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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第262話 岩永善吉2、和解


 翌週、いつものように俺と華ちゃんで防衛省の会議室に跳んだ。取り立てて話題がなかったところで、そろそろ、ポーションを卸そうとしたら、田中事務官から、


「岩永さん、先週お父さまから電話がありました。電話をしてくれとのことでした」


「親父から?」


「はい。お父さまとは、一度お会いしたこともあるので、わたしのことを覚えていらっしゃり、先日出回った岩永さんの映像を見てここに連絡されたようです」


「それはお手数をおかけして申し訳ありませんでした」


「いえいえ」


「お恥ずかしい話ですが、かれこれ4年、親父とは顔を合わせたこともなければ口をきいたこともなく、わたしの電話番号や住所も変わっているせいで連絡できなかったんでしょう。

 親父は他に何か言っていましたか?」


「いえ、電話の件だけです」


「分かりました。あとで電話しておきます。

 それでは、ポーションを卸してきます」



 駐車場に一度跳んで、そこでポーションを卸した俺は再度会議室に戻って華ちゃんを連れて直接屋敷に戻った。


「華ちゃん、華ちゃんにエラそうなことを言ってたが、俺も4年前に親父に勘当されてたんだ。急に俺に連絡しろと言ってきたところを見ると、心配だから電話してくる」


「岩永さん、そんなこと気にしないでください」


「ありがとう。すぐに帰るから」


「はい」




 俺は親父に電話するため日本に跳んだ。跳んだ先は俺のアパートだ。もちろん直接実家(いえ)に跳ぶこともできたが、やっぱり気兼ねがあるのでまずは電話だ。


 アパートの台所への上り口にはポストから郵便物がはみ出てこぼれていた。そりゃそうだ。


 郵便物を集め、台所のテーブルの上に置いて、それから実家に電話した。


 5回ほどベルが鳴ったところで応答があった。


『はい、岩永です』


 出てきたのは近所のおばちゃんだった。


「おばちゃん、俺、善次郎」


『善ちゃん、ちょっこし待っちょって、お父さんに代わーけん』


 電話の向こうでおばちゃんが親父を呼ぶ声がして、それからバタバタと音がした。


『善次郎か?』


「うん。なにかあった?」


『ああ、ちょっこし前にがんの手術をした』


「ほんとか?」


『ああ、手術は成功したし、今は手術前よりよほど調子がええ』


「よかった。

 親父、今からそこにいくから驚かないでくれ」


『善次郎、われ、どこから電話しちょー?』


「埼玉からだけど、それはどうでもいいから、今からいく」


『はあ?』


「じゃあ」


 俺はスマホを切り、テーブルの上の郵便物をアイテムボックスにしまって、勝手知ったる俺の実家うちの玄関前に跳んだ。


 門から玄関にかけてコンクリートが打たれて道になっているんだが、道の両脇に30センチほどの高さで雪が盛られていた。雪はそれくらいしか残ってはいなかったが、久しぶりだったせいか、妙に懐かしかった。



