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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第239話 フィギュアメーカー


 翌日。


 大金貨を入れるとスキルブックが手に入る自動販売機の話は、アキナちゃんとキリアにも話しているので、二人もいつになく真剣だったのだが、午前中はホームランを打てなかった。



 午前の探索を終えた俺たちは、いつものようにお掃除済みの石室の真ん中にブルーシートを敷いて昼食を取っていた。ピョンちゃんは華ちゃんのヘルメットの上に止まっているのだが、華ちゃんは気にならないようだ。もはや不思議生物と化したピョンちゃんだから、これくらいで驚く必要はないのかもしれない。


「午前中は、意気込んだくらいで自動販売機はそう簡単には見つからなかったな」


「気長に探していきましょう」


「そうだな。

 華ちゃんならスキルブックが手に入るとして、何のスキルブックが欲しい?


「わたしは、岩永さんの持っているアイテムボックススキルかな。アイテムボックスは小さくてもいいんですけどね」


「確かにあれば便利だからな。

 アキナちゃんは?」


「そうじゃなー。わらわの欲しいスキルはアイスじゃな」


「アイス? 魔法のスキル?」


「魔法のスキルじゃ。好きな時にアイスが出てくるスキルじゃ」


「なるほど。あればいいな、そういったスキルが」


 アキナちゃんの望むスキルは荒唐無稽に聞こえるが、俺の錬金工房はアキナちゃんの望むスキルの完全上位互換だ。なので、今のアキナちゃんの言葉の意味を理解した俺は、アキナちゃんにバニラアイスとイチゴアイスで答えてやった。


「さすがはわらわの見込んだゼンちゃんじゃ。わらわの気持ちを良ーく理解してくれておるようじゃ」


 アキナちゃんの次にキリアと華ちゃんにもお望みのアイスを渡して、俺はいつもの抹茶アイスを食べた。抹茶の風味が脳の緊張をほぐしてくれるような気がするんだよな。


「キリアだったらどんなスキルが欲しい?」


「うーん。わたしだったら、商売が上手になるスキルブックがあればそれが欲しいです」


「また変わったものが欲しいんだな」


「エヴァが将来商売するようになったとき役に立つかなって思うから」


 うちのこどもたち4人全員、友達思いだよな。商売のスキルブックがなくてもインヴェスターZが後ろ盾になってやるからな。



 ニマニマ笑いのアキナちゃんは2つでは足りないのは分かっていたが、俺たちがアイスのコーンをまだ食べていないうちに渡したアイスを食べ終わっていた。アキナちゃんは食べるのが速い。俺は催促される前に、ラムレーズンと抹茶を渡しておいた。正規の朝昼晩の食事はみんなと同じなのだが、デザートの時だけ食べるのが極端に早い。神殿では待遇が悪くデザートを貰っていなかったのか?


 俺が失礼なことを考えていたら、ニヨニヨ笑いながらアキナちゃんはアイスを2つ食べ終わっていた。



 昼食休憩を終え、その場を片付けた俺たちは、探索を再開した。



「開けるぞ」


 午後から通路に沿った石室を順に確認していき、通路の突き当りにあった扉に俺は手をかけた。もちろん罠は解除済みだ。


 扉の先も正方形の石室だったが、20メートル四方の広さがあり、天井もそのくらいあった。扉は俺が今開いた扉だけ。床の上には何か丸い模様が描かれていた。


 華ちゃんがデテクトアノマリーを唱えたら模様全体が赤く点滅を始めた。デテクトライフでの反応はなかった。


 部屋の中に入った華ちゃんの頭上のライトの明かりに照らされた赤く点滅する模様は、赤く光っていないときは青い色をしており、俺や華ちゃんを召喚した召喚魔法陣に似ていた。


