第206話 魔神騒動その後。グリーンリーフ1
魔神騒動も一件落着して一月ほど経った。
あれ以来、アキナちゃんは毎日うちに入り浸っている。最近は屋敷に住むとまで言い始めた。原因はアイスを筆頭としたデザートでの餌付けかもしれない。
アキナちゃんがいようがいまいが俺自身に負担はないし、食事の量が子ども一人分増えようがリサの負担もそれほどではない。
そのアキナちゃんに聞いたのだが、青色に輝いていた神殿の召喚魔法陣が灰色になっていたそうだ。おそらく拉致召喚はもうできないだろう。
今から思うに、召喚魔法陣が機能するためには魔神の存在が不可欠だったのかもしれない。結果的に召喚特典を安易に得ることができなくなったわけだ。
俺を含め被召喚者の召喚特典は、鳳凰の羽根を早く手に入れたい魔神の眷属が、ダンジョン探索を急がせるために俺たちに与えたもので、魔神ないし魔神の眷属由来だった可能性すらある。今となっては確かめようはないし、だからといって俺も華ちゃんもスキルがなくなったわけでもない。
俺たちはダンジョンに週に2、3回潜っている。行き先は妙な連中がいなくなった俺たちのダンジョンだ。
未探査部分を一心同体のフルメンバー、俺、華ちゃん、キリア、アキナちゃん、そしてピョンちゃんで少しずつ探査しているのだが、第1階層はどこまでも広がっているようで、全く目途は立っていない。
冒険者ギルドから、バジリスクはやはり受け取れないという連絡がきた。いよいよ行き場がなくなった2匹のバジリスクだがアイテムボックスの容量に限りもなさそうなのでそのままになっている。
D関連室は、本部を飛び越えD関連局になってしまった。川村室長はそのまま繰り上がりD関連局長、野辺副室長も繰り上がり、D関連局次長に昇進している。屋敷の改修のお礼に手渡したかなり高級なポーションを役立ててくれたのかもしれない。山本一尉は何をしているのか分からないが、ちゃんと週初の会議には顔を出している。
俺の日本での現金だが、100億を超えている。インヴェスターZとすれば投資によって儲けたいところなのだが、最初に超優良銘柄を10億円分買ったきりで新規に投資は行なっていない。その株だが、10億円が今では50億にまで膨らんでいる。何でそこまで株価が上がったのかスマホで調べたら、俺の買ったスポーツ用品の会社はワーク〇ンスーツの製造元で、いち早くダンジョンモデルを投入していくことを発表したそうだ。とはいえ、俺の待っている株だけでなく、他のスポーツ用品製造会社の株は軒並み高騰しているらしい。いいことなんだろう。
評価額で40億も儲かっているのだが、毎週の21億の収入がデカすぎてかすんでしまっている。
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日本に帰った勇者以下の3人だが、防衛省の積極的な勧誘の結果、勇者、山田圭子を除く、斎藤一郎、鈴木茜の二名が最初の一般冒険者になることを承諾した。さらに、田原一葉も一般冒険者になることを承諾している。
防衛省、D関連局ではこの3人でエリートパーティーを作り、ダンジョンの攻略を進めることで、一般への完全開放への足掛かりにするようだ。
勇者、山田圭子がエリートパーティーに参加しなかったことはもちろん本人の意志だろうが、あんなことがあって、少しは成長したのかもしれない。
こんどのエリートパーティーのリーダーは経験から言って田原一葉だろう。レンジャーという職業は周囲を警戒し指示を出すことができるから、リーダー向きかもしれない。
ただ、一般冒険者パーティーという触れ込みだが、あまりに強力すぎるような気がしないでもない。一般冒険者という用語は、あくまで非自衛隊員、火器不使用という意味でしかないわけだ。
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10月に入り、そのエリートパーティー3名が集合し、陸上自衛隊の朝霞駐屯地で訓練を開始した。3名は3人とも高校を休学しており、冒険者として生計を立てていく目途が立てば、高校を中退する腹積もりである。