 玄関の引き戸をガラガラと開けて、土間に入り、奥に向かって、


「ただいま」


 奥の方から、近所のおばさんが割烹着を着て出てきた。一人所帯の親父の世話をしてくれているようだ。


「あら、善ちゃん、しばらく見だったけど立派になって!」


「おばちゃん、ただいま。親父は?」


「奥におーよ。

 善吉さーん、善ちゃんがいんできとーよ」


 奥から足音がして親父が現れた。足取りもしっかりして見た目は元気そうだ。


「親父、手術とかびっくりしたじゃないか。だけど、見た目は元気そうでよかった」


「まあ、上がれ」


 土間から靴を脱いで、板の間に上がって、親父の後について8畳ほどの床の間に入った。部屋の中は寒かったが、親父がエアコンを入れた。


 親父は床の間を背にして座布団の上に座り、俺も座布団を敷いて親父の前に座った。


 しばらくエアコンがガタピシ言って暖かい風が吹き出してきた。


 親父がなかなか話し始めない。俺はふとこんな感じで華ちゃんが父親と対決したのだろうなと思った。華ちゃんの場合は、畳の部屋じゃなくて、洋間の感じがするけどな。


「善次郎、仕事にもつかんと何しちょーのか思ーちょったら、自衛隊に勤めちょったのか?」


「自衛隊の仕事もしてるけど、他にもな」


「自衛隊に勤めちょって、勝手に他の仕事をしてもええのか?」


「俺の場合は自衛隊というより、防衛省の本体の方に勤めていることになっている。いちおう特別研究員って肩書だが、特別って名まえ通り、そういった制約は全くない」


「ふーん。田舎の役場勤めよりすごえことなんじゃろうな」


「比べられるもんじゃないかも知れないけど、そこそこやってるよ。

 それで、親父の用事は何なんだ?」


「儂は今回のがんの手術で肝臓を半分取ったんだが、手術前、われのことと、このうちのことが心配になってな。儂が死んだら、どうなーのか思ーて」


「うん」


「善次郎、いろいろあったけんど、防衛省の仕事があーから無理かもしれんが、勘当は解くけん、戻ってこんか?」


「うーん。やっぱりそれはできないけど、これからはちょくちょく顔を出すよ。

 元気そうに見えるけど、がんはどこにどう転移しているかもわからないしな」


 俺はそう言ってかなり高級なヒールポーションをその場で作って親父に渡した。リ○D仕様のヒールポーションだ。


「親父、だまされたと思ってそれを飲んでみてくれ。

 味はないから、水のつもりで飲んでくれればいい」


「?」


「まあ、いいから飲んでみてくれ。それを飲んで、手術の痕を見たら魂消たまげるぞ」


 親父は妙な顔をしたが、それでも俺の言う通りに瓶のふたを開けて、ヒールポーションを飲み干した。


「どうだ? 体の具合の悪いところがあれば、ひっくるめて良くなってると思うんだが」


 親父は首を前後左右に曲げたり体を捻ったり、腕を回したりして、


「肩こり、五十肩、腰痛、みんな無うなって、良んなっちょー。

 うわ、口の中が、なんじゃ!?」


 親父が口の中から手のひらの上に何やら吐き出した。


「うわっ! こらぁ歯の詰め物じゃ!」


 親父は口の中で舌を動かして、


「歯が全部生えてきちょー!」


「手術の痕も治って消えてると思うぞ」


 俺に言われた親父は上に着ていたものをたくし上げて手術痕を調べたのだが、


「痕がのうなっちょー!!」


 親父の声がだんだん高くなってきた。


 俺は半分笑いながら、


「親父、秘密にしてもらわないといけないんだが、今親父が飲んだのは、ヒールポーションといって何にでも効く薬だ。傷だろうと肩こり腰痛なんでもだ。もちろんガンにも効く。そうそう、目も良くなっただろ?」


「うわ! 周りも良う見えーし、善次郎の顔がはっきり見えー!

 どうなっちょーんだ?」


「そういう薬なんだ。腹の中じゃ見えないけど、肝臓も元通りというか、全く健康な肝臓に戻っているはずだ。病院から薬を貰っているなら、もう飲まない方がいいぞ」


「分かった。

 そうじゃ、もう一つ話をすーのを忘れちょった。

 善次郎」


「うん?」


「うちの裏山見たか?」


「いや、まだ見てない」


「去年うちの裏山にピラミッドがでけて、周りの土地を国がーてくれたんだ」


 これこそ、なんと! だな。俺のアパート近くにもピラミッドが湧いて出てきたが、こっちにも湧いて出てたのか。


「そいで、税金(はろ)ーても16億残った。

 ほかにも何やかやと20億あー」


「うん」


「なんだ、驚かんのか?」


「驚いた方が良かったんなら、びっくりした!」


「とってつけんでもええ。

 そげなことなんで、儂にもしものことがあったら、われのものだ。通帳やらハンコやらは儂の部屋の天袋の中の小箱に入っちょーけんな」


「親父、ありがたいが、さっき飲んだポーションで、親父はピンピンになったはずだ。そうは簡単に死なないから安心して自分の金を好きに使ってくれ。

 いちおうなんかあったの時のために、ポーションを10本ほど置いておくから、ケガをしたとか調子が悪いと感じたら飲んでくれ」


 俺はヒールポーション10本入りの小箱を作って親父の前に置いた。


「われ、金に興味はなえのか?」


「ないわけじゃないが、今じゃ何百億も持ってるんだ。だから、もし金が必要なら言ってくれ」


「な、な、なんと!」



 親父が驚いているうちに、俺は、電話があれば遅くとも1週間後には顔をだすと言って、電話番号を紙に書いて親父に渡した。


「それじゃあ、親父、元気でな。

 そうだ。

 親父、俺は自分のアパートを留守にすることが多いんで、悪いがこの家に俺の名まえで物が送られてきたら、とっておいてくれ」


「あ、ああ」


「そんじゃあ。

 おっと、もう一つ親父に言い忘れてたことがあった」


「何じゃ?」


「俺、養子を6人とったから。親父にとっては孫にあたるからな」


「はえ?」


「そんじゃあ」



 親父が何か言っていたが、そのまま玄関を出た。


 少し門の方に下がって屋根越しに山の方を見ると、ピラミッドは見えなかったが、確かに裏山が削られて、造成が進んでいた。なるほどな。そのうち、この辺も開かれそうだ。土地はまだまだたくさんあるから、冒険者を当て込んだ施設を作っても面白そうだ。温泉ボーリングでもして、温泉が当たれば、温泉旅館を作ってもいいかもな。


 俺は、一渡り周囲を見回して、ニューワールドの屋敷に帰った。


 アパートから持ち帰った郵便物は、ほとんど俺にとって無意味なものだったので、結局全部捨ててしまった。


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