第264話 エヴァ、起業家への道3
今回実際に第5階層から出口までメカゴーレムを使って荷物を運んでみて、少しアラがあったのでその対策をしていくことになった。
「ゴーレムの足が速くて、あれじゃあ、疲れたお客さまだとかなりきついぞ」
「ちゃんとお客さんに足並みをそろえて歩くように指示した方がいいですよね」
「そうだな。それくらいの指示ならゴーレムも理解してその通り動くんじゃないか」
ということで、ソフト面の改善点として、1階に向かう冒険者と足並みをそろえるようゴーレムに命令することを作業マニュアルに付け加えた。
「ゴーレム用の大リュックにお客のリュックを入れるところが、少々戸惑ったよな」
「そうですね」
「1階の出口だと、大リュックから荷物を出すのをお客さんに任せるわけだから、もっと大変になるんじゃないか?」
「お父さん、何かいい手はありますか?」
「そうだなー、問題は、ゴーレムの大リュックへの出し入れだから、出し入れしなくてもいいように、ゴーレムに直接お客のリュックを持たせるか?」
「2本の手でリュックを持つとなると、左右に広がって通路を通る冒険者の邪魔になりませんか?」
「確かにそうだな。それでなくてもデカいのが、さらに横に広がってしまうと通路を塞ぐことになるものな。とすると、前後に吊るす形か」
なので、ハード面の改善としてゴーレム用リュックから袋部分を切り取って、背負い紐と背中に当たる背負子部分だけにして、前面にある背負い紐の胸辺りと背負子の人でいえば肩甲骨の下あたり、その左右に1個ずつ、合計4個の大き目のフックを付けたものを用意した。
冒険者のリュックは第5階層でフックにかけて、出口前で外すだけだ。これなら簡単だ。ゴーレムの大きさからいって、運搬能力に余裕はあるが、ゴーレムの数にも余裕があるので、リュック4個をゴーレム1体当たりの定数とした。単独冒険者でリュック1個でもゴーレム1体で運ぶし、1パーティーのリュックが5個で、ゴーレムを2体使うとしても、あくまで重さだけで料金を徴収することにした。
「これでなんとかいけるんじゃないか?」
「キリアじゃないけど、さすがはお父さんです」
業務開始の5日前に、冒険者ギルドのホールの壁にイオナの描いた看板をかけてもらうことにした。俺が珍しくギルドのホールに入っていったものだから、ホールの中が一瞬静まり返った。その時俺が連れていたのは普段着のエヴァだったのだが、
『また子どもの冒険者なのか?』
『防具も付けずに普段着だ!?』
『あの少女も実力者?』
『一心同体のリーダーはまさか?』
『屋敷の中は女の子だらけだっていうぞ』
『しーっ。声が大きい』
冒険者ギルドで、俺のことを知らない冒険者はかなり減ってきたことを妙な形で実感した。
俺は、空いていた窓口までいって、そこの受付嬢に、
「AAランク冒険者のゼンジロウですが、そこらの空いた壁に看板貼ってもいいですか?」と、単刀直入に切り出した。
「AAランクのゼンジロウさん。は、はい。
いえいえ、勝手に看板を貼られては困るんですが」
「今度バレンダンジョンで荷物の運送業を始めるって話ご存じありませんか?」
「そういえば、そんな話があったような」
「それでですね。実際に荷物を運ぶのは銀色の2.5メートルくらいの大きさのゴーレムなんです。そんなのが、いきなり現れたら冒険者も驚くと思って、仕事を始める前に注意喚起のため看板を作ったんですよ」
「そうだったんですか。
他の冒険者のことを思って、さすがはAAランク冒険者のゼンジロウさんですね。
分かりました。掲示板の横が空いていますから、看板はそこに貼ってください」
さすがはAAランク冒険者である。このひとことだけで話がスムーズに進む。
言われた場所に釘を1本勝手に打ち込んで、岩永運送の看板を掛けておいた。
初めて見たであろうポスターフレームに入った美麗なゴーレム看板はかなり冒険者たちにインパクトがあったようで、10人ほどホールにいた冒険者がすぐに集まってきて、ああでもない、こうでもない。と、話し始めた。掴みは良かったようだ。そのうち、新たにホールに入ってきた連中も何事かと看板の前に集まった。
