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岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する  作者: 山口遊子


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第218話 学校2、元旦


 年が明けた。ニューワールドでは、年末連休明けで仕事始めになるようだ。


 これまで、子どもたちを使って錬金術師ギルドと冒険者ギルドにポーションを卸していたのだが、年が明けたのを機会に、うちに取りにきてもらうことにした。卸価格を下げることなく交渉は成立している。これで子どもたちは運搬作業から解放されたことになる。



 今日の朝食は、昨夜華ちゃんとはるかさんが俺の作った重箱型白皿に盛りつけた総菜版おせち料理と、リサの作ったお雑煮だ。はるかさんにさっそく習ったのかリサは今日の朝から軽く化粧をしているようだった。元が美人なわけで、薄化粧で何が変わったわけでもないが、お肌に若干張りがあるような、みずみずしいような。余計なことは口にしない方が妙な褒め方をするよりよほどいいので、俺は何も言わないでいた。


 おせち料理にはそれぞれいわれがあるらしいが、俺は歳の数だけ黒豆を食べることくらいしか知らないので、誰にも講釈を垂れなかった。


 そのかわり、華ちゃんとはるかさんがありがたいお話をみんなにしてくれたので十分だろう。


 みんな雑煮を食べながら、少しずつ小皿に取ったおせち料理を食べていた。


 食事の片付けが終わった後で、俺はリサ以下5人を居間に呼んで、「日本の風習だ。気にせず取っておけ」といって、リサには金貨3枚、子どもたちには各々金貨1枚を渡しておいた。呼んだのは5人だったが漏れなくアキナちゃんも付いてきたのでアキナちゃんにも金貨1枚渡している。アキナちゃんは例のニマニマ笑いをして金貨を受け取った。


 正月らしい行事はそれくらいで終わった。子どもたちは年末休業していたポーション運搬のため俺にポーションを用意してくれるよう言ってきたところで、俺が単純にもうポーション運びの必要はなくなったと子どもたちに伝え忘れていたことを思い出して、向こうから取りにくるようにしたことを教えてやった。



 この日、学校建設のため商業ギルドに紹介された建築屋さんが約束の時刻にやってきた。応接室に通して、俺とはるかさんで応対した。


「建物全般の建築を扱っていますマーロン建築のマーロンです」


「ゼンジロウです」「ハルカです」


 簡単にあいさつして、席に着いた。


 はるかさんによると、ここバレンの街にはないが、国の中には何個所か大学アカデミーがあるそうだ。大学に入るための初等、中等教育のための施設、いわゆる学校はないらしい。裕福な家の子弟や、裕福な人本人が大学にある程度の寄付をして入学するというシステムのようだ。


 なので、この世界の建築屋のマーロンさんにはアカデミーはなじみがあるだろうが、俺たちの考えるような『学校』はなじみがないはずなので、説明が難しいかもしれない。


「お隣を取り壊して、新たに大きな部屋のある建物をお作りになりたいとか。

 取り壊す物件は見当たらないのですが、既に業者に頼まれて取り壊されましたか?」


 実は昨年末、隣の屋敷を俺がそのまま収納している。更地になった地面を華ちゃんが重力魔法で押し固めて、わずかに凹んでしまった地面にプールを作った時の楽園の土砂を敷いてさらに押し固めている。


「業者に頼んだわけじゃなくて、わたしの方で適当に処分しちゃいました。

 地面も押し固めていますから、基礎工事はすぐに始められると思います」


「は? はあ。了解しました。

 それで、どういった用途の建物なのでしょうか?」


「子どもたちに学ぶ場を与えるために、学校というものを作ろうと考えています。もちろん大学アカデミーのような大掛かりなものではありません。対象は10歳から12歳の子どもたちを考えています」と、はるかさん。


「なるほど。

 部屋の種類、広さそれに数はいかかでしょう?」


「子どもたちが学ぶため、先生が子どもたちに学問などを教える部屋、教室として、小型の机と椅子が20人から30人分入る大部屋が3つと、物置、先生用の部屋として大き目の机と椅子が10人分入る部屋、それに流しとトイレを考えています」


