第217話 大晦日
俺とはるかさんとで、はるかさんの部屋の前の廊下でやり取りしていたら、はるかさんが帰ってきたことを知った子どもたちが、ワイワイと集まってきた。相変わらず座敷童がくっ付いていた。というか先頭に立っていた。
大晦日なのに神殿に帰らなくていいのか? そもそも神殿からご神体を迎えにこないのだがどうなってるんだ? 俺の知らぬ間にアキナちゃんは本当に俺んちの子になってしまっていたのか?
「はるかちゃん、お帰りなさい。なのじゃ」「「はるかさん、おかえりなさい」」
「みんな、ちょっと待っててね。みんなにお土産を買ってきたから」
はるかさんはいったん部屋の中にはいって、小袋を抱えて部屋の中から出てきた。
小袋には一つ一つ子どもたちの名まえが書いてあるようで、それを見ながらはるかさんは小袋を子どもたちに渡していった。もちろんアキナちゃんにも用意されていた。
「わらわにもお土産があったのじゃ。うれしや」
アキナちゃんがまたニマニマ笑いを始めた。
「ここで袋の中を見ても良いのかの?」
「もちろん」
袋の中から出てきたのは花の刺繍が入った可愛いハンカチだった。
「可愛いハンカチなのじゃ。はるかちゃん、ありがとう、なのじゃ。大事に使うのじゃ。あっ!
『アキナ』
わらわの名まえがカタカナで刺繍されてたのじゃ。凄いのじゃ!」
他の子どもたちも袋を開けて、ハンカチの刺繍とカタカナで書かれた自分の名まえを見て大興奮だった。
使う前にコピーしてやろうと言いかけたが、みんなの喜んでいる顔を見て、こういったものは思い出と一緒で、たった一つだから宝物なのだと思い直して止めておいた。
その後、はるかさんには荷物の整理があるので、俺は子どもたちを連れて居間に下りていった。
俺たちが屋敷に帰ってきたとき、子どもたちはちょうど屋敷の内外の掃除が終わったところだったようで、みんなしてコタツに入っていたらしい。こたつの上に置いた大き目のカゴの中にミカンを入れておくようにしているのだが、空になっていたので補充しておいた。
「華ちゃんが見えないが、どこかな?」
「華ちゃんなら、台所にいってリサちゃんの手伝いをしておるのじゃ」
「何を作っているのかな?」
「何でも、おぞうにを作るとか言っておったのじゃ。
わらわには、おぞうにが何かわからんがの」
子どもたちが台所の手伝いをしていないところを見ると、台所に二人もいれば十分なのだろう。
いずれにせよ楽しみだ。昼食がお雑煮なら、夕食は年越し用のてんぷらそばだな。熱海で食べたそば屋のそばを思い出したので、昼食前だったが、30分ほど留守にすると言って、そばをコピーするため熱海に跳んでやった。
そば屋は大晦日だけあって店の中は混んでいたが、それでも席は空いていたので、すぐにざるそばを注文した。
10分ほどで出てきたざるそばを、お盆ごとコピーして、5分で食べ終え、勘定を済ませて屋敷に帰った。けっこう急いで食べたそばだったが、おいしかった。今日の夕食の主食はざるそばで、アイテムボックスにしまっているてんぷらを大皿に入れて出せば十分だろう。そうだ。太巻きも出しておけばいいかもな。
屋敷に帰った俺は靴を脱いで、子どもたちと一緒にコタツに入った。はるかさんが下りてきていないのは、プリンターをノートパソコンにつないだりいろいろ作業をしているのだろう。
そういえば、長いことうどんを食べていないから、今度はうどんだ。ニューワールドの冬は今のところそれほど冷え込まないが、寒いときには鍋焼きだよな。さっきそばを食べたばかりだが、鍋焼きうどんが食べたくなってきた。
お腹が空いているわけでもないのに食べたくなってくるということは、肥満に直結する悪い生活習慣だ。ただし、それは一般人に限ってのことで、俺の場合は葵の御紋の付いた印籠のごときポーションがある。肥満、何それ? なのだ。
子どもたちと一緒にコタツに入ってバカなことを考えていたら昼食の準備ができたようだ。
テーブルの上には、卓上ガスコンロが二つ置かれ、その上に大きな土鍋が一つずつ置かれていた。
土鍋の蓋に付いた蒸気穴から上る湯気からいい匂いが漂ってくる。
みんなの前に大き目のお椀と箸が置かれ、はるかさんを含めてみんな揃ったところで、土鍋の蓋が開けられた。
白菜、大根、ニンジン、シイタケ、それに鶏肉が入った鍋に、焦げ目の付いた餅が入っていた。
「最初はオモチは一人2個だけど、追加はできるから」と、華ちゃん。
その後、華ちゃんとリサでお玉を使ってお椀の中にいろいろな野菜と鶏肉、それにオモチが2つ入れられた。
「いただきます」「「いただきます」」
「フー、フー」。アキナちゃんが息をお椀に吹きかけて、まずは目立つ餅に挑戦した。
「何じゃこれは? どんどん伸びるではないか?
フー、フー。ちょっとだけじゃが、食べにくいぞ。
フー、フー。何だか変わった食べ物じゃ。
フー。じゃが、面白い。
野菜も、味が染みておいしいのじゃ」
アキナちゃんが解説しながら雑煮を食べている傍ら、子どもたちも、フー、フー息を吹きかけながら雑煮を食べている。
不思議なもので、食卓をこうしてみんなで囲んでいるだけでも部屋の中が暖かく感じる。人の数も9人もいるわけだし、卓上コンロは弱火だが点いているので、実際のところ室温も上がっているんだろう。
「夕食は、てんぷらそばにしようと思って、さっき日本に跳んでざるそばを仕込んできた。
てんぷらはいつものてんぷらだけどな」
これで、意味は伝わったと思うが、アキナちゃんは熱海旅行のことは知らないハズなので、熱海の名まえは出さなかった。
「しっかし、日本の食べ物は何を食べてもおいしいのー。
わらわの神殿の者たちにも食べさせてやりたいのー」
たしかに、アキナちゃんは神殿の神さまだ。
こうなってくると、一肌脱ぎたくなるがどうすればいいか? きょうの雑煮は既に食べてしまって、土鍋の中には半分くらいしか残っていないので、コピーするわけにはいかないが、なにか、こういったみんなでよそって食べられる鍋物みたいなものをコピーして大量に作ればなんとかなるだろう。次の鍋料理はきりたんぽにしてもらって、それを食べる前にコピーしてやろう。
「アキナちゃん、すぐには無理だが、次に鍋料理があったらそれをコピーして神殿用に大量に作ってやるよ」
「ありがとうなのじゃ。ゼンちゃんは優しい男なのじゃ」
俺はオモチをもう2つ追加してもらって、それでお腹いっぱいになった。子どもたちはオモチのお替わりはしなかったようだが、野菜と鶏肉をよそってもらって、最終的には鍋の中は空になっていた。何年振りかの雑煮をこんなに大勢と一緒に食べることができて、俺も大満足だった。
冬に入ってから、アイスの出番は減ってきているのだが、雑煮を食べてかなり体の芯まで暖まっているので、今日のデザートはアイスにした。
夕食は予定通りソバを堪能した。それだけでは少し物足りなかったので太巻きも出している。
その日の夜は、華ちゃんとはるかさんで、俺の用意した総菜おせちを盛り付けてくれた。重箱の用意を忘れていたので、俺が作った重箱のような形をした皿への盛り付けだ。皿の色は内側が赤く、外側が黒くなるようにしたかったがうまくいかなかったので真っ白な皿だ。