「エヴァ、肩書って大切だってことがよく分かったろ?」
「はい。なにかあったらお父さん、面倒でしょうがお願いします」
「任せておけ」
そのあと、冒険者ギルドバレンダンジョン支部にいって、同じようなやり取りの後、看板を壁にかけさせてもらった。ここでも、注目を集めたので、ゴーレムがダンジョンの中を歩いてもそれほど冒険者も驚かないだろう。
そして、とうとう業務開始当日がやってきた。
初日の今日、業務開始は午前8時からということにしていたので、最初の担当2人と、エヴァを連れて7時には第4階層の空洞に跳んで準備を始めた。
まずはかりをきっちり置いて、その隣に机と椅子を2脚置いた。机の上には、金庫代わりの木箱を置いている。木箱の中には釣銭用に大銅貨100枚と銅貨200枚が入っている。
次に、メタル大蜘蛛4匹を配置。そのままの形で収納していたので、うちの担当二人を護衛するという命令は生きている。
そして、メカゴーレム50体。
この50体には最初からフック付きの肩ひもを着けているので即戦力だ。
冒険者たちは、俺たちの前を通りすぎていったが、銀色のゴーレムが現れて立ち止まるようになった。
パンパンに膨らんだリュックを背負った冒険者が、机の前にやってきて担当の2人に向かって、
「今日からだったよな?」
「もうすぐ始めます」
「値段はいくらだったっけ?」
「ここから出口まで、重さ10キロあたり銅貨5枚です」
「ちょっと高いが、試しに使ってみるか」
「よろしくお願いします」
「まだ時間じゃないけど、始めちゃいましょう」と、エヴァがゴーサイン出した。
リュックの重さを計ったら42キロあった。
「42キロですので、銅貨20枚になります」
冒険者から大銅貨2枚を貰い木箱に入れて、ゴーレムを1体呼んで、その場にしゃがませ、その冒険者のリュックをフックにかけた。
その冒険者は単独だったので、そのまま出口に向かわせることになった。
「ゴーレムはお客さんの速さに合わせて出口まで向かいます。出口前でゴーレムがしゃがみますから、そこでフックからリュックを外して持っていってください」
「分かったよ」
ゴーレムは荷物を1つだけフックに引っ掛けて、その冒険者の後ろについていくような形で階段を上っていった。
すぐに次の客が現れた。
「俺たちの荷物も頼む」
今度はちょうど4人パーティーで、4人合わせて荷物の重さは130キロだった。
「10キロ当たり銅貨5枚ですから、130キロで銅貨65枚になります」
4カ所のフックにそれぞれリュックをかけて、ゴーレムはその冒険者たちと一緒に階段を上っていった。
その後も客足は順調で、次々にゴーレムはリュックを引っ掛けて階段を上っていった。
3時間ほどで最初のゴーレムが帰ってきた。
1時間に4人くればペイできると踏んでいたのだが、1時間で10組、30人も客がついてしまった。
作業員の二人は水筒と昼食用の弁当を持参していたが、案外忙しく、合間を見ては食事をしていた。ちょっと賃金を見直した方がいいかもしれない。そこは社長のエヴァの判断だがな。
俺とエヴァは昼食時いったん屋敷に戻り、午後からまた作業場に顔を出した。
俺とエヴァも、担当の二人の隣りに並んで席を作り、午後からの仕事を4時まで眺め、後は交代の二人に任せて最初の二人をギルドの近くまで運んでやり俺たちは屋敷に戻った。
結局初日最初の8時間営業して、250人、7500キロ、銅貨3750枚分、金貨3枚+銀貨7+銅貨50枚の売り上げとなってしまった。
売り上げについては、テーブルの上に置いた木箱に貯めておき、1週間おきにキリアがやってきて回収するつもりだったようだが、思った以上に売り上げが伸びてしまい、当面俺が出向いて回収することにした。
エヴァは信頼できる人物に、売り上げの運搬を頼む方向で考えると言っていた。きっと奴隷商館時代のOBだかOGに頼むのだろう。奴隷商館出身者同士で意外に繋がりがあるようだ。侮れん。




