第272話 イワナガ運送事業拡大
はるかさんの学校は順調に滑り出した。
はるかさんは学校の校長先生だが経営者ではないので、理事長である俺が給料を払う必要がある。はるかさんは、食、住を与えられているということで辞退したのだが、そうはいかない。
ということで、月額金貨10枚と日本円で50万円。賞与は日本円だけで6月と12月の年2回、それぞれ月給の3か月分に当たる150万円ということにしておいた。ちょっと高いかもしれないが、10年間は据え置きだ。何故かというと俺が払うのが面倒だったので、10年分一度にはるかさんに渡すことにしたからだ。年間金貨120枚、日本円900万円。10年分で金貨1200枚と日本円9千万円。日本円については切りのいいところで1億円、振り込みではなく現金で渡しておくことにした。
銀行に電話して翌日引き出すから1億用意しておくよう伝えたところ、うるさく色々聞かれたが、俺の預金額を確認したのか、急に下手に出て「岩永さま、かしこまりましたー! これまでごあいさつにも上がらず誠に失礼しました。明日お待ちしております!」ということで話はついた。
1億円を銀行に受け取りに行ったとき、華ちゃんも付いてきたのだが、華ちゃんはその時、オリヴィアのピアノコンクールとイオナの絵画コンクールの資料を集めていた。ちなみに1億円と言っても10キロしかないので大したものではなかった。受け取った1千万円の束10個はイワナガ運送用にエヴァが用意したリュックに詰めて銀行から持ち出した。
エヴァの事業はますます好調で、運搬が楽になった分冒険者の負担が減り、第5階層周辺階層での冒険者の活動が活発になったようだ。冒険者ギルドから将来的には第10階層あたりから荷物の運搬はできないかと打診されたそうだが、ダンジョンに入ってからでも第10階層まで下りていくには片道だけで3時間以上かかるため、何か作業員の移動手段として新機軸を考案しない限り難しいだろう。
俺たち一心同体は、北のダンジョンの第5階層までしかいったことがなかったので、俺がいつでも転移できるよう場所を確認してやろうと、みんなで第10階層まで潜ってみることにした。
エヴァも様子を見ていた方がいいだろうと思い、エヴァも連れていくことにした。俺たちが付いている以上危険はないがヘルメットだけ被らせておいた。もちろん俺や華ちゃんのヘルメットと同じミスリルのヘルメットだ。
ということで、俺たち一心同体とエヴァは、屋敷の居間から北のダンジョンの第5層のイワナガ運送の作業場まで跳んだ。
そこで、作業中のイワナガ運送の作業員2人に声をかけ、差し入れにミカンを10個ほど置いてやった。指で皮がむけて簡単に食べられるミカンに驚いていた。すぐに、冒険者パーティーが荷物の運搬を頼んできたので、二人は作業に戻った。
「それじゃあ、どんどんいこうか」
「「はい」」「おう」
「エヴァは疲れたら早めに言ってくれ。スタミナポーションを飲めばすぐに回復するから」
「はい」
今回の隊列は、華ちゃん、キリア、アキナちゃん、エヴァ、俺の順だ。俺はエヴァの様子を見ながらサポートするつもりだ。
俺たちは人通りのある主要路を進むので、華ちゃんはデテクトライフは唱えず、デテクトアノマリーだけで洞窟ダンジョン内を進んでいった。前方から冒険者パーティーが数分ごとにやってくる。
確かに以前より冒険者の数が格段に多くなっている。イワナガ運送が繁盛するわけだ。
モンスターに出会うこともなく第5階層の本道を進むこと20分ほどで、第6階層への階段が見えてきた。
「入り口から第10階層まで速くても3時間はかかるようだと、1日3交代じゃ無理ですよね」と、エヴァ。
「行き帰り6時間で8時間仕事するのはちょっとな。1日4交代だと、6時間移動で6時間仕事か。それでもきついな」
「そうですね」
「エヴァ、きっとゼンちゃんが何とかしてくれるのじゃ。
そうじゃよな?」
「できる限りのことはするけどな」
「ゼンちゃんがそう言っている以上、エヴァは大船に乗った気持ちでいればいいのじゃ」
「お父さん、無理はしなくていいですから」
エヴァに気遣われてしまった。
「任せてくれとまでは言えないが、なにかいい案がないか考えてみるよ」
そういった話をしながらダンジョンの本道とおぼしき洞窟を順調に進んでいき、予想通り第5階層から第10階層まで1時間半ちょっとで到達した。
エヴァもこの程度のダンジョン歩きではへばらなかったようだ。
第9階層から階段を下りた先の第10階層の空洞は、これまでの階段前後の空洞よりもだいぶ広かった。100メートル四方はありそうで、イワナガ運送の作業場にするだけではもったいないほどだ。
「ここで少し休憩してから屋敷に帰ろうか」
「「はい」」「そうじゃな」
みんなで適当に空洞の路面の上に腰を下ろしたところで、各自の要望通り飲み物を配って、一休みした。
「ここの空洞はずいぶん広いな。これだけ広ければ、店屋も開けそうだ。水や食料などの消耗品を置いておけば、冒険者たちの活動範囲がさらに広がる。
ゴーレムは今片荷だから、帰り道、水や食料などを積み込んで運べば店が成り立つものな」
「ここに店ですか。
店もいいけど、ここに簡易宿舎を建ててもいいかも?」
「それもいいんじゃないか。モンスターがどっかから湧いてやってきても、メタル大蜘蛛を2、30匹でガードしておけばたいていのモンスターは斃せるだろうし、運送用のメタルゴーレムも何体かはいることだしな。そのうちもっと強力なモンスターを斃すこともあるだろうからソイツでフィギュアを作ってメタルモンスターにすれば万全だ。バジリスクのフィギュアはあるけどあれを置いておくと客がこなくなりそうだから止めておいた方がいいな」
「夢が膨らみます」
「エヴァの夢はきっと叶うのじゃ。わらわが保証する」
「アキナちゃん、ありがとう」
「ここのダンジョンも第15階層からは石組型のダンジョンだそうですが、そこまでいく冒険者はごくまれだそうです。泊りがけの装備をしてまでたどり着いても、装備が重い分持ち帰る重量が減るわけですから、うまみが少ないんでしょう。ここに店とか宿泊所ができれば一気に15階層より深いところでも冒険者が活躍するでしょうね」と、華ちゃん。
「だろうな。
第10階層、更に第15階層までエヴァのイワナガ運送の営業範囲が広がれば、冒険者たちの活動範囲が飛躍的に広がっていくよな。
そうすれば、街も今まで以上に発展できる。これって、すごいことだな」
「そうですね。お金儲けも大切ですが、他の人のためになっているって大切ですよね。
エヴァちゃん、感心するな」
「えへへ」
「まったくだ。
俺たちも、いくらかは世の中の役に立てればいいが、あまり気にしても仕方がないし、おいおいやっていこうぜ」
「「はい」」「やっていくのじゃ!」
「ここはこんなところでいいか」
飲み物の入れ物を回収してから、俺はみんなを連れて屋敷に帰った。




