第269話 足立と下村2
足立と下村に向かって近づいてきた大ネズミは、前歯をむいて下村よりも一歩前でメイスを構えていた足立に向かっていきなりジャンプしてきた。
「うわおおお!」
驚いた足立はその場で尻もちをついた。その足立の上に大ネズミが馬乗りになるような形でのしかかり、足立の顔に向かって噛みつこうと口を開けた。メイスを放りだした足立は両腕で顔をガードした。
「足立、動くなよ」
下村が大ネズミの背中に向かってメイスを振り下ろした。
鈍い音と共に大ネズミの首に近い背骨が折れたようで、大ネズミから力が抜けた。
足立は自分の腹の上に乗った大ネズミを振り落として、
「下村、すまん。死ぬかと思った」
「俺もビックリしたが、ケガはないか?」
「腰を打って痛いことは痛いが、大丈夫だ。
結構大きいな」
「こいつ、10キロはあるぞ」
「背骨が折れただけだから、結構高く売れそうだな」
「そうだな。10キロとして、30万か、すごいな。
今日はこれで帰るか?」
「スマホで、記念撮影しておかなくちゃな。
下村、お前からだ」
大ネズミの死骸の横にしゃがんだ下村を足立がスマホで撮影し、そのあと足立と下村が交代してスマホで撮影した。
「目標金額を大きく上回ったし、今日はもうこんなのと戦いたくはないから帰ってもいいぞ。
換金できたら、ワーク○ンにいってもう少ししっかりした防具を揃えないか?」
「そうだな」
二人は目の前に転がっていた大ネズミの死骸をビニールシート製の袋に詰め、足立のリュックに入っていた荷物を下村のリュックに移して、死骸の入った袋は足立のリュックに詰めた。
リュックを背負った二人は、来た道を引き返していった。
しばらく歩いたところで、
「そろそろ昼だから、おにぎりを食べながら帰ろうぜ」
「そうだな」
二人は立ち止まって、足立が下村のリュックの中からおにぎり4つと、スポーツ飲料のペットボトル2本を取り出し、下村におにぎり2つとペットボトルを渡した。
ペットボトルはリュックの脇についていた物入れに突っ込んで、二人はおにぎりを食べながら、出口に向かって歩いていった。
二つ目のおにぎりを頬張って少し歩いたところで、前方に明かりが見えた。他の冒険者パーティーだ。
近づいてきた彼らは、女子大生風の4人組パーティーだった。
「こっちは出口の方向だけどきみたちもう帰るの?」
二人は4人組の一人からいきなり話しかけられてびっくりしたが、
「はい。今日の目標は達成したから」
「えっ! それって、モンスターを斃したってこと?」
「まあ」
「どれどれ、見せてくれない?」。ただ一人洋弓を持った女子が足立に頼んできた。
「いいですよ」
足立とて男子高校生である。頼んできたのがむくつけき男なら嫌な気にもなったろうが、ちょっと美人なお姉さんに頼まれれば嫌と言えるはずはない。
足立がリュックを置いて中からビニールシート製の袋を取り出し、ジッパーを開けて彼女たちに中の大ネズミを見せてやった。
「すごい。これ大ネズミだよね。初めて見たけど、こんなに大きいんだ」
「この奥にいたの?」
「はい」
「よーし、わたしたちもがんばるぞー!
見せてくれてありがとう。お礼に、チュッ!
