第263話 エヴァ、起業家への道2
親父はいつまでもかわらず親父のままだとずっと思っていた。それが大病をしたと聞いて動転してしまった。親父の手術も成功したというし、俺のポーションも飲んですっかり元気になってくれた。結局、運が良かったってことなんだろうな。なんであれ、これで親父のことは一安心だ。次はエヴァのイワナガ運送だな。
イワナガ運送の業務開始に先立って、第5階層で荷物を受け取り、はかりで重さを量ってゴーレム用の大リュックに詰め込む人手の手当てもできたようだ。
俺が発電機小屋で軽油を補充して、前庭に出ていたら、門の外の通りから若い男女の声が聞こえてきた。そう言えば、今日エヴァが、今度の事業で雇う予定の6人をうちにあいさつに寄こすと言っていたから、きっとその連中だろう。わざわざあいさつにくるとは、見込みのある連中だ。高評価だぞ。
『ここが、AAランク冒険者のお屋敷かー』
『すごいよね』
『ここに、オリヴィアたちといっしょにエヴァが買われたのか』
『そうなんです。ご主人さまじゃなかった、お父さんはとてもやさしくてとってもカッコいい人なんです』
『そうか、エヴァは、ゼンジロウさんの養子になったんだったな。オリヴィアたちも一緒に』
『エヴァってもう呼び捨てにしちゃだめだよ。これからわたしたちの雇い主になるかもしれないんだから』
『わたしのことは、今まで通りエヴァでいいですから』
『そうはいかないんだよ。けじめは大切だからね。エヴァさん』
……。
門の裏に俺がしらっと立っていると少しおかしいので俺は急いで居間に跳んでおいた。
エヴァに案内されてた6人が応接室に通され、イオナが俺にエヴァがお客を連れてきたから会ってくれと伝えにきた。
応接室で面接のようなことをすることになったが、男3人女3人、6人ともちゃんとした青年だった。そのとき、なぜかアキナちゃんが俺の隣に座っていた。そしてあのニヨニヨ笑いをしていた。女神さまのニヨニヨ笑いは何か意味でもあるのだろうか。謎である。
6人はバレンダンジョンの近くの冒険者用のアパートに住んでいるということなので、都合がいい。
結局6人は簡単なあいさつだけでお茶も飲まず帰っていった。
その6人はいずれも奴隷商館でのエヴァたち孤児奴隷の先輩孤児奴隷だったそうで、買い手のないまま奴隷解放後、冒険者となりバレンダンジョンで地道に稼いでいたという話だった。6人とも冒険者ランクは下から3つ目のDランクだ。Dランクだからと言って軽くみられてはマズいが、護衛に何匹かメタル大蜘蛛を作業場に置いておけば十分だろうし、そもそも作業場にはメタルゴーレムも待機させておくので間違いはないだろう。
「なかなか見どころのありそうな若者たちじゃったな」と、アキナちゃんがエラそうな感想を述べてくれた。
実際俺もそう思ったので、
「アキナちゃんに見込まれたほどだから、期待できるんじゃないか」と、エヴァに言っておいたら、
「はい。みんないい人たちです!」と、エヴァが答えた。奴隷商館時代きっとあの6人にエヴァは可愛がられていたのだろう。
いずれにせよ、イワナガ運送はAAランク冒険者であるこの俺と一心同体の面々がバックに控えていることを、少なくとも冒険者ギルドでは承知しているので、妙な問題が起こるとはないだろう。
「エヴァ、1日100人、25パーティーといってもどうなるか分からないからゴーレムは多めに50体用意しておこう。それくらいなら邪魔じゃないだろう」
「はい」
「ゴーレムへ命令しなくちゃいけないが、内容は、客に追随して出口まで荷物を運んで、そこから引き返すようにと言うだけだ。そこは俺が6人に指導するから、6人もすぐ慣れるだろう」
「はい」
翌々日。午前9時。
ゴーレムへの命令を含めて作業の実戦確認のため、エヴァの雇った6人と冒険者ギルド支部で待ち合わせをした。
俺とエヴァがギルド支部のホールに入っていたら6人がすぐに迎えてくれた。
第5階層の作業場まで歩いていっても良かったが、アキナちゃんも太鼓判を押した連中だし、今日は単純にゴーレムの指導だけなので、
「ここから作業場に直接跳んでいくから、みんな俺の手を取ってくれ」
