第185話 ヒールポーション(極)2、和解。
俺は大神官を連れて神殿に転移した。大神官は、初め自分がどこに立っているのか分からなかったようだがそのうち位置を認識したようだ。
「ここは神殿の中!? 転移?」
「そういうことだから、御子さんのところに案内してくれる?」
「は、はい」
大神官は先に立ち、回廊のような通路を通って、それから階段を下り、薄暗い石室に俺を案内した。
石室の入り口に扉はなく、入り口の正面は祭壇になっていた。その祭壇の真ん中に人が横たわっている。祭壇に近づいてみると、横たわっていたのは首から下に刺繍された絹か何かの布をかけられた少女だった。布のかかっていない首から上は真っ白い石像だった。美少女なのだろうが、少女は顔をしかめた上、瞳を固く閉じ、何かを耐えているようだった。
「御子です」と、重く大神官が俺に告げた。
御子の首から下がどうなっているのか確認しようと、掛けられていた絹の布を剥ぎ取ったら、布の下の少女は全裸だった。もちろん真っ白な石像だ。風呂に入っているところを石にされたのならともかく、普通に服を着ていた時に石にされたのだろうから、長年その時着ていた服を着せたままというわけにもいかず、何とかして石像から衣服を剥ぎ取ったのだろう。
石像がポーションをごくごく飲むわけにはいかないだろうが、俺のヒールポーション(極)なら、相手が石になっていようとも、垂らして触れればそれだけでも十分効果が現れるという妙な自信があった。
アイテムボックスから、ヒールポーション(極)を取り出し、蓋を取ってまずは唇に一滴垂らしてみた。陶器のポーション瓶から白く輝く液体が一筋の糸をひいて垂れ、石像の唇を濡らした。
濡れた石像の唇の色が一瞬金色に輝きそれからピンク色に変わった。金色の輪が口の周辺から顔全体に広がっていき輪が通り過ぎたところは石の肌から人の肌になっていた。
輝くポーションを垂らし続けていたら少女の頭全体が精気を取り戻し、髪の毛も色が戻って金色に輝き、流れるように下にずり落ちた。少女の唇が少し開いたので、瓶が空になるまでポーションを流し込んだ。
石の肌と人の肌の境目の金色の輪は首から体に移動していき、少女の石の体は首から胸にかけて人の肌となった。そして体全体に肌色が戻り、ついに手先、足先まで精気が宿った。
一連の変化を俺の後ろで眺めていた大神官は声もなくただ御子を見つめていたが、御子の体が全て元通りになったところで、
「ゼンジロウ殿」そうひとこと口にして後はうつむいてしまった。
剥ぎ取った布を御子の体にかけてやったところで、御子が目を開いた。
昨日の勇者もいきなりだったな。と、ぼんやり思い出したのだが、少女の目は金色の髪によくにあった青い瞳だった。少女は顔を上に向けたまま、青い瞳を動かしていた。
「どうも俺の作ったポーションはエリクシールみたいだった? ような?」
俺自身びっくりしたが、どうも俺はエリクシールを作ってしまっていたらしい。さすがは錬金工房。素材がなければ作ればいいじゃない。さまさまだ。
「大神官さん、そういうことだから、南のダンジョンは俺がもらっておく」
「ありがとう。ありがとう。
アキナ神殿はこの御恩は決して忘れません」
「対価はもらったから、そこまではいいよ。
そうだ、忘れるところだったが、神殿で召喚した連中を送り返してもいいよな?」
「可能ならば送り返してやりたいのですが、送り返してはやれません」
どうせそんなことだろうと思ってたよ。
「週が明けてしばらくしたら俺がみんなを元の世界に送り届けるから、支度だけはさせておいてくれ。はっきりとした日付はいまのところ分からないが来週中には迎えにこられるはずだ」
「分かりました。
そんなことまで可能なゼンジロウ殿に対してわたしはバカなことをしでかしたわけですな。重ね重ね申し訳ありませんでした」
俺と大神官が話をしていたら、寝ていた御子が起き上がった。起き上がった拍子に布がはだけたが本人は気にしていないようだ。あまり立派なものではないので簡単にずり落ちたのかも知れない。
俺が若干失礼なことを考えていたら、少女が俺たちに向かって、
「誰じゃ?」
大神官のことは知っていても、7、8年もブランクがあれば顔も変わっているだろう。俺なんかどう見てもそこらの一市民だしな。
そのとき俺は少女の問いにどう答えようかと思ったが、面倒そうなので、
「俺のことは大神官に聞いてくれ」と、答えておいた。その後、大神官に向かって、
「それじゃあ、来週」
そう言って、屋敷の居間に転移した。
居間では、オリヴィアがピアノを弾いて、華ちゃんが横に立って楽譜をめくっていた。
エヴァとキリアとイオナは見えなかったが、自分たちのしたいことをしているのだろう。しばらくソファーに座ってピアノを聞いていたら、曲が終わって華ちゃんが俺のところにやってきた。
「神殿はどうでした?」
「なんとかなった。そう言えば大神官が乗ってきた馬車を返さなくちゃな」
「岩永さんが、神殿に送ったのだろうと思って帰ってもらいました」
「済まなかったな」
「いえ」
「神殿なんだが、結論を言うと、これで手打ちにした」
「はい」
「それと、神殿で石にされて眠っていた御子とかいう子どもを助けてやった見返りに、南のダンジョンをせしめてきた」
「あのダンジョンを、せしめた?」
「そう。
連中が俺たちを召喚してまでダンジョンを攻略したかったのは、究極のヒールポーション、エリクシールの素材の鳳凰の羽根が欲しかったからだそうだ。エリクシールは石にされた御子を元に戻すため必要だったんだが、俺の持っていたヒールポーションの最上級品、俺はヒールポーション(極)と呼んでたんだが、それで御子は石から人間に戻った。俺は知らぬ間にエリクシールをヒールポーション(極)という名まえで作ってしまってたんだな」
「……」
「そういうことで、あのダンジョンは連中にとって攻略の必要のないものになったから、俺がもらい受けてやった」
「岩永さんにはなんでもアリですね」
「ハハハ。運だけはいいしな。
それで、ダンジョン同様勇者たちも不要だろうから、日本に帰すことを了承させてきた。
来週防衛省にいったら勇者たちの話をして、勇者たちを引き取ってもらおうと思うんだ」
「勇者たちというのは?」
「華ちゃんは勇者が目覚めた時、離れていたから聞いてなかったんだな。
連中はもう二人召喚してたんだ」
「まあ。でも日本に帰ることになるならよかったですね」
「本人たちが嫌がったら話は変わるけどな」
口にしてしまって、マズいと思ったが華ちゃんは気にしたようすもなく、
「わたしみたいな人は少ないと思います。
明日のプールとバーベキューが楽しみ」
そうだな。華ちゃんはもう完全にこっちの人間だったものな。




