第235話 グリーンリーフ6。神殿の壁画
スキルブック自動販売機で探検スキルと盗賊スキルのスキルブックを2枚ずつ手に入れたグリーンリーフの3人は、予定どおり15階層から階段を上り、階段口の空洞の隅で野営準備を始めた。
各人がバックパックを地面に下ろし、その中からパック飯と毛布を取り出した。防刃ベストと手袋とヘルメットは外しているが今は靴は履いたままだ。寝る時には靴下は履いたままだが靴を脱ぐことになる。
3人はパックライスとレトルトカレーそれに加熱材をビニール製の加熱袋に入れ、上から定量の水を入れたあと、加熱袋のファスナーをきっちり閉め、ごはんとカレーが温まるのを待っていた。水を掛けられて発熱した加熱材によって加熱袋の下に溜まった水はすぐに沸騰し始めた。3人とも慣れたものである。
「地面がゴツゴツしているから、下で野営した方が良かったかもしれないわね」
「これから先、こういったところで野営することが増えてくるだろうから慣れるためにもここで野営しておいてもいいんじゃないかな」
「それもそうね」
「初めての野営だと、なんだかドキドキしない」
「修学旅行じゃないんだからそんなことはないな。
そう言えば高校の修学旅行行きたかったな」
「わたしも」
「仕方ないよ。無事日本に帰ってこれたことを喜びましょうよ」
「そうだよね」
「みんな岩永さんのおかげだものね」
「うん。
あの人今何やってんだろう?」
「こっちに帰ってきたらわたしたちなんか目じゃない冒険者なんだものね。
そう言えば、防衛省の人が言っていたけど、防衛省の中にもすごい人たちがいるんだって。
詳しくは教えてもらえなかったんだけど、二人いて一人がZ、もう一人がSって呼ばれてるんだって」
「なにそれ、カッコいい!」
3人はでき上ったカレーを食べながら世間話を遅くまで続けた。
翌朝。グリーンリーフの3人は野営を終え、14階層から出口のある第1階層を目指して出発した。出発時刻は午前7時。昨夜就寝時刻は遅かったが、鈴木茜の快眠の願いのおかげか、3人とも元気に目覚め、予定より1時間早く出発できた。
帰途、何度かモンスターに遭遇したが難なく退け、途中5階層で昼食を兼ねた90分の休憩後、午後4時過ぎにピラミッドを後にした。
冒険者チーム、グリーンリーフは貴重なスキルブックと大金貨28枚、それに水場と宝物庫の情報をD関連局に持ち帰った。
グリーンリーフが水筒に入れて持ち帰った水場の水を分析した結果、飲用に適した軟水だった。
探索を終えたグリーンリーフの3人は2日間の休暇が与えられている。グリーンリーフへの報酬だが、未成年ということもあり、成人するまでは月給制という形で、手取り50万としているが、そのほかに、成年後受けとる成功報酬を設定している。スキルブックについては1億円、その他のアイテムについては2千万から3千万という報酬設定となっている。防衛省内では高すぎるとの声もあったが、D関連局長の川村が押し切ってその報酬設定となっている。
今回の探索前までで3人はスキルブックを含め62個のアイテムを持ち帰っており、今回の探索では、12個のアイテムとスキルブック4個、それに大金貨28個を持ち帰っている。3名は報酬を3等分することにしているため、前回までで、一人頭6億近くの成功報酬を得ており、今回の大金貨を全てスキルブックに変換できたとすると、今回だけで一人頭10億を超える成功報酬を得ることになる。ダンジョンで発生した利益は、財務省との取り決めで当面非課税である。もちろん、グリーンリーフの3人の成功報酬も非課税である。
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展覧会は1週間ほど続いた。イオナの絵はバレンの街で評判になり、連日商業ギルドに大勢の人が詰めかけたそうだ。俺たちが展覧会の初日にいったときは衝立でできた通路の中ほどにイオナの絵が飾ってあったが、あの状態だと一度に多くの人があの絵を見ることができなかったので、午後からは展示場所を受け付け横に臨時に置いた衝立の真ん中に飾られたという話だった。
