第258話 巨大カニ5、報告
第16階層へ続く階段がある部屋で、階段前に陣取っていた巨大ガニを、ほくほく顔で斃した俺たちは、予定通り第16階層まで階段を下りていった。
階段を下りた先は15階層と同じ石室で、部屋の大きさも30メートル四方。
華ちゃんのデテクトアノマリーで壁に赤い点滅を発見したが、おそらく何かのアイテムが隠されているのだろうが、他所さまのテリトリーを勝手に漁ってはマズいと思い、そのまま放置しておいた。
そこで俺はビデオ録画を切って、みんなを連れて屋敷に戻った。ビデオに撮った肝心の戦闘シーンだが、俺がカニの方だけ見ていた関係で、カニが華ちゃんの魔法攻撃でタコ殴りされて分解されていくだけの一種スプラッターものになった可能性がある。とはいえ、どこからどう撮ろうが代わり映えはしなかったろう。
時間が午後5時を回っていたので、俺は急いで風呂に入り、子どもたちにバトンタッチした。
子どもたちが風呂から出て、華ちゃんにドライヤー魔法で髪の毛を乾かしてもらったら、すぐに夕食になった。
「「いただきます」」
食事しながら、今日ダンジョンの中で華ちゃんと話したゴーレムによる運送業についてエヴァに話をしてみた。
「エヴァ。エヴァに任せるから、この仕事をやってみないか?」
「お父さん、やらせてください」
「エヴァ、無理する必要はないし、失敗してもどうってことはないからな」
「お父さんならそう言うと思っていましたが、きっと成功させてみせます」
そうきっぱりエヴァが言い切った。
「じゃあ、任せた。
エヴァが必要なだけのゴーレムは用意できるからな。
あと必要なものを購入する代金も任せておけ」
「お父さん、それなら、わたしのお金を使ってください」と、イオナが言い出した。
なるほど、イオナが自分の絵で稼いだ金だから自由に使っていい金だ。ならば、
「エヴァ、イオナがお前に出資してくれるそうだ。
1年後に利息を払わなければいけないと思うが、それでも借りるか?」
「お父さんがお金を出してくれても利息は払うつもりだったから当然です」
なんだ、そこまで考えていたのか。やるじゃないか。
「じゃあ、そうしろ。
イオナの出資金で足りないようなら俺が出資するから言ってくれ」
「はい!」
そういうことで、エヴァの商人、いや起業家としての第一歩が始まった。実際始まるのは明日からだった。
はるかさんは驚いていたが、華ちゃんは半分笑って、アキナちゃんは例のニヨニヨ笑いをしていた。
翌日。俺は華ちゃんだけを連れて防衛省の例の会議室に跳んだ。
「おはようございます」
いつものメンバー同士、お互いあいさつして、昨日の報告をしておいた。その際預かっていたベルトと録画装置、それにビデオカメラを返しておいた。何かの役に立つかもしれないと思ったわけでもないのにいつの間にかコピーしていた。
「ビデオは後で拝見いたしますが、巨大カニはいかがでしたか?」
「まだ、食べていないので」
「いえ、そういう意味ではなく」
「失礼しました。今回の巨大カニについては、どうやってカニみそをこぼさずに仕留めるかばかり考えていたもので申し訳ありありません」
「カニみそですか?」
「はい。
それはそれとして、ビデオを見ていただければ一目瞭然ですが、結局三千院さんの魔法だけできれいに片づけました」
「カニみそをこぼさず?」
「はい」
「それで、せっかく階段前までいったついでに、第16階層まで下りてもみました。
下りた先は上の階の下り口と同じような広さの石室で、壁に何か隠されているようでしたがそのまま放っています」
「了解しました」
「岩永さん、先日の帰化手続きと養子縁組について完了しました」と、野辺次長。次長から紙袋6つが渡された。思った以上にスピーディーだ。
「戸籍謄本、マイナンバーカード、これは保険証も兼ねています。それにどうせですのでパスポートもお取りしています」
「何から何までありがとうございます」
「それと、こちらが、冒険者免許証になります」
そう言って、野辺次長がもう一つ残っていた紙袋を渡してくれた。
「岩永さん、三千院さん、岩永キリアさん、岩永アキナさんの4名分です。
ダンジョンが正式にオープンしたらお使いください。今からでも普通に身分証明書としても使えます」
「ありがとうございます。
そう言えば、昨日、第15階層の最初の部屋で休憩しているとき思いついたんですが、ゴーレムをたくさん使って、拠点となる場所から、ダンジョンの外まで荷物を運ばせるサービスがあれば冒険者もかなり負担が減るんじゃないかと思ったんですよ。ゴーレム1体をレンタルだとそれなりに料金が高くなりそうですから、宅配便並みの料金で荷物を運ぶとかすればニーズもありそうな気がして」
「それは面白そうですね。
そうなると、その運営は岩永さんが?」
「そうですね。わたし、ないし、代理の者が運送業者になってもいいかなと思っています。
ただ、民間のわたしが勝手にダンジョン内で商売してもいいものか、そこはどうなんでしょう?」
「冒険者にとって明らかに有益なお話ですから何ら問題ないと思います。その時にはもちろんD関連局から正式に許可を出しますのでご安心ください。そうなってくると、ゴーレムの方のレンタルは難しいかな。まあ、それはそれでこちらで検討します」
「ありがとうございます。
それでは、そろそろ失礼します」
頂いた紙類をアイテムボックスに仕舞って、華ちゃんを連れて銀座に跳んだ。跳んだのは良かったのだが、時間はまだ9時半を回ったばかりだ。
「カニを仕入れにきたわけですから、築地にいってみますか? 場外市場は今も賑わってるんじゃないかな」
「それは面白そうだ。ここからだとどうやっていけばいいかな?」
「このままこの道を歩いていけば20分くらいでつくんじゃないかな」
「それなら歩いていこう」
スマホで道を確認したら俺たちのいる道路から一本太い道にズレる必要があったが、15分ほどで築地の場外市場に到着した。
「なんだか、雰囲気あるな」
「そうですね。市場がなくなっても人が多いですね」
俺たちは、どこで何を売っているのかさっぱりわからなかったが、適当に人込みの中を見て回り、目に付いた食べ物を仕入れ、なんとか毛ガニの良さそうなのと、タラバガニ、それにタラバガニの缶詰を仕入れることができた。これで、巨大カニをワザワザ茹でる必要はなくなった。




