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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第226話 カルチャーショックと楽園。


 姿見の前でポージングをあれこれ考えた翌日。


 昨日受け取ったままにしていた雑貨屋から届けられた画材を絵画部屋に置いて、そのあと『着衣の善次郎』を持った俺はイオナを連れて商業ギルドを訪れた。ポスターフレームの素材はプラスチックだったし、ちょっと安っぽかったので、ちゃんとした額縁に入れている。額縁に入れたから中身がどう変わるわけでもないが、ちょっとレベルアップした感じがした。


 いつものように受付で来意を告げたら、


「画家のメラー先生よりお話は承っております。絵画はこちらであずからせていただきます」


 と、言われたので、受付に俺のポートレートを手渡した。


「これは見事な絵画ですね」


 どうせお世辞なのだろうが、褒められればそれなりに嬉しいものだ。


「若い画家の先生が描かれた絵ということでしたが、まさか

ゼンジロウさまがお連れになっている方がお描きになったものですか?」


「実はそうなんです」


 俺が褒められるより、イオナが褒められる方が何だか嬉しく感じるな。


 イオナは照れているようで少し頬を赤くしていた。


「この絵のモデルさんですが、どこかで? あっ、ゼンジロウさまのご親戚の方がモデルをされていらっしゃる?」


「フフフ」


 そういったところは謎が多い方がいいと思って、思わせぶりに笑ってみたのだが、


「いえ、その絵のモデルは、ご主人さまです。ご主人さまが若かったらどんなかなーって想像して描きました。ポーズだけはご主人さまのオリジナルです」


 イオナがあっさりばらしてしまった。


「このポーズも斬新ですね。今回の展覧会は作品の優劣を競うものではありませんが、もし今回の展覧会がコンテストだったら悪くても入選したことでしょう」


 おだてもここまでくると、芸術だな。さすがは商業ギルドの看板を背負った受付嬢だ。


「それじゃあ、よろしくお願いします」「お願いします」


 そういうことで、俺とイオナは気持ちよく商業ギルドを後にした。




 午後からメラー先生がやってきたので、イオナが迎えて、急造絵画部屋に通した。初日の今日は2時間ほどの授業だった。授業では、色粉と油を使って主に油絵の具の作り方を学んだようだ。


 授業の後、隣の応接室にメラー先生を招いてお茶を出した。お茶請けは楽園イチゴのスライスを上に乗っけたショートケーキにした。部屋の中には、メラー先生と俺の他イオナとなぜかアキナちゃんがしれっと座っていた。


 小皿の上に乗っけたショートケーキを見たメラー先生が、


「見たこともないお菓子です。

 この上に乗っているのはイチゴのように見えますが、大きさから言えばイチゴではない」


 そう言いながら、フォークを楽園イチゴのスライスに突き刺して口に運んだ。


「やはり、イチゴ。しかし食べたことのないほどの甘さ。もしや、このイチゴは幻のイチゴ、楽園イチゴでは?」


「先生、よくご存じですね」


「そうだったんですか!? ダンジョンの最深部にあるといわれる楽園の中でのみ採れるという伝説の楽園イチゴ。ゼンジロウどのがAAランクの冒険者であることは、存じていましたが、秘密裏に(・・・・)ダンジョンを制覇されていたとは!」



 あれ? 何だかおかしなことをメラー先生が言い始めたぞ。確かに楽園イチゴは楽園で採れたものだが、楽園はただの第1階層なんだがな。


 まあ先生が喜んでくれているのならそれでいいか。イチゴもおいしいが、クリームと土台のスポンジもおいしいぞ。


「なんですか!? この白いクリームは。それにこのふんわりした土台のスポンジケーキ。これほどむらなく膨らんだスポンジケーキなど見たことはありません。

 こういったお菓子は、こちらの厨房でお作りになられたのでしょうか?」


 ありゃ? メラー先生にカルチャーショックを与えたかもしれない。俺が作ったケーキならともかく、コピーしたものだから、俺にレシピなんぞ分かるわけはないので、


「うちの台所で作ったものではないんですがね」と、あいまいに答えておいた。


「ゼンちゃんは、巨大なアイテムボックスを持っておるのじゃ。そのアイテムボックスの中に適当なものを突っ込んでおいたら、勝手にこういった食べ物ができてしまうのじゃ。ゼンちゃん、そうじゃよな?」


 本質を突いたコメントをアキナちゃんが口にした。ここはこの波に乗るしかない。


「不思議ですが、そんな感じで、アイテムボックスの中でできちゃうんです」


「気付かぬうちにお菓子を創造している。ということですか。なるほど、イオナさんがこれほど想像力と創造力を持っているのはゼンジロウどのの影響を受けていたからですね」


 勝手にメラー先生は納得してくれたようだ。


 ケーキを食べ終え、お茶を飲み終えたメラー先生は、


「楽園イチゴのケーキまでいただき、ありがとうございました。一生の思い出になります」


 そう言って帰っていった。イオナは先生を門まで見送っている。


 しかし、楽園イチゴがそこまで大層なものだったとは驚きだ。ピョンちゃんを迎えにいくと、いつも適当に摘んでいるのだが、いついっても、かなりのイチゴが生っているからそれほど有難みはなかったんだよな。


 今回は楽園イチゴだったが、次回は楽園リンゴを出さないとな。



「ゼンちゃん、わらわも知らなかったが、あの大イチゴは楽園イチゴというのか」


「華ちゃんが鑑定したから間違いないと思うぞ」


「楽園イチゴが楽園でしか採れないのはいいとして、その楽園がダンジョンの最下層とはの」


 確かにあの楽園に入るためには、魔方陣はいいとして鍵が必要だった。親切設計のおかげでダンジョンの最初の部屋でマスターキーであるスケルトンキーを見つけたから簡単に楽園に到達できたが、本当の鍵は、あのダンジョンの最深部に置かれている可能性もある。そうなると、楽園は最深部の先にあることになるから、メラー先生のさっきの話もあながち間違ってはいない。


「確かに楽園は魔神のいたところとついになっているような感じもあるしの」


 魔神のいたところから光と命を全て奪って楽園が作られたと言っても不思議はないくらいだ。


 対というより対極だな。


 考えがあらぬ方向に漂ってしまったが、楽園が最深部なら、鳳凰フェニックスは楽園のどこにいるんだ?


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[一言] メーテルリンクの青い鳥? しあわせでなくフェニックスだけど
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