第237話 インヴェスターZ4。
防衛省での会議を終え、俺は華ちゃんを連れて隣街の書店近くに跳んだ。今日はコミックとイオナ用に画集を仕入れるのが主な任務だ。
二人して書店に入り、俺はコミックコーナーでコミックを物色していく。華ちゃんは美術コーナーに回って画集を調達する。俺たちの間では立派な分業体制が確立されているのだ。
10分ほどで、シリーズもののコミックを2つほど選んだら、華ちゃんが奥の方から画集を数冊抱えて帰ってきた。1冊は世界的に有名な絵画を集めたもので、あと3冊はどれも近代物のようだった。
近代物は、人物画、静物画、風景画といった括りがあるようだった。載せられている絵画は俺でも知っているような傑作なのだろう。
華ちゃんの抱いていた画集を俺が代わりに持ってレジにいき精算した。コミックは例のごとく段ボールに入れてレジの横に置いてある。
買い物を終えてもまだ時間があったので、久しぶりに証券会社をのぞいてみることにした。
抱えていた本は歩きながら少しずつ収納していき、証券会社に入る前には手ぶらになっていた。
華ちゃんを連れて入った証券会社のドアの先の受付には受付嬢が座っていたのだが、俺が入ってきたことを認めたとたん大急ぎで受付の中から飛び出してきた。
「岩永さま、ご来店をお待ちしておりました。
担当の者を直ちに呼びますので、お席でしばらくお待ちください」
受付嬢に案内された俺は窓口のカウンターの前に置かれた席に着いた。華ちゃんは俺の隣りに席を作ってもらいそこに座った。
二人並んで担当者を待っていたら、担当者がくる前に、先ほどの受付嬢が緑茶を持ってきてくれた。サービスいいんじゃないか。
お茶をすすりながらまったりしていたら、えらい勢いで担当者が俺の向かいにやってきて、
「岩永さま、ご来店をお待ちしておりました。連絡がまったくつかなかったため、ご住所にも何度か伺ったのですがいつもお留守のようで、失礼しました」
「住所はあそこなんだけど、ここのところ帰ってなかったしなー」
「そうでしたか。それで、ですね、わたくしどもの法人担当からのご提案で、岩永さまのお持ちになっている例の企業がこの度公募増資をすることになりまして、岩永さまにもし興味がおありでしたらご案内させていただきたいのですが」
「公募増資と言ってもピンとこないけど、わたしから見た場合、出資の一つって考えればいいのかな?」
「はい。その通りです」
「なら、一口乗ってもいいよ」
「この支店での割り当てが2億円分ですので、1億円分でどうでしょう?」
「たった1億だと、この前買った株の10分の1しかないから少なすぎるな」
「少々お待ちください。本社に確認してみます。
……。
お待たせしました。
本社に確認したところ、この支店に追加で20億円分まで回せるそうです」
「じゃあ、それでお願い」
「かしこまりました」
「いまからお金を振り込むから」
「岩永さまの口座にはすでに20億入金されていますが」
「そうだったっけ。すっかり忘れてた」
それなら後は適当にやっちゃって」
「かしこまりました」
「ほかに超優良銘柄ってないかな?
華ちゃん、何か買いたい株ってある?」
素人のビギナーズラックという言葉もあるから、ここは華ちゃんのお勧め銘柄にドーンと張ってもいいかもな。
「そうですねー。はるかさんの学校のこともあるから、教育関連はどうでしょう?」
「教育関連じゃピンとこないから、出版社にするか?」
「それもいいですね。それじゃあカドカワなんてどうです?」
「カドカワ? カドカワってあのカドカワ? 最近鳴かず飛ばずだよな」
「そうかもしれませんが、web小説なんかにも手を出しているそうです。名まえはたしか、カクカク?だったかな? やっぱり、カクなろ?だったかな?」
「華ちゃんweb小説なんか読んでたの?」
「いえ、わたしは一度たりとも読んだことありません」
何の意味があるのかは不明だが、そこで華ちゃんがなぜかキリッとした顔をした。
「そ、そうなんだ。
この先カクカクだかカクなろにはご縁があるかもしれないから、100億くらいいっとくか。
カドカワ、100億お願いします」
「か、かしこまりました」
「これも、忘れないうちに100億円送金。……。
よし、振込完了。
あとは適当でいいから」
「買い付け値段はいくらに致しましょうか?」
「いまの値段で」
「では、2600円の指値で100億。入金確認次第発注いたします。
注文は今週いっぱい有効です。指値注文ですので、1週間では全く約定しないかもしれませんが、ご了承ください」
「適当にやってくれていいから」
「はい」
証券会社で適当に株の注文をした俺たちは、最敬礼する担当者と受付嬢を後に店を出た。カドカワについては100億円買えるかちょっと心配だったが、よく考えたら、何かのはずみで不祥事でも起こせば株価が下がって100億円分の株も手に入る。下がったところを買って上がったところを売る。これぞインヴェスターZの極意だな。
「結局たった120億しか買えなかった」
「株って難しいんですね」
「だな。超優良銘柄を見つけるのは簡単だけど、買うこと自体がこんなに大変だとは思わなかった。
今日の会議で自動販売機の話が出てたけど、お金を入れたら株が出てくる自動販売機があれば便利だよな」
「そんなのができちゃうと、証券会社がなくなっちゃうんじゃないですか?」
「そうでもないだろう。銀行にATMができても銀行の窓口はいつも混んでるんだから」
「そういえばそうかも」
今日も昼食は華ちゃんと食べてくると言っていたので、
「さて、今日は何食べる?」
「そうですねー。お好み焼きなんてどうです?」
「お好み焼ねー。俺は広島のじゃないとダメなんだよなー。華ちゃん、どこでもいいから広島のお好み焼屋知ってる?」
「銀座の辺りだったか、日本橋だったかで見たことがあったような。
そうだ、広島県のアンテナショップの中で見ました」
「それじゃあ、そこにいってみるか。
スマホで調べればわかるだろ。
……。
あった、あった。銀座にあった」
スマホで位置を確認した俺は、その店に近くて俺の知っている場所に華ちゃんを連れて跳んだ。
スマホを見ながら歩いていったら、すぐに見つかった。まだ時間が早かったのでお好み焼屋は混んでなく、二人並んですぐ座れた。
メニューには肉たまそばと書いてあったが俺はあえて、
「ブタたまそば」「わたしも、同じ」
これが食べたかったんだよ。
……。
久しぶりの本格お好み焼はおいしゅうございました。




