第193話 アキナちゃん
アキナちゃんを加えたわがパーティー一心同体は未探索領域の探索を続けていった。
その間何度か遭遇したモンスターはもちろん簡単に斃している。心配されたアキナちゃんは可もなく不可もなく俺たちと行動を共にしている。なぜかわからないが、華ちゃんの魔法の威力もキリアの剣の動きも格段に上昇しているような気がする。俺自身の如意棒も動きが良くなった気がする。はて? まっ、上向きなら素直に喜んでいればいいだろう。
「そろそろ昼にするか」
「「はい」」「そうじゃな」
俺たちは先ほどきれいにした石部屋の中で、昼食をとることにした。
床の上に俺がブルーシートを敷いたら、さすがにアキナちゃんも驚いていた。
「この上に土足のまま上がって適当に座ってくれ」
「おほー。面白い布じゃな」
「水気をこぼしても下に漏れないし、地面が濡れていても、上には染み出てこない」
みんなが、手袋とヘルメットを取って車座に座った。アキナちゃんが俺たちと同じような銀色のヘルメットをとったら、中からツインテールに三つ編みにしたうえ、それを頭に巻いたきれいな金髪が現れた。
「アキナちゃんの髪きれい!」と、華ちゃん。
「わらわの自慢の一つじゃ」。アキナちゃんが胸を張る。
「アキナちゃんの弁当をまずはいただこうじゃないか」
そう言って俺はアキナちゃんから預かったバスケットをアキナちゃんに渡した。
アキナちゃんはバスケットの蓋を開けて、白い布巾でくるんだ包みを俺たちに配った。
「中に野菜とハムを挟んだパンという話じゃ。わらわも初めてゆえ、味の保証はできんがそこは勘弁してくれ」
受け取った包みを開いたら、フランスパンのような長細いパンの真ん中に切れ目が入って、その中に野菜とハムがぎっしり詰まって、バケットサンドイッチその物だった。見るからにおいしそうだ。
「飲み物はこれじゃ」
アキナちゃんはバスケットから陶器の筒?と木のコップを4つ取り出し、コップに、陶器の筒から中の液体を注いでいった。
「スープじゃ。冷めとると思うておったが、ゼンちゃんのアイテムボックスに入れてもらっていたから温かいままじゃった。
スプーンがどこかにあったはずじゃが? ……。
あった」
アキナちゃんがスープとスプーンを配ってくれた。
「いただきます」「「いただきます」」
「いただきます? なんじゃ?」
「食事の前に、みんな揃って、ちゃんと食事できることを感謝するんだ。本来はそういった意味だが、今は一緒に食べ始める合図のようなもんだ。そして、食べ終わったら、ごちそうさま」
「なるほど。では、わらわも一心同体の一員じゃから、遅ればせながら。
いただきます」
バケットサンドイッチを頬張ったら、食べにくくはあったが久しぶりだったこともありおいしかった。スープもコンソメだったが、味が控えめでパンによく合っていた。アキナ神殿の食べ物はこんなにおいしかったのか。ちょっと癪に障ったぞ。
「アキナちゃん、パンもスープもおいしいじゃないか」
「ほんとおいしい」
「おいしいです」
「みんなの口に合ってよかったのじゃ。帰ったら爺を褒めてやらんといかんな」
俺たちは、アキナちゃんの持ってきてくれたお弁当を食べたのだが、結構なボリュームがあった。一番体の小さいアキナちゃんがぺろりと食べたことには驚いたが、アキナちゃんのサンドだけは小さかったそうだ。
「アキナちゃん、アイスクリームと言って冷たいお菓子があるんだが」
そう言って俺はアイスクリーム屋のパンフレットをアキナちゃんに渡した。
「その中から食べたいものを選んでくれ」
「これがお菓子なのか? しかも冷たい?
うーん。絵を見ても分からんから、何でもいいから一つ食べてみてからかの。
しっかし、この絵は良くできておるのー」
「じゃあ、変わったものが何も入っていない一番シンプルなバニラアイスだな」
コーンに乗っけたバニラアイスをアキナちゃんに渡した。
「上の白いところがバニラアイスで下の茶色いところがアイスの受け皿でコーンと言っている。コーンも食べておいしいが、先に食べるとアイスが落っこちるからな」
「この白いところを先に食べるのじゃな。
クンクン。なんだかよい香りがする。……。
なんじゃーーー! 甘くて、冷たくて、ねっとりして、おいしいではないか!」
右肩にピョンちゃんを乗せた華ちゃんとキリアにも要望通りのアイスを渡し、俺もいつも通り抹茶を手にした。
アキナちゃんは一心不乱にバニラアイスを食べてそれからバリバリとコーンを食べた。あっと言う間に手元には何もなくなってしまった。
そのあと周りを見て、
「あっ!? いろんな色のアイスが。美味しそうに見えるのじゃ!」
「わかった。一度に食べるとよくないからあと一つにするんだぞ。それで何が食べたい?」
「まずはゼンちゃんの持っておる、その緑かの」
抹茶アイスをアキナちゃんに渡して、自分のアイスを舐めていたら、
「あー、あっという間になくなってしもうた!」
「しかたない、もう一個だけだからな。で、何が食べたい?」
「次は、キリアちゃんがもっておるピンクのアイスじゃ」
キリアのアイスはストロベリーだったので、アキナちゃんにストロベリーアイスを作って渡した。
「これもおいしい。おいしすぎる。そして、あっと言う間に消えていくのも同じじゃった」
気が付けばアキナちゃんの手の中にあったはずのストロベリーアイスはもうなくなっていた。
「こんどは、華ちゃんの食べてる干しブドウの乗ったアイスじゃな」
アキナちゃんは俺がいくつでもアイスを渡すと思っているようだ。とはいえ、俺は何も言わず素直にアキナちゃんにラムレーズンアイスを渡した。
「これもおいしい。夢のようじゃ。わらわは一心同体のメンバーになって幸せじゃ」
アキナちゃんはニコニコ顔で幸せオーラを全身から振りまいている。
華ちゃんもキリアもアキナちゃんのそんな姿を見て目を細めている。
待てよ。いくら俺が女子に甘いと言っても、アイスを4個も小柄な女の子に後先考えず渡したというのは変だ。まさか、アキナちゃんの言葉に俺は逆らうことができないのか?
そういった疑問が一瞬頭の中によぎったのだが、4つも一度にアイスを食べたアキナちゃんは別に腹が痛くなった様子もなさそうだ。何ともなければそれでいいか。アキナちゃんには普通の魔法も効かないんだから、腹が冷えたくらいのことで具合が悪くなるはずないものな。俺は勝手に納得してしまった。
余談だが、台所の冷蔵庫の冷凍室の中にはアイスクリームがちゃんと入っている。俺がみんなと一緒に食事をしない時、残ったみんなに配るようリサに言っているので、キリアも罪悪感を覚えなくて済むだろう。




