第232話 展覧会の絵
イオナのメラー先生による絵画の学習は進み、いまでは油絵を描き始めている。俺がしゃしゃり出てイオナが緊張してはいけないと思っているので、授業中は絵画部屋に顔を出してはいない。授業が終わり、先生たちとお茶をする前に、少しだけ描きかけの絵を見せてもらっている。油絵となると色鉛筆と違い、完成までにはある程度時間がかかるようだ。
授業が終わりメラー先生とお茶をするときは、他の子どもたちも呼んでお茶をしているので、今ではメラー先生は子どもたち全員の名まえを覚えている。
はるかさんが監督している学校の方は土台の上に柱が立ち上がり、屋根もでき上りつつある。こちらも順調のようだ。
そして、今日は商業ギルドのホールで開かれる展覧会の日だ。メラー先生とは商業ギルドの入り口で待ち合わせをしている。
俺たち9人は、みんな揃って、余所行きの服を着て屋敷から商業ギルドまで歩いていった。
俺たちが商業ギルドの玄関に差し掛かったところで向こうからメラー先生が歩いてきた。
「おはようございます」「「メラー先生、おはようございます」」
「みなさん、おはようございます」
結局俺たちは10人でぞろぞろと商業ギルドの中に入っていった。
「おはようございます」「「おはようございます」」
まずは、受付嬢たちにあいさつしておいた。
「「みなさま、おはようございます」」
受付の後ろに通路になるように衝立が並べられて、その衝立に絵が飾ってあった。
どう見て回ってもいいのだろうが、衝立でできた入り口っぽいところから俺たちは順に飾られた絵を見ていった。
静物画や、風景画、それに肖像画といった絵画が並べられている。どれも油絵に見える。
並べられた順に特に意味はないようだし、これといったテーマもないようだ。とはいえ、どの絵画も俺から見れば素晴らしい絵画だ。俺たちの他にもそれなりの人が絵を眺めながらゆっくり移動していた。
一つ一つの絵を見ながら移動していき、少し進んだところで、衝立通路が折り返し、その先を眺めて進んでいくとまた折り返すといった調子で、かなりの数の絵画が飾られていた。
そうやって何回か折り返しを過ぎたところで、10人ほどの人が立ち止まって衝立に飾られた絵を見ていた。
衝立通路はそれほど広いわけではないので、俺たちは一列になるようにして、その人の塊の後ろからその絵を見たのだが、その絵は俺の『着衣の善次郎』だった。
おいおい。照れるじゃないか。
この絵のことはうちのみんなは知っているわけだから、どうってことはないが、この絵のモデルの俺が絵の後ろに立っていりところが見つかったら、絵を見ている人から追いかけられるのではないかとヒヤヒヤものだ。
「わたしの思った通り、反響がありましたね」と、得意顔のメラー先生。
子どもたちは絵の前に立っている大人たちが邪魔でよくは見えていないようだが、それでも、
「イオナ、すごいね」「こんなにたくさんの人が見てる絵なんてなかったよ」「わらわの思うた通りじゃった」「さすがはご主人さまです」
若干1名アレだが、イオナのことを持ち上げていた。
いちおう絵を見ることができたので、俺たちはその先に進んでいった。
一通り飾られた絵画を見終わって受付前あたりで集まっていたら、知らないおじさんが俺たちの方に歩いてきた。
「これは、メラー先生。
メラー先生のお弟子さんの描かれた絵を拝見しましたが、見事のひとことです」
「ここにいるイオナさんが描かれたもので、あの絵を描いたのはわたしの弟子というわけではないのです。今わたしはイオナさんに油絵を教授していますが、あの絵はわたしが教授する前の物ですし、そもそも油絵ではありません」
「なんと。
これほどお若い方があの絵を。若い才能というものは恐ろしいものですな。
ところで、メラー先生、あの絵のモデルの方をご存じありませんか? そこらのモデルではまねのできないあのポーズ、あの表情。どうしてもわたしの絵のモデルになっていただきたいのですが」
「バーラー先生。先生の作品は男性同士の愛を描いたものが多かったと思いますが、今度の作品もそうなんですか?」
「もちろんです。若い男性同士の愛こそ至高!」
はるかさんがなぜか頷いている。
俺は悪いが、寒気がしてきた。俺は他人の嗜好についてとやかく言うことはないが、俺に関わってくるとなるとそうも言ってられない。
そこで、メラー先生がバーラー先生に情報を与えないよう目配せしたのだが、
「わたしもモデルのことが気になってイオナさんに聞いてみたのですが、あれは想像して描いたものだったようです」
「ということは、架空の人物!? そうだったんですか。非常に残念です。
それでは、メラー先生お先に失礼します」
『さきほどメラー先生の近くに立っていた男性、どこかで会ったような?』
バーラー先生はそんなことをつぶやきながら肩を落として商業ギルドから出ていった。
メラー先生とは商業ギルドの出入り口で別れ、俺たちは屋敷に帰っていった。
屋敷への帰り道。
俺の後ろを歩く子どもたちの会話が聞こえてきた。
「若い男の人同士の愛?」「男の人同士で愛し合うの?」「そんなばかな」「でも見てみたいよね」「わらわも興味が湧いてきたのじゃ。神殿に帰ったら爺に聞いてみるのじゃ」
何事にも興味を持つことは悪いことではないのだが、いいのだろうか? はるかさんがどんな顔をしているのかと見たら、しきりに頷いていた。リケジョと思っていたがフ属性持ちだったのか?
屋敷に帰って余所行きから普段着に着かえ、コタツでミカンを食べながら華ちゃんの弾くピアノの曲をみんなして聞いていた。
その曲は聞いたことのあるようなないような。あとで華ちゃんに曲名を聞いたらムソルグスキーの『展覧会の絵』という曲だった。
展覧会の絵 ピアノ
https://www.youtube.com/watch?v=tdHk1b4el-g




