試験どうだった?」
「いちおうそこそこの点数だった」「俺もかな」
「わたしは夏休みの補習を受けるって程じゃないけど、今度の試験はちょっと悪かった。期末試験の勉強ほとんどしていなかったからね」
「火野が勉強をサボるとは、珍しいな」
「お店にいったらそこらへんのこと話すわ」
その後は、当たり障りのない話をして、3人はドト○ルの中に入った。
「二人とも、コーヒーでいい?」
「ああ」「うん」
「コーヒーみっつ」
火野が3人分を支払った。
各自コーヒーと砂糖とミルクとスプーンをトレイに入れて、店の一番奥の席に座った。
3人ともコーヒーにミルクと砂糖を全部入れ、コーヒーをスプーンでかき混ぜながら、
「それで火野。わざわざコーヒーまでおごってくれて、俺たちにどういった話なんだ?」
「学校の誰にも言っていなかったんだけど、実はわたし、先週の日曜日に冒険者資格とったの。4度目の受験でやっと合格したわ」
「ほんとかよ。とにかくおめでとう」「おめでとう。先週って期末中じゃないか」
「ありがとう。試験期間中に受験したのはちょっとマズかったけど、どうしても夏休み前までに資格を取りたかったから。
それで、いつか頼んでたでしょ。わたしが冒険者の資格取ったら仲間にしてもいいか考えるって」
「そうだったな」
「ちゃんと覚えている。
夏休みは明後日からだから、明後日一緒にダンジョンに入ってみよう。そこで俺たちに全くついてこられないようなら諦めてもらうしかないな。それならいいか?」
「うん。それでいい。ありがとう」
「火野は装備をもう揃えてるのか?」
「まだなの。よかったら、わたしの装備を揃えるの手伝ってもらいたいんだけど」
「それくらいなら、手伝うよ」
「それじゃあ、明後日、まずは装備を整えて、それからダンジョンだ。ダンジョンの中で昼食になるから、飲み物だけじゃなく、食べ物の用意はしておけよ」
「うん。わかった」
「明後日の集合場所は、ワーク○ンの前、9時でいいか?」
「あそこって、朝早いんじゃなかった? 朝8時でもいいんだけど」
「じゃあ、8時に」
「何も明後日じゃなくても、明日は終業式で学校はすぐ終わるから、明日帰りに装備を見てみるか」
「その方がいいな。明日学校帰りにワーク○ンで防具を見繕って、それからダンジョン前の武器販売所で武器を買おう。火野、武器販売所じゃ免許が必要だから忘れるなよ」
「もちろん」
「ところで、火野はどういった武器を使おうと思ってるんだ?」
「何も考えていないけど、わたし体が小さいからなるべく軽いものがいいと思ってる」
「そうか」
「二人はどういった武器を使ってるの?」
「俺たちは二人ともメイスだ」
「そうなんだ」
「もう少し間合いがあれば良かったんだが、最初、今のメイスを買う金しかなかったんだ。それで選んだ」
「間合いって?」
「踏み込みも含めて一つの動作で武器が届く範囲って意味で使っている」
「ふーん」
コーヒーを飲み終えた3人は店を出て、
「じゃあな」「それじゃあ」
3人は各々の自宅に帰っていった。




