第254話 巨大カニ1、グリーンリーフ
善次郎たちが平和に壁画談義をしていたころ、防衛省が後ろ盾になった3つの冒険者チームは、探検スキル、盗賊スキルを得たメンバーのほか、善次郎が提供したメタル大蜘蛛、メタルゴーレムによって快進撃を続けていた。
第一陣として一般開放される予定の第1から第3までのピラミッド=ダンジョン周辺には、いわゆる突貫工事で冒険者用施設も形を現してきており、四月中のオープン予定に十分間にあうところまでこぎつけてきている。
また、全国12カ所の自衛隊駐屯地において冒険者免許試験も始まっており、既に1万人を超える冒険者が書類上誕生し、ダンジョンの一般開放を待っていた。
そういった中、グリーンリーフの3名は冒険者として生活していく決意を固め、それまで休学中だったそれぞれの高校を退学している。
また、正月記者会見を開いて以降、メディアへの出演依頼がグリーンリーフに殺到しており、これまで数回そういった番組に3人揃って出演もしている。それだけではなく、大手レコード会社からもオファーがきており、彼ら3人はいまや、時代のヒーローと言っても過言ではない地位を築いていた。
小中学生の将来の夢は、『グリーンリーフのような』と修飾語の付く冒険者が、2位以下を大きく引き離して1位に輝いていた。
第1ピラミッド=ダンジョンの第15階層で宝物庫を見つけた後、グリーンリーフはその階層の探索を続けているが、第16階層につながる階段をまだ見つけていなかった。
「この階層も広すぎよね」と、鈴木茜。
「15階層までがいわば一本道だったからね」
「この階層は罠だらけだけど、宝箱は見つかるし、結構いいところじゃないかな」
「何と言っても、メタル大蜘蛛よね。モンスター戦だとわたしたち基本は見てるだけでいいもの」
「メタル大蜘蛛も、メタルゴーレムも岩永さんが作ったって本当なのかな?」
「防衛省の誰かが、Zって言ってたから間違いないよ」
「あの人、ただ者じゃないと思っていたけど、思っていた以上だよね」
「わたしたち、なにかとちやほやされてるじゃない。ここで慢心せずに、上には上がいると思って気を引き締めていきましょう」
「そうだね」
「うん。一葉さん、さすがはリーダー」
「もう、よしてよ。
それじゃあ、休憩はこれくらいにして先に進みましょう」
「「はい」」
……。
「開けるわよ」
先ほど斎藤一郎によって罠が解除された扉に田原一葉が手をかけた。一葉の隣りにはメタル大蜘蛛が控えており、扉が開けば一葉が探検スキルを使って部屋の中を確認し、部屋の中にモンスターがいればメタル大蜘蛛は罠の有無にかかわらず突撃していく。
これまでメタル大蜘蛛がまだ解除されていない罠の上を何度か通過したことがあったのだが、その際、モンスター同様罠が作動しなかった。それ以降、グリーンリーフではメタル大蜘蛛を突撃要員として使っている。たいてい、メタル大蜘蛛の突撃だけでミミックを含めたモンスターを斃すことができてしまうので、一葉たち3人はほとんど戦闘することはない。
扉の先の部屋はこれまで通り正方形の部屋だったが、その広さは、これまでの部屋の縦横3倍の広さで、扉の反対側、正面の壁に下り階段が見えた。その下り階段の前には、
「カニ?」
巨大なカニが階段を塞いでいた。メタル大蜘蛛はそのカニに向かって突撃していった。
カニは甲羅だけで縦2メートル、横3メートルほど。右のハサミが極端に大きく、ハサミだけで2メートル近くある。
メタル大蜘蛛は巨大カニの目玉を狙ってその手前で飛び上がったのだが、空中でカニのハサミに簡単に捕らえられ、そのままハサミが閉じて真っ二つに割れてしまった。割れたメタル大蜘蛛は青く光りながら二つに割れたフィギュアに戻り、小石のように床に転がった。
メタル大蜘蛛が壊されたあと、部屋の外から斎藤一郎が杖をかざし、ファイアーアローを数発撃ちこんだが、巨大カニにはまるで通用せず、ダメージを与えることができなかった。
巨大カニが一葉たちに向かって迫ってくる中、一葉は扉を閉め、
「ここは、引きましょう」
そう言って、二人に撤退を促した。メタルゴーレムは放っておいても3人の後をついてくる。
30メートルほど通路を下がったところで、振り向いたところ、巨大カニは扉を開けて通路に出てきてはいなかった。
「あんなのがいたんだ。
一葉さん、どうする?」
「これまで無敵だったメタル大蜘蛛が簡単にやられた以上あそこに挑戦するのは厳しいけど、メタルゴーレムを戦わせてみる?」
「メタルゴーレムまで壊しちゃったら、怒られないかな?」
「でも、相手がどの程度のものか確認した方がいいんじゃないかな。階段の前に陣取っている以上いずれ戦わないといけないわけだし。
メタルゴーレムは何といっても岩永さんが作ったものだからきっと補充がきくと思うよ」
「そうね。メタルゴーレムに持ってもらっている荷物をいったん下ろしてそれからメタルゴーレムを突っ込ませましょう」
3人はメタルゴーレムをその場にしゃがませて、背なかの大型リュックを外してやった。
リュックは通路に置いたまま、3人はメタルゴーレムを伴い先ほどの部屋の扉の前まで移動した。
「それじゃあ、開けるわよ」
後ろに控える二人が頷いたところで、一葉が扉を開けた。中を覗くと巨大カニはちゃんと階段前に戻っていた。
「メタルゴーレム、あのモンスターを斃しなさい!」
メタルゴーレムは一葉の命令を聞き、巨大カニに向かって突進していった。
ゴーン、ゴーンとメタルゴーレムが拳を振るい巨大カニの甲羅に打ち付けるが、ダメージを与えているようには見えなかった。
メタルゴーレムは拳を打ちつけながらも、巧みに体を反らしたりして巨大カニのハサミ攻撃や足攻撃をかわしていたが、結局巨大カニの足に掴まってしまい、最終的には頭部を砕かれて動かなくなり、青く光って元のフィギュアの大きさに戻った。
その姿を見た一葉はすぐに扉を閉めて、
「撤退よ」
3人は前回同様後方に向けて駆け出した。
「今回の探索はここまでにして、泉まで下がってから野営準備をしましょう」
「ゴーレムの荷物はどうする?」
「わたしたちじゃ、手分けしても運べないから諦めるしかないわ」
「やっぱり、そうだよね」
3人はゴーレムのリュックを放棄して、第15階層の入り口の泉の部屋まで撤退し、その日はそのままそこで野営して、翌日早朝、第15階層からダンジョンの出口に向けて撤収していった。