駐屯地での1週間の訓練を終え、斎藤一郎、鈴木茜の二人も、田原一葉とならやっていけそうだと安心している。今では3人ともお互いをファーストネームで呼び合うようになっている。
そして、今日はその3人が初めて日本のダンジョンに挑む日である。
3人のチーム名はグリーンリーフ。一葉の名まえからとったものである。
3人の防具は、3人とも同じで、ハーフミラーのバイザー付きのFRP製のヘルメット、膝、肘当てはどれも艶消しされた黒。ハーフミラーのバイザーはダンジョンまでの移動時、顔を隠すためのもので、ダンジョン内ではバイザーを上げ明るい視界を確保する。
それに、腰下まである防刃用のチョッキに手袋、安全靴。その下に、体にフィットしたやや厚めの上下という出で立ちだ。これらの色はいずれも濃い緑色で、要所に白い蛍光ラインが入って視認性を高めている。見た目初期のバッタの怪人ぽいのだが、彼らは結構気に入っている。
ミリタリーナイフを装備した腰のベルトには、水筒一つと小物入れが数個取り付けられており、小物入れの中にはヒールポーション2本とスタミナポーションが2本緩衝材と共に分散されて入っている。もちろん善次郎が卸したポーションである。
さらに背中のバックパックには大型の水筒と通称「パックメシ」、ゼリー飲料やチョコレートバーなども入っている。
田原一葉の武器は特殊鍛造鋼製の両刃剣だが刃引きされている。剣術:Lv2をもつ田原一葉にかかれば、刃引きされていようとも、叩きつけるだけで、モンスターを殺傷できると考えられている。
斎藤一郎、鈴木茜の持つ武器は1メートル20センチほどの特殊樹脂製の杖だ。若干重量があるが、それでも鋼鉄製の武器に比べれば軽い。
彼らの装備の全重量は下着まで含め約18キロ。高校生、特に女子高校生にとってはかなりの重量なのだが、治癒師鈴木茜が筋力を強化するよう願いをかけることでチーム全員の筋力が強化され、疲れを回復させるよう願いをかけることでスタミナが回復していくことが駐屯地での訓練を通じて分かっており、スタミナポーションを使わなくても、そこまで負担にはならない。
テレビでの朝のニュースが始まった。
「最初のニュースです。
民間初のダンジョン探索者、通称『冒険者』チーム。グリーンリーフの3名がダンジョンに挑みます。グリーンリーフの3名は民間へのダンジョンの開放を前に、一般人が火器を使わず、果たしてダンジョン探索が可能なのかを検証するため、防衛省がダンジョン探索者を公募したところ、応募した6万人の中から抜群の能力を評価され選抜された3人ということです。
現在代々木公園内の第1ピラミッド=ダンジョン前に中継が繋がっています。
第1ピラミッド=ダンジョン前の山田さん、おはようございます」
「リポーターの山田です。おはようございます。
こちらは、代々木公園内の第1ピラミッド=ダンジョン前から中継でお伝えしています。
3名の初の民間人冒険者がこれからダンジョンに侵入することになります。防衛省からはグリーンリーフというチーム名だけ公開されていますが、3名は未成年ということもあり、氏名などの情報は一切公開されていませんので、後ろ姿だけの撮影となります。
グリーンリーフは小銃などの火器はもちろん使用しませんので、陸上自衛隊6名が後に続き、3名の動きを撮影しつつ、周囲を警戒し、もしもの時に備えるようです。
今3名が、ピラミッドに向かって歩き始めました。小銃を肩に掛けた自衛隊員6名が後に続いています。
防衛省の発表では、3名の持つ武器は、1名が刃引きした両刃の剣、2名が杖とのことです。剣は順当でしょうが刃引きしている点が気にはなります。杖については『突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀』という言葉はありますが、果たしてモンスター相手に有効なのでしょうか? とはいえ、多くの候補者の中から選別された3名ということですので、間違いはないでしょう」
「予定では午後3時に3名はダンジョンから帰還することになっています。ダンジョン探索中不測の事故などが起こった場合はこの限りではありません」




