第259話 巨大カニ6、観戦
防衛省で善次郎と三千院華が巨大ガニの討伐を報告した翌日。
防衛省内のビルの一室でグリーンリーフ、レッドウルブズ、ブルーダイヤモンズの3つのチームの全員が見守る中、善次郎の撮った巨大カニの討伐の様子がプロジェクターによりスクリーンに映し出された。
映像ではまず石室の連なる通路を移動していくところが続いた。
この映像を撮影したビデオカメラはIDチームのリーダーZのヘルメットに取り付けられているという話だった。
グリーンリーフの3名はもちろんZが誰であるか分かっていたが、他の2チームの面々は、Zとはグリーンリーフをはるかに超えるスーパーチーム『ID』のリーダーであると聞いているだけだった。
映像の中にIDチームの15、6歳くらいに見える美少女と、12、3歳くらいの二人の美少女がときおり映る。15、6歳くらいに見える美少女がSということだった。12、3歳くらいに見える二人の美少女はどちらも日本人とは思えない顔立ちだった。その二人のうち一人は剣と盾を持っていたが、もう一人は手ぶらで、他の3人が黒い防具を着けているのにその少女だけ白い防具を着けていた。
その白い防具の少女の変わったところはそれくらいだったが、Sと剣と盾を持った少女はなぜか緑色に点滅していた。ときおり映像にZの腕が映り込むがその腕も緑に点滅していた。よく映像に映り込んでいる艶のある真っ黒い棒はZの武器らしい。
移動の際、後方から、Sと思われる声で「ディテクトアノマリー、ディテクトライフ」と、何度か聞こえてきた。
ディテクトアノマリーについては、おそらく何か異常を発見する魔術だろうし、ディテクトライフはモンスターを発見する魔術なのだろうと推測するだけだった。
15分ほどで、巨大カニのいるはずの下り階段のあった部屋の前にIDチームは到達した。扉の前に立ったZの声が、
「1、2、3で開けるぞ。1、2、3」
Zが扉を半分程度開けると、その先に巨大カニがいた。その巨大カニに向かって後ろの方からSらしき女性のやや大きな声がした。
「グラヴィティー」
続いてドーン。と低い音がして、同時に巨大カニの甲羅が床に張り付いてしまった。
続けて、Sの「ファイヤーアロー!」という声がしたと同時に、後方から放たれた白い光の矢が、巨大ガニの巨大ハサミの根本に命中した。
それだけで、ハサミをつけたカニの腕が根元から外れて、床に落ちてしまった。
その後もSのファイヤーアローは続き、カニは脚を全部吹き飛ばされて結局甲羅だけになってしまった。
甲羅だけになって口から泡を吹きだし始めたカニに向けてSが数発ファイヤーアローを放ったあと、甲羅がなぜか消えてしまった。
気付けば床に散らばっていたはずのハサミや他の足もすっかり消えていた。
「思った通り、大したことなかったというべきか。うまい具合にカニみそもこぼすことなく斃すことができた。***ご苦労さん」
「いえいえ」
「よーし、これで今回の仕事は終了した。
***、念のためデテクトアノマリーで部屋の中を見てくれるか?」
「はい。
ディテクトアノマリー! ついでにディテクトライフ」
ファイヤーアローとSは口にしていたが、そんな生易しいものではなく、グラヴィティーなる魔術は名まえからいって重力関係の魔術とは分かるが見ている者たちの想像を超えていた。
カニを文字通り片付けた一行は階段を下りていき、上の階と同じような石室に到達した。
そこでSが再度ディテクトアノマリーと口にしたところ、その部屋の壁の一カ所が赤く点滅し始め、そこで録画映像は終了した。
静まり返った部屋の中で「すごかったね」と、鈴木茜がひとこと口にしたが、その言葉以外の言葉は誰からも出なかった。
口には出さなかったが、田原一葉はショックを受けていた。自分たちが手も足も出なかった巨大カニ。もちろん善次郎たちが負けるとは思っていなかったが、ある程度は苦戦するのではと思っていた。それが、巨大カニが動くこともできず一方的に分解されて最後には床に転がった足ごとどこかに消えてしまった。
『あれが、善次郎さんのチーム。
三千院さん、何なの、あの人。あんなにすごかっただなんて。
今の戦いでは三千院さんの魔術だけ。残った3人は見ているだけで何もしていなかった。
あのチームの全力ってどれほどなの?
あと、あのチームの中で一人だけ何も持たない白い防具の子は一体何だったんだろう?
三千院さんは真っ黒いメイスを腰に下げていたけど、あの子は手ぶらだった。三千院さん以上の魔術の使い手なのかもしれない』
田原一葉は三千院華のことを知っていたが、斎藤一郎、鈴木茜は二人とも三千院華のことは知らなかった。
『杖と茜さんの願いで強化されていたはずの僕のファイヤーアローではほとんどダメージを与えることのできなかったあのカニが身動きもできず一方的にやられてしまった。SっていうのはスペシャルのSだったのか。一葉さんから、善次郎さんたちのことはある程度聞いていたし、山田さんを1日もかからずに救出したチームだからすごいチームだと漠然と思っていたけれど、想像以上だった』と、斎藤一郎。
そして、鈴木茜は、
『凄すぎる。わたしたち、日本一の冒険者チームだっておだてられて自分でもそう思っていたけど、あの人たちは次元が違ったわ。今回はSさんだけしか活躍していなかったけど、あとの3人が動き回ればどれほどのものか見当もつかない。だからと言ってわたしたちにできることは今まで通り地道に探索することだけどね。でも、わたしたちにもしものことがあったらZさんたちに助けてもらえるから逆にラッキーなのかもしれない』
レッドウルブズ、ブルーダイヤモンズのメンバーたちはそういった感想ではなく、善次郎たちの戦い方に『人がここまで強く成れるのか』と、驚いただけだった。
そして、この映像を彼らより先に見ていたときのD関連局の川村局長と野辺次長。
「いやはや驚いた。
カニみそを心配しながら、こぼさないように戦ったという意味が分かりました」
「あれはさすがに冗談かと思いましたが、本当だったようですね。岩永さんのあの棒をカニに叩きつければ一撃でしょうがカニの甲羅が砕けてみそが飛び散りますものね」
「上には上がいるということだな。
岩永さんたちが自衛隊に発見されてうちとのつながりができたわけだが、本当にラッキーだったな」
「ヒールポーションには驚きましたが、こうしてD関連室から一気に局にまで発展できたのはポーションのおかげですものね」
「そうだな。われわれは命を握っているようなものだからな。
岩永さまさまだ。予算もたっぷりあるし、今後ともできるだけ彼に便宜を図っていこうじゃないか」
「そうですね」