こっちにも、チュッ!」
「アスカ、高校生に何やってるのよ。
それじゃあ、二人とも気を付けてね」「「ばいばい!」」
4人は満足して、洞窟を奥の方に進んでいった。
足立と下村はそのままその場で5分ほど停止していた。
「帰ろうか」「そだな」
足立は大ネズミの入ったビニールシート製の袋をリュックにしまって担ぎ上げ、二人そろって出口に向かって歩き始めた。
黒い板を通ってダンジョンから外に出た二人は、改札機にカードをかざして買取所に向かった。
買取所の建物は大きく庇が張り出していて、庇の先が買い取りカウンターになっている。
誰も並んでいなかったので、すぐに足立と下村はカウンターの横の量りの上にビニールシート製の袋に入った大ネズミを置いた。
「お願いします」
奥に引っ込んでいた係員がすぐにやってきて重さを確認した後、袋の中から大ネズミを取り出して査定した。
「重さは、11キロちょうど。
ほう。背骨を一撃ですか。どこも傷んでいないようですから、最高査定になります。
本日の標準買い取り価格はキロ3万2千円。最高査定ですから、標準買い取り価格のキロ3万2千円での買い取りになります。35万2千円ですね。冒険者カードをお願いします」
足立がカードを渡すと、係員が機械の上に置き、
「はい。振り込みました。
これが買い取り証になります」
買い取り証を受け取った二人は買い取り所の並びにあったATM風の機械を操作して、足立のカードから下村のカードに17万6千円送金した。操作は、送金者のカードと振込先のカードを機械に入れて、あとは金額を入力するだけだ。
「意外とこういうところ面倒だな」
「儲かって面倒っていうのも贅沢だけどな」
「今度はこの金を銀行口座に振り込まないといけないから、さらに面倒だな。冒険者カードで買い物できればいいのに」
「来月から、大抵の店で使えるようになるみたいだぞ」
「そう言えばそうだったな。今月だけならがまんしてもいいか」
二人は機械を操作して、17万円ずつ銀行口座に振り込んだ。いまのところ登録銀行への10万円以上の振り込み手数料は無料となっている。
ダンジョン免許証をリーダーにかざしてメイスを窓口で返した二人は、第2ピラミッド=ダンジョンのある公園から出て、ワーク○ンに向かった。
歩きながら、
「やっぱり、遠距離攻撃手段が欲しいよな」
「そうだな。接近される前に斃したい。斃せなくても弱らせておけばずいぶん違うよな」
「さっきの4人組の中にも弓を持ってる人がいたものな」
「そうだったなー」。そこで、二人はお互い顔を赤くした。
二人の入ったワーク○ンはダンジョン近くのワーク○ンということでダンジョン関連商品の取り扱いが豊富だった。
二人は、入り口に置いてあったカートを押して、店内を見て回り、フルフェイスのヘルメット、手袋と安全靴、そして盾をカートに入れていった。どれもダンジョン用に開発されたもので、製造はダンジョン装備をいち早く商品化したことで知られる国内メーカーだった。
手袋と安全靴と盾については丈夫そうなだけでそれほど特別な感じはしなかったが、フルフェイスのヘルメットはかなり軽く、かぶってもずれにくく、しっかりしている上に、通気孔が各所に設けられているので、中で蒸れるような心配はなさそうだった。
「これで、俺たちも冒険者らしくなるな」
「俺たちの着ているのは学校のジャージだけど、もうちょっとしっかりしたものの方がいいんじゃないか。お金もまだあることだし」
「そうだな。そしたら、そこのダンジョンスーツがよくないか?」
ダンジョンスーツとは、ダンジョン用の防護服のことで、例のスポーツ用品メーカーが開発したものである。ケブラー繊維の防護層が各所に縫い込まれていて、非常に安全性が高いと宣伝しているモデルのワーク○ン販売用製品である。
「それでいいんじゃないか。上下に分かれているから着やすそうだし、あとベルトでも上から締めてればカッコよさそうだ。
色はどうする?」
「そうだな。目立ちたくはないから濃いグレーか黒。ないし紺かな」
「じゃあこれか」
「うん。それにしよう」
二人は、黒に近い濃いグレーのダンジョンスーツをカートに入れた。
その後、小物入れがたくさんついた黒いベルトをカートに入れて、精算した。
二人とも同じものを買っており、精算代金は一人12万円ほどだった。




