第214話 年末4、デパートから寿司屋。
本屋での買い物を終えて、俺たちはデパートに回っていった。アキナちゃんの冬用の余所行きを買うためと、リサへのお土産を買うためだ。
「ほー。先ほど買うてもろうたんじゃが、またわらわに買うてくれるのかや?」
「さっきのは普段用で、こんどはお出かけ用だ。
そんな差はないはずだけど、種類はあった方がいいだろ?」
「もちろんじゃ。ありがたや、ありがたや」
神さまにありがたがられるのもいいものだ。
アキナちゃんの服は、水着でもないので俺も売り場までついていった。
俺以外の6人がアキナちゃんの服を一緒になって探してやっていた。自分の服ではないのだが、楽しいのだろう。
30分ほどで、上から下までそろえることができたようだ。ここでの会計は俺が担当した。
「さーて、リサへのお土産は何がいいかな?」
「化粧品なんかもいいかもしれませんよ」と、はるかさん。
俺とすれば、気持ちが伝わればそれでいいので、
「じゃあ、そうしよう」と、簡単に決定した。
とは言うものの、当然俺に化粧品など何が何だかわからないので、丸投げするしかない。
「はるかさん、俺の代わりに適当なの選んでください」
「はい」
「化粧品なら、1階で売ってました」と華ちゃん。華ちゃんが化粧品に詳しいかどうかはわからないが、二人に任せておけば大丈夫だろう。
みんな揃ってエスカレーターで1階まで下りていき、俺でも知っている国内メーカーのテナントではるかさんと華ちゃんが店員と相談しながら商品を選んでいった。
ショーケースに並んでいる商品は男の俺からすると、どれもビックリするくらいの値段だった。容器がいかにも高そうなのだが、化粧品は消耗品である。いい商売だ。エヴァを見たら目を輝かせていた。
こういったものはブランド力という付加価値で高額化しているのだろうが、そこは仕方がない。さらに言えば、今日購入すれば荷物持ちの俺が自動的にコピーしてしまうので、その気になればリサの一生分の化粧品を作ることも簡単だ。そう考えると、俺のコピー力は化粧品メーカーが営々と築き上げてきたブランド力に勝ったことになる。誰にも言えないけどな。
15分ほどで商品が決まったらしい。いろいろ種類はあるのだが、なんちゃらシリーズというのでまとめたようだ。そこでの精算を済ませ、商品を俺が受け取った。化粧だけでなく化粧用の小物も入っていたようだ。
外国人の小中学生にみえる5人の女子と日本人の女子高生と30前の女性を連れた俺は、化粧品屋の店員さんから見て、どういう人物に映るのだろうか? 考えてみようと思ったのだが、怖くなって深く考えるのは止めておいた。気にしたら負けだものな。
化粧品にはつける順番があるようだし、ただ塗りたくればいいというもんじゃないだろう。使い方はるかさんに任せればいいだろうが、はるかさんは明日から大みそかまで日本に帰る予定なので、リサが日本の化粧品デビューするのは正月からだな。近いうちに華ちゃんも、化粧を覚え、そのうち子どもたちも化粧を覚えていくわけだ。ただし、アキナちゃんは化粧をする未来の前に、ずっと子どものままで、大人になっていく気がしない。
時刻はもう昼を回っていたので、
「みんな、今日は何食べたい?」と、聞いたところ、アキナちゃんから、
「わらわは、うわさに聞く、寿司が所望じゃ」というリクエストがあった。
しばらく寿司は食べていなかったので、
「そうしようか。
どこがいいかな?」
「それでしたら、駅の向うの商業ビルの中の寿司屋はどうでしょう」と、華ちゃんの提案。たしか、あのビルの焼肉屋のあったレストラン街に寿司屋があった気がする。あのビルの地下にはスーパーも入っていたし最後の懸案事項であるミカン購入にも都合がいい。
師走で人通りが多いので、例のごとく人通りの絶えたデパートの階段の踊り場から、商業ビルのレストラン街に近い階段の踊り場に転移で跳んでいった。
「ほんに、転移は便利よのう」
階段を上るとレストラン街だ。
「建物の中にいろんな食べ物屋が並んでおって、雨の日も気にすることなく食べ歩けるとはよく考えられておるのー。色々見て歩けば、どれも食べとうなって、そのうちくいだおれるんじゃなかろうか?」
それが、店側の狙いなんだろうな。