「お話はうかがいましたが、今一つ教室?についてわたし自身のイメージが湧きませんので、もう少し具体的に何かありませんでしょうか?」


「ちょうど、絵を用意しています。これが教室のイメージですが、こんな感じのものを考えています」


 そう言って、はるかさんが、何か印刷された紙をマーロンさんに見せた。横から見ると、日本の小学校だか中学校の教室の写真が何種類か印刷されていた。


「ふむ、ふむ。ほう。なるほど。

 教室についてのだいたいのイメージは掴めました。それにしても、この絵は見事ですね」


「そうですか。うふふ」


 カラープリンターの印刷なんぞ、説明は面倒だもの笑ってごまかすのが一番だよな。


「お隣の敷地なら、先ほどのお話程度のものなら平屋でも建てることができますが、どうしますか?」


「のちのち増築することもあるかもしれませんから、2階建てでお願いします」


「了解しました。

 それでは、明日のこの時間、図面をもって参りますが、ご都合はよろしいですか?」


「もちろんです」


「それでは失礼します。

 おっと、その前に、敷地を拝見させてください。敷地の広さなどは商業ギルドの図面で確認していますが、この目で見ていた方が良いもので」


 自分の目で確認することは大事だよな。


 隣の屋敷の門の鍵は外したままにしているので、外からでも門を開けられる。


 はるかさんと一緒にマーロンさんを案内し、いったん通りに出て、表から隣の屋敷の門扉を開けて中に入った。


 隣りの敷地の中を一通り見て回ったマーロンさんが、


「地面も良く突き固められていますし、工事に邪魔になるようなものもありませんから、工事はすぐにでも始められます。

 それでは、失礼します」


「「よろしくお願いします」」


 マーロンさんはそのまま速足で帰っていった。見てて気持ちがいい人だった。


 マーロンさんに仕事を任せるとはまだ言っていないので、とんでもない見積もりが出るようなら断るしかないが、相場が分かるわけでもないし、商業ギルドが出資者に勧める業者で問題がある業者ということはおそらくないだろう。




 翌日の同じ時間、マーロンさんが図面を持ってやってきた。


 俺が思っていた簡単な図面とは程遠い精巧な図面をテーブルの上に広げたマーロンさんが説明してくれた。


「教室の大きさは7メートル×10メートルとし、廊下の幅を2メートルとして、建物の基準としています。

 1階部分には、玄関と教室が2つに物置と先生用の部屋、玄関と物置と先生用の部屋はそれぞれ教室の半分の大きさです。それに、トイレとトイレ前の廊下を利用した流し。教室などを挟んで、トイレと流しの反対側に、踊り場で一度折り返す2メートル幅の階段が付きます。

 2階部分には教室1つだけです。

 1階部分の大きさは、南に向かって横43メートル。縦9メートル。

 2階部分の大きさは、南に向かって横14メートル。縦9メートル。

 床から天井までは2メートル50センチです。

 これで延べ床面積は513平方メートルになります」


 平面図の後は正面図も見せてくれた。


「2階部分にもう2部屋教室を設けて3教室としても、それほど工事費は上がりませんし、工期もほとんど変わりません。

 この場合、2階部分の大きさは、南に向かって横34メートル。縦9メートル。

 こんなところです。延べ床面積693平方メートルになります」


「ほう。

 はるかさん、それならそうしてもらったらどうかな。余裕がある方がないよりいいのは確かなんだし。音楽教室とか図書室とか作れるかもしれないし」


「善次郎さんがそれでいいなら、それで」


「マーロンさん、そういうことなので、2階に3教室でお願いします」


「了解しました。

 後は、内外装になります。

 屋根と外壁は板張りとします。どちらも防腐加工されていますから、最低でも20年は大丈夫です。

 内側の壁は泥壁に漆喰塗りを考えています。

 床、天井は板張りです」


「はるかさん、これでいいんじゃないかな?」


「そうですね。十分だと思います」


「これで見積もりをお願いします」


「見積は、用意しております。

 こちらになります」


 見積を用意していたということは、2階が3部屋のものも用意していたということか、恐るべし。


 マーロンさんが紙の束を出して、いろいろ説明してくれたが、正直素人の俺には理解できなかった。


 工期は2カ月半。


「はるかさん、どんなものです?」


「693平方メートルは210坪なので簡単にして約200坪。

 一般家屋で坪単価は40から60万円とすると、金貨1枚5万円として金貨8枚から12枚。これを200坪にかけると金貨1600枚から2400枚。

 学校の場合、一般家屋と比べれば作りは相当簡単ですから3分の1もかからないでしょう。ということで金貨533枚から金貨800枚。

 見積額が金貨575枚-値引き金貨25枚で金貨550枚ですので妥当じゃないでしょうか」


 電卓もないのに、暗算でここまでできるのか! 元理研の研究員も恐るべし! 世の中、恐るべしだらけのようだ。


「それでは、それでお願いします。

 支払いは?」


「商業ギルドからの紹介ですので、竣工後で構いません。

 工事はいつから入ってよろしいですか?」


「こちらはいつでも構いません」


「それでは午後から図面に合わせてくい打ち始めますので、門は開けておいてください」


 そう言ってマーロンさんは図面を持って帰っていった。お茶を出す暇もなかったが、工事の依頼主の立場から言って非常に頼もしい。




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