第260話 エヴァ、起業家への道1
俺と華ちゃんは防衛省から築地の場外市場にまわり、カニ関係を仕入れた後も少しそこらの店を見て回って、それから屋敷の居間に戻った。
築地の場外市場で、カニ以外に仕入れたのは、練り物、西京焼き、それに、今川焼だ。
居間に現れたところで、
「「お父さん、おかえりなさい」」「ハナおねえさん、おかえりなさい」と、子どもたちに迎えられた。
「「ただいま」」
普段は俺のことをゼンちゃん、華ちゃんのことをハナちゃんと呼んでいるアキナちゃんまで一緒になって大声で「お父さん」「ハナおねえさん」と言っていた。完全にうちの子になってしまった。いいけどね。
「正式にみんな俺の養子になったからな。書類なんかは俺が預かっておいてるから」
「「はい」」
普段着に着替えようと2階に上がろうとしたところで、エヴァが改まって俺に、
「お父さん、いいですか?」
「もちろんだ」
「今日、冒険者ギルドにいって、ダンジョン内でお父さんのゴーレムを使って荷物運びの仕事をしたいと言ってきました」
「ほう。それで、なにか言われたのか?」
「冒険者ギルドはそういったことには口出ししないので、自由にやっていいと言われました。
ただ、ゴーレムがダンジョン内を歩き回っていたら冒険者が驚くので、始める前に冒険者に周知させる必要があるだろうと教えてもらいました」
「なるほど。それもそうだな。
こういったゴーレムが荷物運びをすると冒険者に知らせるため、ポスターか何かを作った方がいいな。そのポスターを冒険者ギルドに張っておけばいいんじゃないか」
「はい。わたしもそう思って、ゴーレムの絵をイオナに描いてもらってそれに説明を付けたポスターを作ろうと思ってます。なので、お父さんの都合のいいとき、ゴーレムをイオナに見せてやってください」
「ゴーレムはダンジョンの中じゃないと動けないから、昼食が終わったらダンジョンにイオナを連れていこう。エヴァも一緒にな」
「はい」
昼食を終えて、デザートの今川焼を食べたあと、そのままの格好で、エヴァとイオナを連れて楽園の真ん中の空き地に跳んだ。
「これがメタルゴーレムだ。メタルゴーレムといっても冒険者たちにはピンとこないだろうから銀色ゴーレムと言った方がいいかもしれない」
俺は、15センチくらいのフィギュアフィギュアしたゴーレム1型をアイテムボックスから取り出して、地面に放り投げた。
フィギュアゴーレム1型は、一瞬だけ青白く輝き、3メートル近い銀色のゴーレムに戻った。
「おー。おっきい」「すごいです」
「これがゴーレム1型だ。ついでだから2型と3型も見せておこう」
俺は、2型のフィギュアを取り出して、1型の隣りに放り投げた。
「こっちは、ちょっと背の高い大人くらいの大きさだ」
「ほー」「こっちもすごいです」
「そして、これが3型だ」
2型の隣りに放り投げた3型のフィギュアがメタルゴーレム3型に戻った。
「1型と2型の間の大きさだ。1型だと大きすぎるし、2型だと大きなものは持てないから、これくらいがいいだろうと思って作ったんだ。
さらに、メタル大蜘蛛だ」
蜘蛛のフィギュアを地面に投げ出して、メタル大蜘蛛が現れた。
「こいつは、荷物運びには向かないが、すばっしっこい上に結構強いから、冒険者パーティーの前衛とか護衛とかに使えると思うんだ。
元のフィギュアに戻すには、フィギュアを投げてメタルモンスターを作った本人が、フィギュアに戻したい相手に向かって『エレメア』と言ってやるんだ」
俺のエレメアのひとことでメタル大蜘蛛が一瞬青白く光り、光が収まった時にはまた3センチほどのフィギュアになっていた。
「イオナ、こんなものだが、絵は描けそうか?」
「大丈夫です」
イオナはスケッチブックくらい持ってきたのかと思ったが手ぶらだった。一度見たら絵が描けると言っていたので、スケッチするほどのこともないのだろう。よく考えなくても凄い才能だ。
それでメタルゴーレムもフィギュアに戻してアイテムボックスにしまって屋敷に帰った。
俺は居間でコタツに入って一休みしたが、イオナはエヴァを連れてそのまま絵画部屋にこもってしまった。