「魔法陣だよな。いったい何の魔法陣なのかな?」


「向こうの壁に何か張ってあります」


 魔法陣を踏まぬように向こう側の壁まで進んで壁を見ると、文字だか模様だかが、いわゆる銘板のようにそこだけ四角く磨かれた壁に刻まれていた。


 これは、アキナちゃんマターなので、


「アキナちゃん、これ読める?」


「読めるが、毎度のことだが発音はできぬ。

 意味は、彫像師:魔法陣の上に命を失いしものを置け。さすれば新たな命が授けられる。

 最後の言葉はわらわでも意味が分からなかった。発音の近いのはエレメア?じゃな」


「命を失いしものというのは、死体だよな。死体を魔法陣の上に置くと生き返るってことか?」


「でも、死体を生き返らせるのに彫像師というのはおかしくありませんか? それに生き返って新たな命ということは、死んでしまう前の命とのつながりがない気もします」


「人間の死体はさすがに持ち合わせがないから、モンスターの死骸を置いてみるか。

 当り障りのない大蜘蛛の死骸でいいな」


 俺はアイテムボックスから大蜘蛛の死骸を魔法陣の真ん中に直接排出してやった。大蜘蛛の死骸は死んだときそのままひっくり返っていたが、問題ないだろう。


 しばらくそのままで様子を見ていたが、大蜘蛛の死骸はひっくり返ったままで変化は何もなかった。


「やっぱり、ちゃんと置かないとだめなのかな」


 ひっくり返ったままの大蜘蛛の死骸を一度収納して方向転換してまた魔法陣の真ん中に排出した。


 じーと見ていたが何も変化がない。


「おかしいなー。

 看板に偽りがあったんじゃないか?」


「おかしいのー、『彫像師:魔法陣の上に命を失いしものを置け。さすれば新たな命が授けられる。エレメア』と書いてあるはずなんじゃが」


「あっ! 魔法陣と大蜘蛛が光ってます!」


 キリアの声に振り向くと魔法陣と大蜘蛛が青く輝いていた。その光が消えた時、大蜘蛛は見えなくなり、代わりに魔法陣の中心に3センチほどの大きさの銀色の何かがあった。魔法陣の中には入りたくなかったので、銀色の何かを手のひらの上に転移させた。


「蜘蛛のフィギュアだ!」


「彫像師ってフィギュアを作る人って意味だったんですね。人じゃないからフィギュアメーカーの方がふさわしいかも」


「それいいな。

 アキナちゃんが、あの銘板を読んだから魔法陣が作動したんだろうけど、キーになったのは最後のエレメアじゃないかな。

 試してみよう。

 今度は何にするかな。

 そうだ! どうせだから大物のバジリスクで試してやろう。3センチの大蜘蛛のフィギュアじゃ飾っても迫力ないけど、バジリスクならフィギュアになってもそれなりに大きくなりそうだし、飾りにはちょうどいいんじゃないか。

 出でよ、バジリスク!」


 俺はアイテムボックスの中に大事にとっていた2匹バジリスクのうち大きい方の死骸を魔法陣の上に置いた。


「エレメア!」


 俺がエレメアと言ったとたんに魔法陣とバジリスクの死骸が青白く輝き始め30秒ほど光が続き、光が消えた時には、魔法陣の真ん中に30センチほどのバジリスクの銀色フィギュアが6本足で立っていた。


 手の上に転移させたバジリスクのフィギュアを見ながら、


「思った通りだった。

 なかなかいい置物が手に入ったぞ。この艶消しされた光沢が何ともいえないな」とか言って喜んでいたら、華ちゃんが、


「岩永さん。ここまで大げさな魔法陣がモンスターの置物を作るだけのものなんでしょうか?」


 と、至極ごもっともな疑問を口にした。


「確かに。

 そう言えば、俺のラノベとゲーム知識(けいけん)から言って、こういったフィギュアは主人公がピンチの時、いやピンチである必要はないけど、『使用』すればフィギュアから本物のモンスターに戻って主人公たちのために戦うんだ」


「きっとそれですよ。それだったら新たな命ですもの」


「しかし、どうやって使えばいいのか分からないな。

 ここでいろいろ試して、本当に戻ってしまったらそれはそれで厄介だものな」


「そうですね。味方になったモンスターを邪魔だからと言って処分してしまうのはかわいそうだし」


「今度モンスターに出会ったら、試しにモンスターに向かって投げつけてみるか。大蜘蛛のフィギュアだったら惜しくないし」


「投げれば『使用』になりますか?」


「試してダメならそれまでだ。壊れていなければ拾えばいいだけだし」


「そうですね」


「この場所は覚えたから、次にいってみよう。

 こっち方面はこれで最後だったから、転移で次の探索場所まで跳ぶぞ」


「「はい」」「おう」




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