第187話 火打石がないなら、人造ダイヤがあるじゃない。
俺がバーベキューの準備を始めたら、いままで子どもたちやプールを眺めていたリサがやってきて手伝おうとしたので、
「俺一人で大丈夫だから、リサは休んでてもいいし、プールに入っていてもいいから」
そう言っておいた。
「ありがとうございます」
リサはそう言って、プールの中に入っていって、背泳ぎを始めた。この世界の住人の水泳能力は低いものと勝手に思っていたが、少なくともリサの泳ぎは素人の泳ぎには見えなかった。華ちゃんも指導の傍らリサの泳ぎを見ていた。
なんだか、俺の屋敷に集まっている連中、なにがしかの才能があるような気がしてきた。そのうち108人も集まれば梁山泊とでも名付けてやるか。
昼までにはまだまだ時間があるので、俺も泳いでやろうと思い、プールに入った。
初心者の子供たち用だと思って、1メートルちょっとの水深なので、浅すぎて、俺には逆に泳ぎづらかった。
昼食を終えたくらいで少し掘り下げてやっても良さそうだ。俺はそれまでは泉の方で泳いでおこう。
プールから上がって泉に入り、適当に平泳ぎで泳いだ。
泉には脇の方から滝が流れ落ちているし、水が溢れて壁に空いた孔からどこかに流れ出ているので、あまり楽園の壁に近寄らないようにしないといけない。そこだけは気を付けていなければならない。
泉の中にはマスが泳いでいるので、普通のプールでは味わえない趣がある。20分くらいそうやって行ったり来たりしていたらそれなりに疲れてきた。確かに水泳は全身運動だ。俺のような泳ぎが下手でも全身が疲労していることが分かる。ここでスタミナポーションを飲めば一気に回復してまた元気に泳げるようになるわけだ。
そうだ! D関連室の誰かが言っていたが、マラソンの給水所にスタミナポーションを置いておけばぶっちぎりなんじゃないか? 成分は水なんだからドーピングもへったくれもないだろう。
さらに言えば、華ちゃんが魔法を後ろからかけてやれば、大概の競技で世界記録が出せるような気もする。
俺や華ちゃんはそんなことをすることはないと思うが、日本でダンジョンが開放されて、何らかのスキルを冒険者が得るようなことがあれば、将来的には起こり得るよな。そうなると、競馬なんかは廃れるかも知れない。あと、ボクシングや相撲も。というか、競技と名の付くものは全部廃れそうだ。
俺はスタミナポーションでドーピングすることは止めて素直に泉から上がり、自分のビーチチェアに横になった。ひじ掛けが付いているのでその上に飲み物を乗せることもできる。
俺はかなり冷たくしたコーラを作り出して、それを飲んだ。ホー。美味い。
そろそろみんなも喉が渇く頃だろうし、休憩させた方がいいと思い、氷を入れた桶を作って食材を置いている台の上に出して、その中にコーラや炭酸水、他のジュースをコーラのボトルに入れて突っ込んでおいた。
「そろそろ休憩したらどうだー」
「はーい」
華ちゃんも子どもたちを連れてプールから上がってきた。リサも続いて上がってきた。今の俺の大声ではるかさんも目が覚めたようだ。
楽園の今の気温はおそらく30度ちょっとある。いつもより明らかに高い。俺たちのプール開きに合わせてくれたわけでもないだろうが、水着でいるにはちょうどいい気温だ。プールの水温はそれより少し低い程度で泳ぐにはちょうどいい水温だと思う。泉の水温は、もう少し低い。
「喉も乾いているだろうから、水分補給した方がいいぞ。
適当に好きなものを飲んでくれ」
「「いただきます」」
各人が適当に飲み物を桶からとって飲み始めた。
「冷たくておいしいー」「フウー」「さすがはご主人さま」
「少し休憩したら、ボールで遊んでもいいんじゃないか」
そう言って俺は空気を入れたボールと、それをコピーしたボールを何個かアイテムボックスから取り出した。
「ちょうどボールが4つあるから、ビート板の代わりに持たせて、バタ足の練習をさせましょう」と、華ちゃん。今日の華ちゃんはあくまで、子どもたちを鍛えるようだ。
俺はビーチマットをプールに浮かせてその上に寝そべって水に浮いていたかったが、さすがにはばかられるので、断念するしかない。
水分補給してしばらく休憩していた華ちゃんと訓練生4人は、再度プールの中に入っていった。相変わらずピョンちゃんは華ちゃんのスイミングキャップの上に止まっている。ピョンちゃんは小鳥ではないんだから、それなりの重さがあると思うが、華ちゃんは平気なようだ。
まだ早いかもしれないが、俺はバーベキューを始めることにした。
華ちゃんに頼めば一発なのだろうが、華ちゃんは子どもたちのコーチングで忙しそうにしているので、俺が炭に火をつけることにした。マッチは持っていないし、ライターも何も持っていないので、一思案した結果、点火方法は他にもいろいろあるのだろうが、面白そうなので、火打石で点火することにした。火口はティッシュペーパー。たしか、鋼に硬い石を打ち付けると火花が散るはずだ。
まずは持ちやすい形で鋼の板を錬金工房で作った。何か硬い石が欲しかったが、思いついたのはいつぞや作った人造ダイヤモンドだ。
最初に作った時はかなり手間をかけてしまったが、今となっては簡単だろう。原料となる炭素は、木炭の形で大量にアイテムボックスの中に入っている。ということで握りやすい小石サイズ、だいたい200グラムほどのダイヤモンドを作ることにした。1カラットは0.2グラムなので1000カラットということになる。
「いでよダイヤモンド!」
簡単に1000カラットの人造ダイヤモンドができ上ってしまった。
でき上った人造ダイヤを右手に持ち、左手に持った鋼の板に打ち付けたところ、ちゃんと火花が散った。
火花が散るのを見ているのは意外と面白いのだが、その火花がなかなかティッシュに燃え移らない。
俺が必死になってカチカチ山をやっていたら、騒々しさにはるかさんが俺のところにやってきて、
「善次郎さん、何してるんですか?」と、聞いてきた。
「火打石で、火をつけたことがないので、試してみてたんですよ」
「善次郎さんの持っているのはガラスの塊じゃないですか。そんなのを鉄に打ち付けてたら手のひらを切りますよ」
「いや、これガラスじゃなくってダイヤなんです」
「へっ!?」
「だから、ダイヤ。なので、ちょっとやそっとじゃ割れないし、ヒビなんて入っていなかったはずだからそこそこ丈夫だと思いますよ」
「ダイヤってダイヤモンドのことですよね?」
「これは、人造ダイヤなんですけどね。火打石にするなら硬い石の方がいいと思って」
「そうですか。というか、そんなことしていいんですか?」
「以前人造ダイヤを作って売ってやろうとしたんですが、値段を調べたら、カットしたダイヤでさえ大した値段が付いていなかったんで、売るのは止めたんですよ。その時の作り方を覚えているから、簡単に人造ダイヤを作れるんです。ほら、この通り」
俺はそう言って、いま手にしているダイヤと同じ大きさのダイヤを作り出してはるかさんに渡した。
「えーーー!
でもこれほど屈折率が高いと、ダイヤに間違いない! えええーーー!」
「火打石に良さそうでしょ? それ、はるかさんにあげますから、使ってください」
「えええええーーーーー!!!」
鋼にダイヤモンドを打ち付けて本当に火花が出るのかは不明です。読者の方で試していただければ幸いです。