そういった塩梅だったので、イオナに是非絵を描いてもらいたいという引き合いがメラー先生を通して随分あったのだが、今のところそれらは保留にしている。
理由は、アキナちゃんが一心同体として、鳳凰となったピョンちゃんと一緒の絵をイオナが描くと大神官に話をしたところ、ようやく修理の終わった神殿の壁画として描いてほしいと頼んできたからだ。アキナちゃんもそれを望んでいたようなので、了承した。
二十歳のアキナちゃんの肖像画については、その関係でこちらも保留状態になっている。
今、俺たち一心同体の4人はフル装備で楽園の真ん中に立って、ピョンちゃんを中心にイオナの前でポーズを取っていた。
それで、肝心のポーズだが、俺と華ちゃん、キリアとアキナちゃん二組で、ドラゴン〇ールのフュージ〇ンをピョンちゃんの左右でポーズしたらと提案したのだが、華ちゃんに即座に却下されてしまった。
それで、最終的に決まったポーズは、
俺、キリア、ピョンちゃん、アキナちゃん、華ちゃんの順に並び、華ちゃんがアキナちゃんの左肩に右手を乗せ、アキナちゃんはピョンちゃんの左の翼に右手を添える。俺とキリアはその逆だ。ずいぶんおとなしくなったものだ。
各人空いた手は、適当にしている。華ちゃんは左手を腰に当て、アキナちゃんはグーして前に突き出し、キリアはフレイムタンを右手に持って真上に上げ、俺は如意棒を右肩に乗せて右手で支えている。
このポーズをイオナが簡単にスケッチした。スケッチは一度見ただけで絵を描くことのできるイオナにしてみれば、本来不要なのだが、俺たちにどういった絵ができ上るのか教えるためにわざわざ描いてくれたようだ。
でき上ったスケッチを見せてもらったら、それなりにカッコよかったので良しとした。イオナによると、1日3時間から4時間壁に絵を描いて、2週間はかかるという話だった。かなり大きな絵になるようだ。でき上りが楽しみである。
モデルの仕事が終わった俺たちは、ピョンちゃんに別れを告げ屋敷に帰ろうとしたのだが、今日はピョンちゃんが聞き分けが悪く、華ちゃんを放そうとしなかった。
「岩永さん、ピョンちゃんも一緒に屋敷にいきたがっています」
「連れていくのはかまわないけど、前回みたいに衰弱したら嫌だな。まあ、楽園リンゴも楽園イチゴもかなりストックがあるからいいか。だけど、あの鳥かごの中には入らないな」
「粗相するわけでもありませんし、居間の中で、放し飼いでもいいんじゃないですか」
「それもそうか。
それじゃあ、みんな手を取ってくれ」
みんなが俺の手を取り、俺は華ちゃんの頭の上に知らぬ間に乗っかっていたピョンちゃんに手をあてて、屋敷の居間に転移した。
「ピョンちゃん、その辺りでいいか?」
ピアノを置いていない最後の部屋の隅に毛布を丸めておいたら、ピョンちゃんはその中に入ってしゃがんだ。
毛布の前にコタツの上のミカンを入れているかごと同じものを置き、その中に楽園リンゴと楽園イチゴを2、3個ずつ入れておいてやったが、まだお腹が空いていなかったようでピョンちゃんは食べなかった。華ちゃんが隣に座って頭を撫でてやっていたら、目を閉じて丸くなってしまった。寝ちゃったかな?
鳳凰に進化してだいぶ大きくなっているピョンちゃんだと、居間の天井はそこまで高くないので飛び回ることは難しそうだ。我慢してもらうほかはないが、庭に出して飛び回らせてしまうと大騒動になりそうなのでどうしたものか。玄関ホールは天井が高いからあそこにブランコでも吊り下げておいてもいいかもな。
「鳳凰を飼っておるうちは世界でここ一軒だけじゃろうな」
俺もそう思うよ。
ピョンちゃんはそのまま寝たようなので、俺たちは普段着に着替えるため部屋に戻った。