華ちゃんの案内で焼き肉屋の前を通って、すぐに寿司屋は見つかった。
店の前のショーウィンドーに並べられた商品見本に書いてある値段はそれほど高くはなかった。
店に入ると、客はそこそこ入っていて、カウンターでは8人並ぶことはできそうになかった。そもそもカウンターは恐れ多いので眼中に入ったが最初から選択肢にはなかった。
4人席が並んで2つ空いていたのでくっ付けてもらって、みんなで並んで座った。屋敷でのアキナちゃんの席はテーブルの端で、向かい合って座る華ちゃんと俺の横なのだが今日はリサの席が空いているのでそこに座ってくれと言ったところ、
「初めてアキナちゃんはお寿司を食べるから、エヴァちゃんとわたしが左に移動して、華さんとわたしの間にアキナちゃんが座ればどうでしょう」と、はるかさんが言ってくれた。
確かに初めての握り寿司は、ハードルが高いかもしれない。
そういうことなので、今回は、
エヴァ はるかさん アキナちゃん 華ちゃん
オリヴィア キリア イオナ 俺
という並びになった。
ここでも、アキナちゃんは、まなじりを下げてニマニマしていた。初めての寿司に期待しているようだ。
単品をどんどん頼んでいっても良かったが、ここは簡単にみんな上握りを頼むことにした。
アガリとおしぼりがすぐに運ばれてきた。おしぼりで手を拭いて、お茶を飲んだりして寿司ができるのを待っていたら、10分ほどで全員の握りが脚の付いたまな板の上に乗ってテーブルの上に並べられた。握りのワサビは少しだけにしてもらっている。
アガリを替えてもらい、はるかさんがアキナちゃんの醤油皿に醤油を入れてやったところで、
「いただきます」「「いただきます」」
外国人に見える子どもたちも一斉に日本語でしゃべったものだから、店にいた客も、店の人も驚いていた。文字通り驚くべき教育の成果だ。
寿司の食べ方は華ちゃんがアキナちゃんに教えてやっていた。アキナちゃんも箸は使えるので、箸を使って食べてもいいが下手なことをしてしまうとシャリが折れて落っこちてしまうので手で食べた方が確実だ。
上寿司のネタの種類は14種。普通の握りが11種に軍艦が2種、巻物が1種だ。
こはだ、ヒラメ、鯵、いか、あわび、エビ、中トロ、赤身、あおやぎ、ホタテ、アナゴ。うに、いくら。それに鉄火巻きだ。他に厚焼き玉子とガリが乗っていた。
「どれも、これも、目移りするぐらいうまそうじゃ。
まずはこの黒いのに巻かれた上に黄土色の滑っとしたのが乗っておるこれを食べてみるかの」
「アキナちゃん、それはウニっていうの。屋敷に帰ったら図鑑があるから調べてみるといいわよ。きっと驚くと思う。
それで、こういった上に乗っかっているだけのお寿司は醤油をつけようとすると落っこちちゃうから。
ガリか横についているキュウリを箸でとって、それを醤油皿に付けて、それでウニに醤油を塗るといいわよ。
これがガリ」
華ちゃんが自分のまな板の上の小さめのガリを箸でとって、その先に醤油をつけ、その醤油をウニに塗って、それから手で摘まんで食べてみせた。
他の子どもたちも真剣に見ていた。俺も軍艦への醤油の付け方は初めて知った。イクラの軍艦は味が付いているからそのまま食べていたし、ウニの軍艦は箸の先に醤油をつけて少しずつウニに垂らして食べてたわ。今日は一つ賢くなった。
その後も寿司ネタをはるかさんと華ちゃんの解説を聞きながら一同寿司を食べた。
正直、俺にとっては量が物足りなかったのだが満腹になる必要もないので丁度良かったのかもしれない。女子二人にも丁度良かったと思うが、子どもたちにはちょっと多かったかもしれない。
寿司屋を出たところで、
「それじゃあ、早いけど、屋敷に帰るか」
「「はい」」
「俺は、みんなを屋敷に送ったら、買い忘れたものがあるからもう一度ここに飛んでくる」
「何を買い忘れたんですか?」と、はるかさん。
「ミカン。
せっかくコタツを手に入れたから、ミカンは必須でしょう」
「なるほど。
コタツでみかんを食べながらゲームをするのもいいですよね」
「お正月ですからね。のんびりしましょう」と、華ちゃん。
そのあと、俺はみんなを屋敷に送り返して、再度日本に跳んだ。予定通り商業ビルの地下のスーパーでミカンを仕入れた。けっこう安くて甘そうなミカンを買うことができた。




