第211話 年末1、買い出し
商業ギルドでの予定が思った以上に早く終わってしまった。
明日からニューワールド全体なのかどうかは知らないが、バレンの街は年末5日間の休みに入り、店屋も食堂もどこも開いてないそうだ。俺のアイテムボックスがなくても、うちには十分食料はあるし心配ないけど、はるかさんを連れて屋敷に戻った俺は、はるかさんと華ちゃんを連れて年末の買い出しに日本にいくことにした。年末の買い出しはなんとなく楽しいからな。
「わらわも日本とやらにいってみたいのじゃが、ゼンちゃんならわらわの願いをきいてくれるじゃろ?」
うちの座敷童が俺に頼んできた。アキナちゃんに何か頼まれるとなぜか断れないので、連れていくことに。エヴァたち4人もついでなので連れていくことにした。屋敷には煮込み料理を作っているため手が離せないというリサだけが残ることになった。
昼食の準備も大変だろうと思い、俺たちは向こうで食べてくるとリサに告げ、なにか欲しいものがあればお土産に買ってくると言ったら、料理の本が欲しいと頼まれた。それはお土産にはならないので、他にはないのかと聞いたら、
「そうですねー。出汁? に使う食材が手に入れば」
「わかった。でも、それもおみやげじゃないだろ? 個人的に欲しい物って何かないか?」
「うーん。とくには」
ないと言われて、ハイそうですか。という訳にはいかないのだから、それはそれで困るよな。
各人の秋冬用の衣類は10月に入って普段着用、お出かけ用と揃えている。その買い物でみんなで日本に飛んだ時、たまたまアキナちゃんが神殿に1週間ほど帰っていたので、アキナちゃんの秋冬物は揃えていない。ちゃんと冬物の服を着るように子どもたちに言っているので、アキナちゃんはイオナの服を借りていた。
子どもたちも日本のお金を使うことを覚えさせたほうがいいと思い、アキナちゃんと子どもたちには何に使ってもいいからと言って各1万円お小遣いを渡しておいた。
アキナちゃんは紙切れがお金ということに違和感があったのかもしれないが、お札の印刷も立派だしすぐに理解できたようだ。
華ちゃんにはお年玉を兼ねてお小遣い10万円、アキナちゃんの衣料用に10万円、なにか屋敷で必要なものがあれば買ってもらうためさらに10万円、あわせて30万円を渡しておいた。当たり前だが社会人のはるかさんには、こんど学校で使えるようなものがあれば購入してもらいたいので、10万円渡しておいた。
日本の冬服に着替えたみんなが俺の手を取ったところで日本に転移。
最初の行き先はいつもの大型スーパー。
人数が人数だったので現れた先はスーパーの脇の小路。
アキナちゃんは少しは驚くかと思ったのだがそうでもなかった。子どもたちどうしで話を聞いていたのだろう。
俺たちは、表に回ってぞろぞろと店の中に入っていった。
「俺は食べ物の方を見てくるから、みんなは上に上がって欲しいものがあれば買ってくればいい。
集合は1時間後にここだな」
日本では今日はクリスマスなのでクリスマスの売れ残りで何かないかと食料品売り場に回ったのだが、買い物カートを押して、クリスマスとはあまり関連がない生鮮食料品のコーナーに回っていった。野菜を見ていたら雑煮が食べたくなった。
まずは白菜。雑煮に白菜だけは思いついたが、他に何を入れていいのか分からなかったので、スマホで調べて目に付いた大根と人参を買っておいた。人参はよく屋敷で食べているので向こうにもあると思うが、おそらく品種改良が進んでいるであろう日本の人参の方が美味しいだろうという予想だけだ。
次に、目に付いた生シイタケに手を伸ばしたら隣りにマイタケがあった。マイタケと言えばきりたんぽ。きりたんぽも食べたくなってきた。どこで売っているのかと思ったら、マイタケのすぐ横に並んでいた。さらにきりたんぽ用のスープもパックで売っていた。シイタケも含め全部カートに突っ込んだのだが、スーパーの営業戦略に完全に乗せられていた。
こんなことならエヴァと買い物して、スーパーのノウハウを盗ませればよかった。
当然きりたんぽに他の野菜は何を入れるのかわからないので調べたら、あとはゴボウとネギだった。長いものなのですぐ見つかった。
野菜はそんなところでいいだろう。次は雑煮ときりたんぽ鍋に入れる肉だ。どちらも鶏肉でいいみたいだったので、わざわざスーパーでなくとも屋敷の冷蔵庫の中に常備されていると思うが、買っておいて無駄になるものなどない。
精肉コーナーに行く途中、正月用の食材ばかりが並んでいた。今まで店に並んでいたはずのかまぼこが姿を消して、とってもお高いかまぼこが並んでいた。こういった阿漕な商売は好きじゃないのだ。去年もかまぼこの陳列を見て同じようなことを考えたが、去年の俺はお金に困っていたわけではないがもちろん裕福ではなかった。今の俺はたしかにお金を持ってはいるが、同じように感じている。ということは、この憤りは俺の本源的な憤りに違いない!
