第225話 イオナ6
午後1時過ぎからイオナははるかさんの肖像画を描き始めた。
居間では、オリヴィアと華ちゃんがピアノのレッスン中で、キリアは外に出てフレイムタンで素振りをしている。エヴァは2階に上がっていったので、勉強部屋で自習を始めたのだろう。俺とアキナちゃんだけが二人でコタツに入ってミカンを食べていた。
2時間ほどではるかさんの肖像画ができ上ったようで、ポスターフレームを胸に抱いたはるかさんがアキナちゃんを呼びに居間にやってきた。その間に、雑貨屋から荷物が届いたので俺が受け取って、アイテムボックスに念のため入れておいた。
アキナちゃんを呼んだはるかさんはそのまま2階の自分の部屋にポスターフレームを持っていってしまった。はるかさんの顔は嬉しそうだったところを見ると、自分のイメージ通りの肖像画ができ上ったのだろう。
そもそも、イオナは一度目にしたものは見ないでも絵を描けると言っていたので、モデルは一度ポーズを決めてしまえばいいだけなのだが、そういったことをはるかさんは知らなかったはずだからじっと立ったままだったか、椅子に座っていたのだろう。
はるかさんに呼ばれたアキナちゃんが、コタツを出て、ニマニマしながら居間を出ていった。
アキナちゃんの肖像画も2時間はかかるはずなので、俺はその間に風呂の準備でもしておこうと風呂場にいって風呂の準備をした。まだ早かったのだが、結局そのまま風呂に入ってしまった。
湯舟に浸かって、俺の『着衣の善次郎』のことを考えていたら、なんだか寒気がした。これから気温も少しずつ下がっていくのだろうから、お湯の温度をもう少し上げた方がいいな。
いったん湯舟から上がった俺は、湯舟のお湯をいったん収納して、2度ほど温度を上げて湯舟に張り直した。
湯舟に手を付けて塩梅を見たら、少し熱いくらいだった。2度程度でもかなり体感温度は変わるのだなあ。と、妙に感心して湯舟に入ったら、手で触った時以上に熱かった。
それでも肩まで浸かって、湯の温度に慣れたところで、湯舟から出て頭と体を洗って、最後に湯舟に入って風呂から上がった。
次に入る子どもたち用にお湯を張り直したが、イオナがアキナちゃんの肖像画を描いている途中なので、今日は全体的に後ろに入浴時間が伸びそうだ。仕方ないな。
服を着替えて、居間に戻ったら、イオナとアキナちゃんがちゃんとコタツの中に入っていた。
「わらわは、色を塗る前でやめてもらったのじゃ。
すごくいい絵ができそうじゃったので、もっと大きな絵を本格的に描いてもらうことにしたのじゃ」
なるほど。たしかにそれはいい考えだ。そうなると本式の額縁に飾った方がいいものな。
「額縁も、紙の大きさもいくらでも調整できるからその時は言ってくれ」
「うん。その時はゼンちゃんに頼むのじゃ」
そうこうしていたら、キリアも素振りから帰ってきたので、
「風呂の用意は終わっているから子どもたちはそろそろ風呂に入れよ。お湯はちょうどいいと思うが、温かったり熱かったりしたら、蛇口からお湯を入れたり、水を入れてうまく調節しろよ」
「「はーい」」
アキナちゃんを先頭に、華ちゃんとピアノを弾いていたオリヴィアも2階に着替えを取りに居間を出ていった。
その華ちゃんが、ピアノの椅子から立ち上がって、
「はるかさんの絵はどうでした?」
「ポスターフレームの中にでき上った絵が入っていたと思うけど、抱いたまま上に上がっていったからまだ見てない。はるかさんはかなり嬉しそうな顔をしていたのは確かだからいい絵だったんじゃないか」
「なんだか、みんな絵を描いてもらってるから、わたしもイオナちゃんに描いてもらおうかな」
「いいんじゃないか。
どうもみんなおとなしそうなポーズしかしていないようだから、ここらで華ちゃん、ガツンとしたやつを頼むよ」
「ガツンとしたポーズですか?
