第256話 巨大カニ3、一心同体1
俺のピョンちゃんに関する素朴な疑問に関係なく、コタツの向こう側に座る華ちゃんが、明日の作戦について聞いてきた。
「明日のカニの討伐ですが、どうします?」
「どう、というと?」
「わたしが魔術で仕留めますか?」
「それでいいんじゃないか?
俺の如意棒で叩き潰すと、カニみそがこぼれそうだ。キリアのフレイムタンか華ちゃんのファイアーアローどちらでもいいが、ファイアーアローの方が簡単だろ」
「カニの急所はどこにあるのか分かりませんから、ファイヤーアローの一撃では斃せないと思います。
かといって、グラヴィティーファイヤーボールやグラヴィティーノヴァのような四方八方からの攻撃で斃しちゃうと、どうしてもカニみそがこぼれたりしますから、グラヴィティーで足止めして、ファイヤーアローだけで地道に削っていく感じでいきましょうか。
カニはこっちを向いているでしょうから、グラヴィティーのあと、カニの目玉を射抜いて、ハサミを吹き飛ばしてしまいましょう。そのあと、残った足を一本ずつ吹き飛ばして、甲羅に適当に孔を空けていけばそのうち死ぬでしょう」
華ちゃんの作戦でも、作戦の主眼はカニみそだった。さすがだ。俺たちの結束の固さに安心感を覚えたが、美少女が真顔でモンスターの解体方法を具体的に話すと、サイコパスっぽい感じ少しある。
「カニのいる場所までいくのが面倒なだけの仕事だな。
巨大カニの具体的大きさを聞き忘れたな。聞いておけばよかった」
「巨大というからには甲羅だけでも数メートルはあるんじゃないでしょうか」
「いくら大きくても鍋くらいなら用意できるけど、火を通すのが大変じゃないか。そんなに大きいと、俺たち9人で食べたとしても何日もかかりそうだし。そもそも何日も食べたくはないし」
「ハサミとか足ならそこまで大きくないんでしょうが、甲羅は曲者ですね」
「だよな。どこかからか、食べやすい大きさのカニを仕入れて、それをコピー元にして巨大ガニはコピーの原材料にしてやればいいかもな」
「それはいいですね。
今は季節かどうかわかりませんがカニなら毛ガニにタラバガニ。
そうだ、タラバガニの缶詰を買ってきてそれをコピーすればいいかもしれませんよ。サラダに入れてもチャーハンに入れてもおいしいですから」
「それじゃあ、明日カニをつかまえて、明後日防衛省に顔を出したら帰りにどこかで毛ガニとタラバガニ、それにカニ缶を買って帰ろう。ちゃんとしたのはやっぱデパートの食品売り場かな?」
「そうですね」
俺たちはその時、巨大カニの討伐の困難さなど夢にも思わず、巨大カニをどうやって食べるのか必死になって考えていた。なんてな。
いちおう巨大カニの処分というか処理方法について結論の出たところで、俺は今日作ったイオナの壁画写真のポスターをポスターフレームに入れ、居間の一番奥の白壁にかけておいた。
俺が少し離れてポスターを眺めていたら、エヴァがやってきて昼食の準備ができたと教えてくれた。華ちゃんがコタツから立ち上がったら、華ちゃんの隣りで仰向けに寝ていたピョンちゃんは一度目を開けたが、すぐに目を閉じてしまった。よほど、コタツが気持ちいいみたいだ。
翌日午前8時50分。準備を整えた俺たち一心同体の4人は、昨日確認した原宿の歩道橋の上に転移で現れた。歩道橋の上に誰かいたら驚かせたと思うが、お互いにとって運よく誰もいなかった。
歩道橋を下りて、代々木公園の方にぞろぞろと歩いていったら、野戦服を着た自衛隊員が公園の入り口に立っていた。
みんなの武器は俺が預かっているのだが、相当異様な風体の一団が公園にやってきたわけだから誰でも警戒するのは当たり前なので、どういうふうに話そうかと思っていたら、向こうの方から俺たちの方に駆け寄ってきた。
「Zさんとお仲間の方々でしょうか?」
「そうです」
「お待ちしていました。どうぞ、こちらです」
俺たちは自衛隊の人にピラミッドまで案内された。ピラミッド前にはD関連局の野辺次長が立っていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「これがこのダンジョンの第15階層までの地図になります。各層の階段から階段までの地図と第15階層の階段から次の階段の部屋、カニの居場所までが記されています」
野辺次長に綴じられた地図帳を手渡された。そのあと、
「カメラの操作方法を担当の者がお教えしますので、しばらくお待ちください」
すぐに野戦服を着た自衛隊員が小型のカメラと小型の機械がぶら下がったベルトを持ってきた。
「このベルトに取り付けられたこの機械は録画装置になっています。カメラから出ていますコードの先をこの穴に差し込んでこのボタンを押していただくと録画が始まり、もう一度押していただくと録画は停止します。
装置自体は12時間録画可能です。録画装置のこの画面にカメラが捉えた映像が映りますから、カメラの向きを調整してください」
とのことだったので、俺が自分のベルトの上にそのベルトを着けることにした。カメラはヘッドライトのようにヘルメットにゴム製のベルトで取り付けるものだった。自衛隊員たちの敬礼に見送られて、俺たちは揺らぎの中に入っていった。
揺らぎの中に入る前、どこか遠くからの視線を感じて周りを見たのだが野辺次長と自衛隊員以外誰もいなかった。アキナちゃんも何か感じたのかキョロキョロ周りを見回し、なぜか宙を見つめてまたあのニマニマ笑いをしていた。いったい何だったんだろう?
揺らぎを抜けた先の空洞で、俺は録画装置の付いたベルトとビデオカメラを収納して、代わりに華ちゃんとキリアにそれぞれの武器を渡しておいた。さっきまでニマニマ笑いをしていたアキナちゃんはもちろん手ぶらだ。
「それじゃあ、気を引き締めていこう」
「「はい」」「おう」
華ちゃんがライトからの一連の魔術を発動し、俺は地図を見ながら、みんなを先導し第2階層への階段があるはずの洞窟に入っていった。
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『新たな冒険者チーム現る!』『謎の冒険者チーム』『第4の冒険者チーム』
その日のスポーツ新聞の夕刊の見出しである。全国紙の夕刊でもトップではなかったが大きく取り上げられており、午後からのニュース番組でも取り上げられた。
善次郎たちがピラミッドの中に入っていくところが、とあるビルからの望遠レンズで撮影され、その画像をメディアが取り上げたものだ。
善次郎たちは顔を隠しているわけでもない。善次郎のほか高校生に見える華ちゃんと中学生に見えるキリアと小学生か中学生か見分けのつかないアキナちゃんの顔がでかでかと紙面や画面に踊ってしまった。しかし、その画像は望遠レンズの性能が低かったのか撮影者の技量が未熟だったのか多分にぼやけており、個人を特定できるほどの解像度はなかった。
メディアから新たな『冒険者チーム』について防衛省に問い合わせがあったが、防衛省側はその問い合せに対して、
「防衛機密です。ただ言えることは、彼らは最強の冒険者チーム、いわばアルティメットウェポンであるということです」と、コメントするにとどめた。
この防衛省のコメントに対して、国内外のダンジョンに関心のある者たちが、憶測に憶測を重ねていった。