エヴァ以外は何のことかわからなかったようだが、それでもみんな俺の手を取った。
「転移」
目の前が一瞬で切り替わったことでかなり驚いたろうが、適当に脳内補完してもらえればそれでいい。
「ここは第5階層、この空洞の隅がきみたちの仕事場だ」
そう言って、先日2メートル×3メートルで平たくした床の上にはかりを置いた。はかりの横には椅子を2つ。それに机代わりに長テーブルも一つ出しておいた。テーブルがあればお金を入れる箱を置いたり、食事したりできるだろう。
これにもみんな驚いたようだ。
そして、今度はアイテムボックスで3型のフィギュアゴーレムを50個作り、順番に床に投げていきどんどん高さ2.5メートルの銀色に輝くメタルゴーレム3型を作っていった。
6人は青く輝く光の中から銀色の巨人が現れるところを口を開けて見ていた。話はエヴァから聞いていたはずだが実物を見ればまた違った感想があるよな。
その後は、ゴーレム用のリュックをゴーレムの数だけ空いたところに積んでおき、仕上げに空洞の壁にあのポスターを貼ってやった。
「よし、こんなものでいいな」
「あとは、ゴーレムへの命令だ。その前に、メタル大蜘蛛だな」
護衛用のメタル大蜘蛛をフィギュア大蜘蛛から4匹戻しておいた。
「これが、きみたちの護衛用のメタル大蜘蛛だ。
きみら6人の命令を聞くように言っておくから」
メタルモンスターはメタル形態に戻した人間の命令を聞くことは分かっていたが、間接的に命令できるのか分からなかったので、実際そんなことができるかどうか試してみることにした。これができなければ、各作業員にメタルモンスターを割り当てることになる。
「お前たち、この6人の命令を聞くんだぞ。俺の命令が分かったら、そこで体を上下させてみろ」
と言ったら、4匹の大蜘蛛は足を曲げたり伸ばしたりして体を上下させた。
なんとかなりそうだ。次はメタルゴーレムだ。
「メタルゴーレム3型。お前たちもこの6人の命令を聞くんだぞ。分かったなら右手を上げてみろ」
50体のメタルゴーレムが一斉になぜか右手を斜め前に上げた。腕の構造上、真上に腕があがらないのかもしれない。妙なところでこれをやってしまうと大変なクレームがきそうだが、ニューワールドではセーフだ。
「いいみたいだな。
じゃあ、きみ。試しにゴーレムに命令してくれるかい」
一番近くにいた女の子に振ってみた。
「は、はい。
みんな、右手を下ろして!」
その声で、50体のゴーレムが上げていた右手を一斉に下ろした。見ていて非常に気持ちがいい。どっかの国のマスゲームみたいだ。50体も並んでいると思った以上に場所を取っているが、事業が軌道に乗れば、作業場で待機しているゴーレムの数は少なくなるはずなので、何とかなるだろう。
そのあと、残った5人にも同じようにゴーレムに命令させた。
ちゃんと、ゴーレムが言うことを聞いたので、最終テストとして、冒険者が持つリュックの中に適当な荷物を詰めたものを、12個用意して、それの重さを量ったうえ、ゴーレム用の巨大リュックにその4つを詰め込んで、ゴーレムに背負わせ出口まで運ばせることにした。
2人組3チームでそれぞれ4つの荷物の重さを量り、それから、荷物をゴーレムリュックに詰めたのだが、リュックの口を開けて、30キロほどの小型リュックを詰め込むことが2人がかりでも結構大変みたいだった。そこから荷物を背負うために腰を下ろしてしゃがんだゴーレムがリュックを背負うのを手伝い、ゴーレムがリュックを背負って立ち上がったら1階の出口まで歩くのに付き添っていった。
俺は残ったメタルモンスターたちをそのままの形で全部収納し、はかりやテーブル、椅子も収納して、エヴァと一緒に6人の後を追った。
メタルゴーレムたちの足は意外と速くて、出口までの8キロほどの距離を1時間20分ほどで歩いてしまった。まったく疲れていない俺たちだったから問題なくゴーレムについて歩けたが、疲れた冒険者だと一緒に歩くのはきついかもしれない。
「エヴァ、まだ改善点はあるようだが、いいみたいだな」
「はい」
改善点はあるが、これでイワナガ運送業務開始の準備が一応整った。