例えばどんな?」
「そう言われると困ってしまうが、そうだ!
俺たち一心同体4人全員で戦隊もののヒーローポーズはどうだろう?」
「わたし戦隊ものの番組をちゃんと見たことはないんですが、アレって、奇数じゃなかったですか? 確か真ん中が赤い人で」
「4人でも何とかなるさ。その辺りはイオナ画伯の指示通りポーズすればいいんだよ」
「確かに画家の望むポーズをすればいいとは思いますが、イオナちゃんは一度も戦隊もののDVDとか見てないはずだから、難しいかもしれませんよ」
「華ちゃん、イオナを信じようよ。きっと素晴らしいインスピレーションですごい絵を描いてくれると思うんだ」
「それじゃあ、今度時間が空いたときみんなでモデルになりましょう」
「その時はみんな鎧を着けて完全武装でな。
楽園で描くことにして、ピョンちゃんも入れてやればいいんじゃないか? そうしたら奇数になるし」
「それはいい考えですね。楽しみ」
華ちゃんを誘導するのはピョンちゃんを使うのが一番だな。
子どもたちが風呂から上がって、華ちゃんのヘアドライヤー魔法で髪を乾かしてもらっているあいだに、イオナに一心同体の集合絵画を描いてもらうよう頼んでおいた。せっかくなので大きな絵にしてもらうつもりだ。
夕食がおわり、デザートをみんなに配った俺は、華ちゃんたち用に風呂の準備をして自室に帰った。夕食の片付けも終わったところで華ちゃんたち3人は風呂に入ったはずだ。
自室に帰った俺は、部屋に置いてあった小さな鏡を見ながら、それなりのポーズを取ってみたのだが、鏡が小さすぎて何が何だかわからない。
ということで、鏡をいったんアイテムボックスに収納して、錬金工房で大きくしてやった。
縦2メートル横1メートルの姿見だ。見た目大きすぎるし、かなり脆そうに見えたので、一度アイテムボックスに戻して、今度は肉厚の鏡を作ることにした。
でき上った鏡は一人で持ち運びはできそうもないほど重そうだった。そのかわり、そうとう丈夫そうに見える。
如意棒を持ってポーズを付けた方がいいのだろうが、部屋の広さは十分あっても天井の高さが足りないので、まかり間違って天井に如意棒が当たれば、天井が広範囲にわたって壊れてしまいそうだ。そうなっては大ごとなので、エア如意棒で我慢することにした。
気持ちは巨大モンスターの脳天に如意棒を振り下ろしているところだ。
「エイ!」
つい力がこもってしまって声が出てしまった。
自分一人でポーズを取ってしまったが、これは俺個人のポートレート用ポーズではなく一心同体の集合ポーズを考えなければいけないことを思い出した。
ブルーとイエローの気持ちになって体を斜めにして、その傾斜した体に合わせて手足を伸ばしてみた。
俺が鏡の前で四苦八苦していたら、部屋の扉の向こうから、
『ご主人さま、どうかしましたか?』
と、イオナの声がした。
熱心にポーズを取りすぎて声を出していたのか音を立てていたのか、心配させたようだ。
「大丈夫。寝る前に少し運動してただけだから」
『そうだったんですね。よかった。それじゃあ、お休みなさい』
その後も、戦隊もののポーズを思い出しながら、声は出さないように注意していろいろポーズしてみたが、これだ! というポーズを思いつけなかった。
ここは素直にイオナ画伯のインスピレーションに頼るしかあるまい。
気付けばだいぶ夜が更けていた。ポージングはそれくらいにして、俺はベッドに入ってそのまま寝てしまった。ポージングも寝る前には有効みたいだ。