イオナたちが絵画部屋に引きこもって2時間弱。ポスターができ上ったとイオナとエヴァが居間にやってきてコタツに入っていた俺に報告してくれた。まだ絵は乾いてはいないそうだが、絵画部屋までいって、いちおうでき上ったポスターを見せてもらった。もちろん素晴らしいできだった。
真ん中から少し左側にゴーレムの立った姿が描かれている。ゴーレムはその体に見合った巨大なリュックを背負っていて、リュックは満杯だ。ゴーレムの右側には、いわゆる飾り文字で、
『イワナガ運送
銀色ゴーレムにて荷物を運びます。
運搬区間は、第4階層と第5階層を繋ぐ階段下から、ダンジョン出口手前まで。
重さ10キロ当たり銅貨5枚』
「これだと、荷物の重さを計るはかりと、計る人が必要だし、ダンジョン出口で受け渡す人が必要にならないか?」
「帰りのパーティーにゴーレムが付き添う形で運用しようと思っています」
「なるほど、それなら出口で荷物を渡せるから、そこに人は不要なんだな」
「はい。それで、第5階層で重さを計って料金を受け取るため、二人5階層に置きます。
第5階層へは出入り口から片道1時間半近くかかるそうですから、往復で3時間。5階層での仕事は8時間交代で、合わせて11時間働くことになります。
一組で8時間なので、1日当たり3組、一人当たり銀貨1枚(銅貨100枚)で合計6人を雇おうと思っています。なので1日当たりの支払いは銀貨6枚。
見込み客は1日100人、運ぶ荷物は一人頭30キロ。1日当たり3000キロ運んで、売り上げが銅貨1500枚、金貨1枚と銀貨5枚になります。
客数や荷物の重さが想定以下なら足が出るかも知れませんが、想定通りなら、1日当たり銀貨9枚儲かります」
「よく考えてるな。
万が一モンスターが出ては大変だし、不届きな冒険者がいるかも知れないから、第5階層の護衛としてメタル大蜘蛛を4、5匹置いておけばいいかもな」
「はい」
「あとは、メタルゴーレム用のリュックだな。適当なリュックを買ってきてくれたら俺がゴーレム用に大きいのを何個でも作ってやるからな」
「はい」
翌日。エヴァがはかりとリュックを買ってきた。子どもたち全員で荷車に乗せて屋敷に運び込んできたので、俺が預かっておいた。はかりの置き場所は凸凹とか斜めの場所ではまずいので置き場所を平らかつ水平にする必要がある。ということなので俺は急遽ホームセンターに跳んで水準器を買ってきた。
その後、エヴァを連れて、事業予定地である北のダンジョンの第5階層の最初の空洞に跳んでいった。俺たちの格好は普段着だが、ヘルメットだけはしておいた。エヴァのヘルメットはキリアのヘルメットを借りたものだ。頭に乗っけていたらすぐにエヴァの頭になじんだようだ。
「ここがダンジョンの空洞で、あれが階段か。
思っていたより広いんですね」
「エヴァの利用客の見積もりだと1日100人、1時間に直せば4、5人だろ。ということは1時間当たり1パーティーって感じだな。この第5階層は冒険者の数は多くはないだろうが、さすがに1時間に1パーティーってことはないだろう。見積もり以上に客が集まるんじゃないか?」
「そうなってほしいです」
「作業場所はここを通る冒険者の邪魔にならないよう隅の方にしないといけないから、あの辺りにするか」
俺はエヴァを連れて、空洞の隅の方に歩いていった。
「はかりはここにするか」
だいたいの見当で、床を2メートル×3メートルにわたって平らにするよう凸凹部分を収納してやった。
次に水準器を当てながら、岩を薄く収納したりして微妙な調整をしていき、だいたい水平になったところで、預かっていたはかりを置いてみた。
エヴァが買ってきたはかりはかなり大きな台ばかりで、荷物を置く台から上に竿が伸びて、竿の先から、細い棒が下がり、そこに荷物と釣り合う錘を乗っけて重さを計るものだ。乗っける錘の重さの10倍が荷物の重さになるよう調整されているそうだ。
「こんな感じだな。
実際に仕事が始まったら、ここに机と椅子を置いておけばいいな。あと小型の金庫かな。
釣銭も必要だから、小銭はたくさん用意した方がいいだろうな」
「はい」
「それじゃあこんなところでいいか?」
「はい。お父さんありがとうございました」
「うん。じゃあ帰ろう」
はかりをアイテムボックスにしまって、エヴァを連れて屋敷に戻った。




