第180話 救出劇1
現在冒険者ギルド最高位AAランク冒険者パーティー『一心同体』だが、ほとんど冒険者ギルドに顔を出さないうえ、彼らがどこに住んでいるのかギルド職員はおろか冒険者たちも誰も知らなかった。
アキナ神殿からの依頼内容が救助依頼だったため、一刻を争うと判断した冒険者ギルドは、手を尽くして『一心同体』の居所を探したところ、商業ギルドでギルドの所有する屋敷を『一心同体』のリーダーに売却していたことがわかり、なんとか居所が判明した。
冒険者ギルドは直ちに使いの者を『一心同体』のリーダー、ゼンジロウの屋敷に送った。
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昼食を終えて、暑くもなく寒くもない居間のソファーでまったりしていたら、少し眠くなってきた。転移で跳び回ること自体では全く疲れないのだが、視界が急に変わるせいで目が回るんだよな。転移後、状況判断を素早くしなきゃいけないので、脳が疲れを感じるんだと思う。
このけだるさと眠さというのは実に気持ちいい。そんなことを考えていたら、ピアノの曲が流れてきた。曲はどう見ても『ねーむれ、ねーむれ』のシューベルトか誰かの子守歌だ。
……。
ハッと気づいたら、ずいぶん時間が経っていた。ソファーに座って居眠りしていたらしい。
居間の中では、ピアノの曲が流れている。今度は、妙にせわしない曲だ。俺も聞いたことのある曲なのだがどうしても名まえが思い出せない。こうなると気になってくる。
グランドピアノを弾いていたのは華ちゃんだった。華ちゃんの隣りにはオリヴィアが立っている。個別指導中だったのか。
「オリヴィア、今の曲は?」
かなり真剣にピアノを弾いている華ちゃんに尋ねるのははばかられたのでオリヴィアに聞いたところ、
「ハチャトリアンの剣の舞です」
確かに、そんな名前だったような気がした。
時刻は午後3時を回っていたので、俺は目を覚まそうと少し早いが風呂に入ることにして、風呂場にいき、準備してそのまま湯に浸かった。
風呂に入ってすっきりくっきりしたところで居間に戻ったら、誰もいなかった。子どもたちは夕食のお手伝いなのだろう。
俺は、台所の方に向かって、
「手が空いたら風呂に入れよー」と、大きな声で子どもたちに声をかけたら、台所の方から『『はーい』』と返事が返ってきた。
その後しばらくして子どもたちが階段を駆け上がる音がしたので、台所の手伝いが一段落してこれから風呂に入るのだろう。
いつものことだが、子どもがバタバタと動き回る音を聞くと不思議と気持ちがおおらかになる。世の中近所の子どもの声をうるさく感じる人がいるようだが、自分の子どもの頃のことを思い出すまでもなく、おおらかに生きた方が長生きできると思うよ。
かく言う俺も、夜遅くまでバイトして、翌朝遅くまで寝てるとき家の外がうるさくて、うるさい! と、思ったことが何度もあった。こうやっておおらかな気持ちでいられることを、誰に、というわけではないが感謝しよう。
うん? 誰かうちにきたのか? 門の方から声がする。子どもたちは取り込み中だから俺が出るか。
居間から玄関に回り、外に出たら、門の外から誰かが、
『一心同体のゼンジロウさんのお屋敷でしょうか? 冒険者ギルドの者です』と、大声を上げていた。
「はいはい。いま通用口を開けます」
門の向こうにいたギルドの男性を、通用口から屋敷の玄関に招き入れ、そのまま応接室に通して話を聞いた。
「……、そういうことですので、この依頼をお受けください。お願いします」
南のダンジョンでの行方不明者の救助要請。依頼金額は破格だ。
場所と容姿の特徴からいって、救助対象者はおそらく『勇者』だ。
華ちゃんのみならず田原一葉まで愛想をつかすような勇者だ。華ちゃんに一緒にいこうと言っても嫌がるだろうな。どうしたものか。
俺が考え込んでいるところが、渋っているように見えたようで、
「見ず知らずの人を助ける義理はないでしょうが、AAランクのパーティーの力をお貸しください」。そう言って頭を下げられた。
俺の目の前のギルド職員は俺と神殿のいきさつを知る由もないし、真摯に俺に対して頭を下げてるんだよな。
どうするかなー。
『失礼します。お茶をお持ちしました』
客が一人だけだったことが分からなかったようで、リサがお茶を3人分持って応接室に入ってきた。
「ありがとう。
悪いが華ちゃんを呼んできてくれないか。2階にいると思う」
「かしこまりました」
すぐにリサは応接室を出ていった。1分ほどで、
『失礼します』と、言って華ちゃんが応接室に入ってきた。
「華ちゃん、こちらは冒険者ギルドの人だ。
それで、俺たちに指名依頼をしたいそうだ。
依頼内容は、南のダンジョンで落とし穴に落ちたまま行方不明になった人物の救助、ないし遺品の回収だ。
話の内容から言って、神殿からの依頼だろうし、行方不明者は勇者だ」
「助けにいきましょう」
「いいのか?」
「もちろんです。助けは早ければ早い方がいいでしょうから今から着替えて向かいましょう」
「わかった。そうしよう。
そのお仕事お引き受けします」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ギルドの職員は俺と華ちゃんに頭を下げて帰っていった。
「華ちゃん、ありがとう」
「岩永さん急ぎましょう」
「キリアはどうする?」
「連れていきましょう。一心同体の仲間ですから」
「そうだったな」
応接室の中でそういった話をしていたら、子どもたちが風呂から上がったようだ。
「俺はリサに夕食のことを伝えてから着替える。華ちゃんは風呂から上がった子どもたちの髪の毛を乾かしたらキリアに今のことを話して、二人して準備してくれ」
「はい」




