第223話 イオナ4、着衣の善次郎2
『着衣の善次郎』事件から二日経った。
隣の敷地では学校の土台ができたようで、柱が立ち始めていた。
この日は午前中から一心同体のフルメンバー+ピョンちゃんで南のダンジョンの未探索部分の探索を行なった。
収穫は金貨ぐらいのものであまり大したことはなかったのだが、たしかにピョンちゃんが大きくなってきているような気がする。
ピョンちゃんを楽園に残して屋敷に戻った俺は、華ちゃんにピョンちゃんのことを聞いてみた。
「華ちゃん、いつもピョンちゃんを肩に止めてるけど、重くなってないかい?」
「重さの違いは判りませんが、少し羽が青みがかってきたような気がするんですよね」
「俺はそれは気付かなかった。次にピョンちゃんを見た時によく見てみよう」
「ええ、そうしてください」
居間の中で4人揃って鎧を脱ぎながらそんな話をしていたら、リサが俺のところにやってきた。
「ご主人さま、昼過ぎごろ神殿から使いの方がいらっしゃり、明日10時ごろ、絵の教師が務まりそうな画家をこちらに派遣するとのことでした」
「どんな人物だか会ってみないと分からないのに、いきなりうちに寄こされても、断ることも難しいから、良い人物であることを願うだけだな」
「ゼンちゃん、もし、ゼンちゃんなり、イオナが気に入らんと思えば、わらわの方からちゃんと断ってやるゆえ心配無用なのじゃ」
なんでもないようにアキナちゃんが言うが、悪気のない相手に無駄に不快な思いはさせたくないので、ご縁のない時は何か手土産を持たせて帰した方がいいだろう。もちろんいい人物だったら万々歳だ。
とはいえ、アキナちゃんが絡んだ事柄なので、なんとなくうまくいくような気がしているのも確かだ。
そして、翌日。
約束通り、画家の先生が屋敷にやってきた。
応接室の中で俺、イオナ、アキナちゃんが座って待っていたら、手はず通りリサが応接室に案内してくれた。居間の方からは華ちゃんかオリヴィアが弾くピアノの曲が聞こえてきていた。実に文化的な生活である。
先生が部屋に入ってきたところで、俺たちは立ち上がり先生を迎えた。
「アキナ神殿の大神官さまに紹介されてきました画家のマーガレット・メラーです」
俺と同年代に見える落ち着いた感じの女性が自己紹介した。
「わたしがこの屋敷の主人のゼンジロウです。
それで、ここに居りますのが、今回絵の教授をしていただきたいイオナです」
「そして、わらわが神殿の女神アキナじゃ」
なんだか、アキナちゃんがいるとややこしくなりそうだが、神殿からの紹介の先生なのでアキナちゃんがここにいないわけにはいかないからな。
「おお、これはアキナさま。まだ私が駆け出しのころアキナさまのお姿を描かさせていただいたことがあります」
「そうじゃった。思い出したぞ。
その節はありがとうな」
「滅相もありません」
「あの絵は爺の部屋にちゃんと飾ってあるからの」
「感激です」
「わらわのことばかり話してしもうて話が逸れてしもうたが、ゼンちゃん、このマーガレット・メラーならイオナの絵の先生に適任じゃ。わらわが保証する」
確かに人柄は良さそうだし、実績もあるようだ。
「イオナ、どうだ?」
イオナに聞いては見たがさすがにここで嫌とは言えないものな。
「はい。よろしくお願いします。メラー先生」
「それでは、メラー先生、よろしくお願いします」
俺からもメラー先生に頭を下げておいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。
さっそくですが、イオナさんがどういった絵を描いているのか、そういったものがあれば見せていただきたいのですが」
「イオナの絵はすごいのじゃ。
わらわについてきてくれればイオナの絵を見せてあげられるのじゃ」
アキナちゃんが席を立ったので、つられてみんな席を立ち、そのまま応接室を出て2階の勉強部屋に向かった。一度コタツを使って授業をしたことがあったのだが、みんな気持ちよくなって、うつらうつらと舟をこぎ始めたので、コタツ授業は一度きりで、結局授業は勉強部屋で行なっている。
俺は今年に入ってから一度も勉強部屋の中に入っていないので、俺のポートレートが飾ってあることは知っていたが、今どういうふうになっているのか把握しているわけではない。
勉強部屋に入ると、白板を下げた壁の反対側の壁にずらりとポスターフレームが掛けられていた。子どもたちの背中側、先生から見て正面の壁ということになる。
ポスターフレームに入ったイオナの絵をメラー先生が真剣な目をして一枚一枚じっくり眺めていく。
そして、壁の真ん中に掛けてあった、俺の着衣のゼンちゃんの前でメラー先生は立ち止まったまま動かなくなってしまった。
何か嫌な予感がする。
「この絵、どうしました?」
メラー先生が冷めたような声でイオナに尋ねた。
「ご主人さまにモデルになっていただき、ご主人さまの若い頃のお姿を想像して描きました」
イオナが正直にゲロってしまった。
「素晴らしい! ここにある絵は全てどのような画材で描かれたのかは想像するよりありませんが、繊細な線と色使いによる、まるで実物と見まごうばかり写実性。そして斬新なモデルのポーズ、若さをどこかに置き忘れたような物憂げな表情。
これはもう、わたしが教えるようなことは何もないかもしれません」
先ほどの冷めたような声は何だったのか分からないが、メラー先生は興奮してまくし立てた。
「2週間後に、商業ギルドのホールで絵画の展覧会が開かれます。
どうでしょうか、イオナさんのこの絵を出品なさいませんか? わたしは展覧会の委員をしていますので今からでも展覧会に出品できます」
俺としては非常に有難迷惑なのだが、俺が我慢することでイオナの将来が少しでも明るくなるのなら我慢するしかない。
「イオナ、いいかな?」
「はい」
「それじゃあメラー先生、お願いします」
「わかりました。今日中に商業ギルドに話を通しておきますから、明日にでも作品をギルドにお持ちください」
「はい」
そういうことになってしまった。
「それで、メラー先生。絵の教授の方はどうなります?」
「これほどの実力がイオナさんにある以上あまり教えることはないのですが、
そうですね、イオナさん、油絵の心得は?」
「全然ありません」
「それでしたら、油絵について簡単な基礎をお教えしましょう」
「はい。よろしくお願いします」イオナが頭を下げた。
「そうですねー。これから画材を扱っている店にいって、画材を一通り揃えてしまいましょう。
ゼンジロウさま、イオナさんを連れて買い物に出てよろしいですか?」
「もちろんです。
それでしたら画材代などをお渡ししなくてはなりませんね」
「大神官さまから、授業料や画材などの費用は神殿が払うのでゼンジロウさまには一切負担をかけないよう言われておりますので、そういったものは結構です」
そこまで気遣う必要などないんだがな。
「ゼンちゃん、面白そうなので、わらわも二人についていくのじゃ」
好きにしてくれて構わないのだが、先生は大丈夫なのだろうか。
「アキナちゃんがついていきたいそうですが、大丈夫ですか?」
「もちろん大丈夫です」
俺も、画材には何となく興味があったし、荷物運びはいた方がいいと思いメラー先生についていくことにした。




