第271話 学校4、始業式と授業開始
学校の引き渡しも終わり後は入学式を待つばかりだ。
授業料は月銀貨1枚徴収することにしている。これは、ただのサービスはそれだけのサービスであると思われることを避けるためで、どういった形になるか不明だが、はるかさんは生徒に還元するつもりのようだ。
4月に入り入学式の日になった。
9時からの入学式なのだが、そもそも入学式という行事がこの国にあるのか分からなかったので、当日は8時50分に集合、持参するものは、タオルと水筒ということだけ商業ギルドを通じて生徒たちの保護者に伝えている。
8時30分ごろから、保護者に連れられて生徒たちが学校の門を通って校舎の前に集まり始めた。20人の生徒の内訳は男子10人女子10人ということでうまく揃っている。
8時50分近くになったところで、玄関前に集まってくれるよう俺が大声で案内した。
はるか校長は、玄関前の一段高い台の上に立っている。
保護者に連れられた生徒たちがいちおう玄関前のはるか校長の前に並んだところで、
「みなさんおはようございます」
はるか校長ががあいさつしたが、保護者を含め誰もあいさつを返さなかった。これはちょっと多難かもしれない。
そして、はるか校長が再度、
「みなさんおはようございます」と言ったら、やっと反応があり、保護者を含め半分くらいから「おはようございます」と返ってきた。
さして、はるか校長は3度目の「おはようございます」
「「おはようございます」」全員があいさつを返した。
「わたしがこの学校の校長先生のハルカ・キノウチです。みんなよろしく!」
「「よろしくおねがいします」」。今回は一度で反応があった。教育だなー。
「そして、この方がこの学校の理事長のゼンジロウ・イワナガさんです」
俺まで紹介されてしまったので、
「ゼンジロウ・イワナガです。みなさんよろしく」
「「よろしくおねがいします」」。さすがに俺の時は一度であいさつが返ってきた。声の大きな子もいれば小さな子もいる。俺の小学校時代を思い出してしまった。
あいさつのあとは、はるか先生から授業内容の説明が始まった。
「今日からみんなと一緒に勉強していくわけだけど、勉強の内容は、読み・書き、算数、そしてソロバンっていう道具を使っての計算になります。
この中で、読み書きに全く自信がない人もいるかも知れないけど、心配しないで。みんな読み書きができるようにしてあげます。
算数というのは、ものの数を数えたり、足したり引いたりすることだけど、これも簡単にできるようになります。そして、最後のソロバンだけど、ソロバンを使うことで数を足したり、引いたりが格段に速く正確にできるようになります。将来商人になる子もいるでしょうし、役人になる子もいるでしょう。重宝すると思います。
それでは、保護者の方はお帰りになって、生徒たちは、わたしについてきてください。教室に案内します」
保護者と別れた生徒たちが心配そうな顔をしながらも、はるか先生の後について学校の玄関の中に入っていった。俺も生徒について最後に校舎の中に入っていった。
教室の前にかけられたホワイトボードには席順に生徒の名まえがマーカーで書かれている。もちろんホワイトボードは俺が準備したもので、白板消しと黒、青、赤のマーカーが2本ずつ置かれている。教壇と教卓も俺が準備している。教卓の引き出しの中にはマーカーの予備が入っている。
生徒たちの机の上には小さな白板と黒のマーカーが2本と白板消しが1つ置いてあり、机の天板の下の物入れには読み書き用の教科書と算数の教科書、それにソロバンとソロバンの教科書が入っている。
「教室の前に張ってあるこの白い板を白板って言います。この白板に字や絵をかいて勉強していきます。
いまここに、みんなの名まえが書いてあるんだけど、自分の名まえが読めるかな? 自分の名まえが読めた子は手を挙げてみて」
みんな手を挙げた。名まえは全員ちゃんと読めるということが分かっただけでも収穫だ。
「みんな自分の名まえが読めたみたいだから、その名まえが書いてある順番に椅子についてください」
最初生徒たちは戸惑っていたが、名まえの順に席に着いていった。
最後の生徒が席に着いたところで、
「まずはみんなの机の上を見てください。
机の上には、ちいさな白板が1枚置いてあると思います。
白板の置いていない人は手を挙げてください」
もちろん誰も手を挙げなかった。
「白板の上には、黒いフタの付いた白い棒が置いてあると思います。それはマーカーと言います。
その黒いところを引っ張ると、白い棒から抜けて中から細くて黒い小さな棒が出てくると思います。皆さん蓋を引っ張って中を見てください」
生徒たちがマーカーの蓋を抜いた。
「中から出てきた黒い小さな棒を白板の上に当てて線を引いてみてください。黒いところは指で触らないでね」
みんな白板に線を引いた。中には指でマーカーの先を触って指先を黒くしてしまった子もいた。
「そうやって白板の上に字を書いて練習していきます。
マーカーと一緒に硬くした布のようなものが着いた長四角があると思います。
それが白板消しで、その布の部分で白板をこするとマーカーで書いた字が消えます。
さっき書いた線を白板消しで消してみましょう」
生徒たちが白板消しを使ってマーカーで書いた黒い線を消した。さっき指先を黒くしてしまった子は白板消しで指を拭いていた。まだ新しい白板消しだったのできれいに消えたようだ。
「いいですね。
それじゃあ、みんな、机の中を覗いてください。
中に本が3冊と、変な形の器具が入っていますね?」
「「はーい!」」
ちゃんとみんなが返事をしてくれた。偉いぞ。
「それでは、3冊の本のうち、この表紙の本を取り出して机の上に置いてください」
はるか先生が手にしているのは、読み書きの教科書だ。
みんなが机の上にこくごの教科書を置いた。
「表紙を開いてください。
文字の読み書きはできる人もいると思いますが、今日は文字の練習をしていきます」
そこから、はるかさんが教科書通り白板の上にこの国のアルファベットに当たる文字を一つずつ書いていった。
「みんなは声を出しながら、文字を白板の上に描いていきましょう」
みんな手本を見ながら声を出して自分の白板に文字を書いていく。自信のない子も、周りの声に合わせて声を出してその文字を白板に書いていく。
ほう。これなら、文字に自信のなかった子もすぐに覚えるだろう。大学の教職課程でどういったことを教わるのか知らないが、はるかさんは教員免許くらい持っていそうだ。
俺ははるかさんの最初の授業を後ろの方で見ていたが、安心して教室を出ていった。




