第215話 年末5
買い忘れていたミカンを買って屋敷に帰った。台所のリサを居間に呼んで、俺の方からリサに化粧品セットを渡しておいた。
「リサ、いつもごくろうさん。
これは、はるかさんと華ちゃんに選んでもらった化粧品だ。
消耗品だからなくなったら俺に言ってくれ。いくらでも補充できるから」
俺がそう言って化粧品でずっしり重いビニール袋を手渡したら、リサが、
「奴隷のわたしにそんな必要なんかないのに。ほんとうにご主人さまありがとうございます。
はるかさん、華さん、ありがとうございます」
そう言って頭を下げた。頭を上げた両目には少し涙が見えた。喜んでくれたようで何よりだ。
「使う順番とか使い方があるそうだから、そこらは後ではるかさんに聞いてくれ」
「はい」
料理本と食材、他に出汁関係とか後で渡しておいた。色鉛筆、水彩絵具、筆、スケッチブックについては子どもたちを呼んで、勝手に使っていいからと言って居間の棚に置いておいた。
その日、はるかさんの送別会改め忘年会兼クリスマスパーティーで、出されたメインはリサが朝から煮込んでたという例の蜘蛛だった。アキナちゃんも食べたことがあるようで、喜んで食べていた。
各人そんなにたくさんの量が食べられるわけではないが、リサの作ってくれた料理の他、俺からはクリスマスらしくフライドチキンを皿に盛って出してやり、ケーキ類も好きに食べていいように出しておいた。
どこにそれだけの量が入るのか分からないのだが、アキナちゃんはずーっと何か食べていた。不思議だ。
そして、翌日。簡単に荷物をまとめたはるかさんを連れて、華ちゃんと一緒に定例の週明け会議のため防衛省に跳んだ。
その席で、はるかさんが6カ月間で見聞きしたことのレポートの入ったメモリーカードを提出した。
「木内さん、ご苦労さまでした」と、メモリーカードを受け取った川村局長。
「川村さん。そのことでご相談があるのですが」と、俺がはるかさんのこれからのことについて切り出した。
「うかがいましょう」
「木内さんなんですが、この仕事を契機に理研を退職したいそうなんです」
「ほう。今月いっぱい木内さんはうちに出向している形ですので、いちおう上司の権限ということで、
木内さん、理由をうかがってもよろしいですか?」
「向こうの世界で6カ月間生活し、向こうの世界を見聞きしているうちに、理研でこれから自分ができることより、向こうの世界でできることの方が多いんじゃないかと思ったのがその理由です。具体的には、向こうの世界の子どもたちを相手に学校を開きたいと思っています。幸い、岩永さんも協力していただけるそうなので、無理ではないと思っています」
「なるほど。
木内さん、どうでしょう。木内さんも岩永さんたちと同じようにうちの特別研究員になりませんか? 向こうの言葉が堪能な木内さんとのせっかくのつながりが切れてしまうのはこちらとしても大きな損失ですので」
俺が言い出さなくても、防衛省の方から言ってきてくれた。
「ぜひそうさせてください」と、はるかさん。
「転職についての手続きなどがあるでしょうが、退職が正式に決まりましたらお知らせください。こちらの人事担当に理研の人事から社会保険関連の引き継ぎなどさせますから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「お任せください。
それで、岩永さんのお願いというのは?」
「今の話です」
「そうでしたか。さすがは岩永さん」
そんなこんなですべてうまくいった。その後、駐車場に跳んでいつものようにポーションを卸したあと、わずかばかりの荷物を持ったはるかさんを池袋駅に運んで、俺と華ちゃんは屋敷に戻った。はるかさんと別れる際、大晦日に迎えにいくときの待ち合わせ場所と時間を確認しておいた。場所はもちろん池袋駅前の同じ場所で、時間は午前10時ということにしている。
俺たちは居間に現れたのだが、アキナちゃんだけ居間にいて、なぜかニマニマ笑っていた。なにかいいことでもあったのか?
俺たちの顔を見たアキナちゃんは、
「わらわも昼食の手伝いをしてくる」と、言って居間を出ていった。俺か華ちゃんに用事があったわけでもなさそうだったが、何だったのだろう?
昼食にはまだ時間があったので、コタツをセットすることにした。居間の広さは相当なものなので、ソファーなどを片付けなくても余裕でカーペットが敷けた。カーペットの上にコタツ用敷布団を敷き、コタツを置き、コタツ用掛布団にカバーを付けてコタツの上にかけて、その上に天板を置いた。完成したコタツ一式は掛布団が周りに広がっている関係でかなり大きい。
コタツをセットし終わりコードをコンセントに差し込んでスイッチを入れた。
コタツ布団をめくって中を見るとまっくらだった。コタツの天井がヒーターになっているはずなのだが、すぐに温まるわけではないようだ。それでも少しずつ温かくなってきたような気がする。
華ちゃんも俺の隣りからコタツ布団をめくって、
「どうです、コタツ?」
「温まるまでに時間がかかるようだけど、そのうち点けっぱなしになるんだろうから、ちょうどいいんじゃないか。
夜、勉強部屋が寒いようならここで勉強してもいいし。
エアコンの取り付けは難しいけれど、勉強部屋に簡単に温風ヒーターかなんかを付けてもいいけどな」
「コタツの方が楽しそうだから、今日からコタツで勉強しましょう」
先生が言うならそれでいい。
コントローラーを最弱にして足を突っ込んでしばらく座っていたのだが、なかなか温かくならない。最初は最強にした方がいいようだ。ということで最強を試したらちゃんと温かくなってきた。
そのあと、最弱にしておいた。
昼食後のデザートは後片付けが終わるまでいったんお預けにして、片付けが終わったら居間に集合とみんなに言っておいた。
「なんじゃ、なんじゃ?」
俺と華ちゃんがコタツに入っていたらアキナちゃんを先頭に子どもたちとリサがやってきた。
「これの名まえはコタツだ。試しに靴を脱いでカーペットに上がって、俺たちみたいに布団の中に足を入れてみろよ。驚くぞー」
アキナちゃんが真っ先に靴を脱いでコタツに入った。
「なんじゃー! 布団の内側が温かくて、中が暖かい! 気持ちいいではないか!」
大興奮だった。
みんなも靴を脱いでコタツに入って気持ちよさそうにしている。
「暖かいところで、冷たいアイスはおいしいぞー」
みんなのリクエストに応えてコーンに乗っかったアイスを渡していく。
「おいしーーー!」
またアキナちゃんのニマニマ笑いが始まってしまった。
「どうせ、アキナちゃんは一つじゃ足りないんだろ?」
そう言って、アキナちゃんが手に持っているアイスと同じアイスをもう一つ渡してやった。
「ゼンちゃんは、わらわの心が読めるようになったようじゃの」




