第212話 年末2
大型スーパーの年末商戦において、スーパー側の高度な戦略にしてやられた俺は、カートを押してレジに向かった。レジ前にはカートに商品を山盛りにした客がどこの列にもそこそこの数並んでいた。精算までだいぶ時間がかかりそうだ。
仕方ないので、ぼーっと、レジの列に並んでいたら、前の人のカートの中にミカンが入っているのが目に入った。
ミカン買い忘れた! ミカンとくればコタツも欲しい。8人用のコタツがあるかどうかは知らないが、このまえ子どもたち用に机を買ったホームセンターにいけば、ないこともないだろう。正月までには今日を含めてまだ6日あるから何とでもなる。
とにかく一人当たりの買い物量が多いので相当時間がかかる。それでも15分ほどで精算が終わった。
華ちゃんたちとの約束の時間までまだ10分あったが、俺はカートを押しながら少しずつ商品を収納していき、カート置き場に着いたときには中身は全部アイテムボックスに入っていた。
これから、ミカンを買いに戻ると、約束の時間に間に合わなくなるのは確実なので、ミカンはここでは諦めることにした。
上から降りてくるエスカレーターの近くで待っていたら、7人がずらずらと下りてきた。
「お待ちどおさま」
アキナちゃんだけが大きな袋を持っていたが、他にははるかさんがビニール袋を持っていただけだった。
「アキナちゃんの冬物の普段着だけは揃いました。
エヴァちゃんたちは、お小遣いでコミックを買いたかったんですが、コミックが揃っていなかったので諦めました」
「なるほど。となると、隣町の本屋だな」
「そうですね」
「善次郎さん、わたしはどこかのホームセンターにいってみたいんですが。
調べたらソロバンを売ってるみたいなんです」
ほう。ソロバンか。学校教育に取り上げるんだな。役に立ちそうだ。
「俺も、コタツが買いたかったから、先にホームセンターにいきましょう。それから本屋だな」
「「はい」」
やってきたときの小路まで移動して、みんなが俺の手を取ったところで、この前のホームセンターの手前に跳んだ。歩道に人はいなかったが、横の自動車通りには車が行き交っていた。ドライブレコーダーとかいろいろあるから、不審に思ったドライバーがあとで見返せばビックリすることもあるだろうが、俺たちは犯罪者じゃないんだし、どうってことないだろ。
目当てのホームセンターの中に入ったら、厚着だと汗をかきそうなくらい暖房が利いていたので、みんなすぐに上に着ていた防寒具のファスナーやボタンを外した。
「ここの中は暖かいのう」と、アキナちゃん。何語なのかと思えば日本語だった。イントネーションも完全に日本語だった。
「こんなに建物の中を暖かくしなくてもいいのに。お金もかかるし、お客さまもかえって暑く感じそう」と、エヴァだ。
これは、向こうの言葉だったが、いろいろ新しいものを見聞きして、いろいろなことを学べばいい。
はるかさんが、店の人にソロバンはどこに売っているのか聞いたところ、一階の真ん中あたりの文房具コーナーにあると教えられた。
文房具コーナーに歩いていく途中に、調理道具のコーナーがあった。みれば、卓上ガスコンロと土鍋が置いてあった。いつものごとく買い忘れていたのだが、ラッキーだった。
カートを押していなかったので、みんなは先に文房具コーナーに向かわせ、俺だけ入り口近くまで戻ってカートを押して、卓上ガスコンロと土鍋、それにガスのカートリッジの6本セットをカートに入れた。
その後、みんなのいる文房具売り場に急いだ。
「善次郎さん、このソロバンですがコピーできそうですか?」
ソロバンは文房具コーナーでちゃんと見つかったようだ。
「もちろん大丈夫です。
いまは素材も十分アイテムボックスの中に入っていますから、何百個でもコピーできますよ」
店の人もいなかったので、手にしたソロバンを複製ボックスに素早く入れ、すぐにコピーして手の中に戻した。今のは我ながらすごかった。おそらく、0.1秒未満の早業だったと思う。
華ちゃんとキリアは俺の早業に気付いたようだが、他の5人は気付いていなかったようだ。
「はるかさん、必要な個数を言ってくれれば、いつでも用意できますから。
これは、カートに入れておきますね」
はるかさんが今の俺の言葉をどうとるのかは分からないが、必要な時には相談にくるだろうからこれでいいだろう。
ソロバンはソロバンでいいが、珠算の達人ならいざ知らず、掛け算や割り算になると電卓の方が断然有利になる。ということで、ソーラー電卓も1つカートに入れておいた。
「他に何か要りませんか?」
「まだまだ先ですが、ノートとか、大型の黒板とか」
白板なら、屋敷の勉強部屋にぶら下げているのがあるからあれを拡大すれば何とかなると思う。
「勉強部屋に掛けてある白板を大きくしたんじゃだめですか?」
「もちろんそれで大丈夫です」
「それなら簡単に揃えられます」
われながら、便利人間だ。
文房具売り場では、使うかどうかは分からないが、色鉛筆、水彩絵具、筆、スケッチブックも目に付いたのでカートに入れておいた。スケッチブックは大きいのと小さいの2種類だ。自由に使わせておけば子どもたちのうち誰かが絵画に目覚めるかも知れないしな。
そういったものをカートに入れていたら、華ちゃんに「岩永さん、絵がお上手なんですか?」と、聞かれたが、もちろんお上手ではないので、「全然」と答えている。いつものことなので、受けはしなかった。
1階での用事はそれで終わったので、カートを押してレジに回って精算した。こちらのレジはスーパーのレジと比べればスカスカだった。店の中の客数もそれほどでもないし、近い将来俺の街から撤退するんじゃないかと、少し心配になってきた。
一人だけレジに並んでいたお客の精算が終わり、すぐに俺のカートの中の荷物も精算できた。
次はいよいよ、コタツである。
エスカレーターを上って2階に上がり、通りかかった店員さんにコタツ売り場を聞いたら、売り場の一番奥の方だった。
展示品を見ながらぞろぞろ歩いていたところで、
「岩永さん、居間にコタツを置くなら、カーペットを敷いた方がよくないですか?」
「それは、そうだな。
その前に、こたつに入るには靴を脱がないといけないから、カーペットを広めにして、その上は土足禁止にしよう」
「なんだか、面白そうですね」
「日本の家みたいに、玄関で靴を脱いで、そこから先は土足禁止にしたら逆に便利なんだがな」
「そうですね」
「日本では家の中は裸足なんですか?」
エヴァが興味を持ったようで、聞いてきた。
「家の作りはこの前の温泉旅館と一緒だ。あれも中に入る前に靴を脱いだだろ?」
「そうでした。
裸足でタタミの上を歩き回れて気持ちよかったです」
「畳を敷き詰めることができればそれに越したことはないが、それはそれで面倒だから今回はカーペットを敷いて、カーペットに上がる前に靴を脱ぐようにするんだ。カーペットの上は裸足でいいことになるからきっと気持ちいいぞ。
ということだから広めのカーペットを探そう」
探すまでもなくすぐにカーペットコーナーが見つかった。
大き目と言っても限度があるので、とりあえず8畳のカーペットで見てくれの良いものを買うことにした。
それなりのものが見つかったのだが、結構大きい。アイテムボックスの中に収納してしまうのは簡単だが、買ってもいないものをそんなことはできない。ということで、いつもの裏技を発動してしまった。仕方ないよね。運べなかったんだもの。