いくらスーパーのノウハウと言っても、こういったところはエヴァに学んでほしくはない。やはり連れて歩かなくてよかったようだ。
とはいっても、紅白のかまぼこは欠かせないような気がしたので、泣く泣く買い物かごの中に入れてしまった。
精肉コーナーでも、正月用にいつもより見た目の良い肉を置いていたが、ちゃんと普通に鶏肉も豚肉も売っていてくれた。そこで鶏のもも肉とぶつ切りを5パックくらいずつカートに入れてやった。
すっかり忘れていた出汁に使えそうなものを探して乾物コーナーに引き返し、昆布とイリコと厚めに削った鰹節をカートに入れた。あとリサに頼まれた物は料理の本だけだ。隣街の本屋に行って華ちゃんとはるかさんに頼めば適当に見繕ってくれるだろう。
次に総菜コーナーに回ったところ、正月用の総菜がこれでもかと並んでいた。そこには順に正月用の総菜をカートにいれていく俺がいた。
田作り、昆布巻き、栗きんとん。
伊達巻、数の子、煮しめに、黒豆。
クワイ、レンコン、ヤツガシラ。
最後にエビのオニガラ焼きで締め。
こんなものでいいか。
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一方こちらは、善次郎と別れて2階に上った三千院華たち。アキナの冬服を揃えようと衣料品売り場にいる。
見るものすべてが目新しく立ち止まってはキョロキョロするアキナをせかして、下から順に揃えていくことにした。アキナのサイズはほぼイオナと同じなので、イオナが靴のサイズを選んでやり、アキナがその中で気に入ったものを買った。
下着類は子どもたちそれぞれほとんど大きさに差はないし、善次郎が多めにコピーして渡しているので敢えて買う必要はなかった。
下着の上に着るシャツやセーターを揃え、長ズボンやスカート、それにふかふかのダウンジャケットを買った。ダウンジャケットはそれなりの値段だったが、総額5万ほどでアキナの衣料は一通りそろった。アキナは白が好きなようで、ほとんどのものが白だった。
「わらわの服を買うてもろうた。かたじけなや、かたじけなや」
目じりを下げてアキナは喜んでいる。
その後、みんなでエスカレーターに乗り3階に上がった。
アキナは普通にエスカレーターに乗って、
「ほう、これは便利なものじゃな。
ゼンちゃんの転移には及ばぬが、これも一種の転移じゃな」と、本質を突いていた。
3階の上り口にはちょうど本屋がある。もちろん隣り街の本屋に及ぶべくもないが、結構一般向けの本は揃っている。
子どもたちは、絵本コーナーは素通りして、コミックコーナーに急いでいった。漢字は小学校4年生程度まで読めるようになっているので基本フリガナの振ってあるコミックなら読むことができる。日本語の勉強にもなる。アキナもひらがなカタカナは既にマスターしているので読めないこともない。
ただ、コミックは第1巻から順に読まないとつまらないのだが、そこの本屋には残念ながらシリーズ物で全巻揃っているコミックはなかった。
子どもたちとアキナがああでもないこうでもないと言っているあいだに、木内はるかは、教材になるような本を物色し、子ども用の学習コーナーに回って何冊か手に取っていた。
「これだ!」
はるかの手には、ソロバンの入門書があった。




