第167話 温泉マーク団。ブーメラン!
熱海の海岸を散歩して、海水を大量にアイテムボックスに収納してやった。
俺たちは30分ほど波と戯れたところで、駅の方向に引きあげようと歩いていたら、ブー、フー、ウーはどこかにいって消えていた。年を食ったただの不良とバカにしていたが、全裸で歩き回れるほどの度胸があったようだ。
今の世の中、全裸で歩き回っていたら、それこそ動画で全国デビューすると思うが、ピンチはチャンス。これを奇貨として、はだか芸人トリオとして売り出せば、一躍スターダムに駆け上がるかもしれない。彼らがスターとなった暁には、ブラボーと拍手しようじゃないか。そうしたら、俺には人の人生を好転させる隠れた才能があると言えるかもしれない。
裸足で砂浜を歩いて道路に出た辺りで足も乾いてきた。
「運動のつもりで、きた道を歩いて引き返そうか」
そういうことで、みんな靴だけ履いて手に靴下を持って緩い上り坂をしばらく登っていったら、どこかで見たような3人組と、他に似たような6人ほどが木刀やらチェーン、それにバットを手にして道を下ってきた。
どう見ても、さっきのお礼参りだろう。
こうやって徒党を組んでやってきたということは、連中のアジトがこの近くにあったってことだろうな。熱海を縄張りにしているローカル不良グループなら、一般人にもわかるように、静岡なんちゃらじゃなくて、熱海温泉不良団(♨)とか、温泉マーク団とか名乗ってもらいたいものだ。
バカの相手はしたくはないし、火の粉にもならない連中だとは思うが、いちおう降りかかる火の粉は払わねばならぬ。さすがに素手では分が悪いと思い、俺は靴下をアイテムボックスに仕舞って代わりに如意棒を取り出した。
いきなり俺の両手の中に、今となっては黒光りする如意棒が現れたことで、温泉マーク団がその場で立ち止まった。俺から先頭の男との距離は10メートルほどある。
何か口上を始めるかと思ったが、温泉マーク団は何も言わず俺たちというか、俺を睨みながら手にした得物を構え直した。
俺は右手で如意棒を肩に担いで、そのまま、一歩二歩と進んでいった。見た目はかなり隙のある舐めた格好だ。初めて格好づけでやってみたが、俺の神速を極めた振りが前提の構えでもある。
このまま相手を間合いに入れて如意棒を振り下ろしてしまうと、相手が得物で運よく俺の一撃を受け止めようが、俺の如意棒はその得物をへし折った上で、頭どころか胸まで食い込んでしまうだろう。
もちろんこの日本でそんなことはできないので、一応狙うのは相手の武器だ。武器を強く握っていたら手首を痛めるかも知れないが、ちょっとくらい痛い目に遭った方が本人のためになる可能性がないわけではないハズ。俺にとってはどうでもいいけどな。
「どこからでもかかってきなさい」
俺は静かな口調で、ひとこと。左手を前に出し、手のひらを上に向けてコイコイもセットだ。
俺の挑発で色めき立ってかかってくるかと思いきや、温泉団は動きを止めたままだ。
俺が、再度一歩、二歩と前に進むと、今度は後ずさりまでする始末。
おいおいおいおい、俺の後ろには7人の観客が控えてるんだぞ! ちゃんとしてくれないと、ブーイングものだぞ!
後ろの7人の女子たちは、左右の手に片方ずつの靴下を持っているのだからチアリーダーになったつもりで靴下を振ってくれればかなり受けると思うが、やっぱりやってくれないんだろうな。
温泉マーク団がかかってこないのならこっちからいくまでだ。いったん姿勢を下げた俺は、ちゃんと両手で如意棒を握り直し、一気に温泉マーク団の中に突っ込んでいった。
バシッ! バシッ! バシッ! ……。
如意棒を振り回しながら温泉団の真ん中を通り抜け、そのまま数歩進んでから振り返ると、連中の持っていた得物がそのまま吹っ飛んだり、半分に折れたりして道路の上に転がっていた。
温泉団の中には手首を痛めた者も数人いたようで、遅れてわめき始めた。
「うるさい!」
俺が大声を出したら、わめき声が止まった。
おとなしくなった温泉団の横を通り過ぎて、華ちゃんに先導された女子たちが俺の方に歩いてくる。
弱い者いじめをしてしまったが、はだか単騎でオープンリーチにぶっこんだと思って諦めてもらおう。
俺たちは温泉マーク団を無視してそのまま坂道を登っていき、振出しの駅前まで戻ってきた。
「さーて、運動のつもりでここまで歩いて戻ったが、これからどうしようか?
昼食にはまだ早いから、悩むな」
「それじゃあ、みんなで水着を買いにいきませんか?」
「それはいいけど、華ちゃん、この辺りで水着を売ってる店知ってる?」
「さすがに熱海の衣料品店は知らないので、前回いった隣街のデパートとか、銀座辺りのデパートにいきませんか? 幸い、今日のみんなは薄着だから水着の試着にも好都合だし」
「華ちゃん、水着を買うのにわざわざ試着するの?」
「いちおう」
「そうなんだ」
「そうなんです」
「それじゃあ、勝手知ったる隣町のデパートにするか」
「はい」
「じゃあ、みんな俺の手を取ってくれ」
みんなの手が俺の手を取ったところで、念のため周囲を見回し、俺たちが注目されていないことを確認して、例のデパートの横の道に俺たちは転移した。
デパートの入り口に回って中に入ったところで、
「エスカレーターにも慣れた方がいいから、順番にエスカレーターに乗ってみよう。
華ちゃんを先頭にリサ、子どもたち、はるかさん、俺の順だ。
他の客に迷惑にならないようにな。
最初は平たいから横線と横線の間に立ってそのまま動かなければいいだけだ。左手で動く手すりにつかまっていれば怖くないから。
あと、体を乗りだしたら危ないからまっすぐ立ってるんだぞ」
「「はい」」
なぜかわからないが、華ちゃんとはるかさんが俺の説明を聞いて笑っていた。俺の説明はそんなに変だったろうか?
デパートの中をエスカレーターの前まで歩いていき、他のお客を先にして、その後に華ちゃんから順にエスカレーターに乗っていった。
華ちゃんは当然歩くようにエスカレーターに乗ったのだが、続くリサは、ピョンとエスカレーターに飛び乗って慌てて手すりに掴まった。その後の子どもたち4人も似たようなもので、次に、はるかさん、最後に俺の順でエスカレーターに乗った。
2階では、また、リサ以下の5人はピョンと飛び降り、折り返してまたエスカレーターに乗った。
水着売り場は4階だったようで、華ちゃんがそのままエスカレーターを降り、リサ以下5名も普通にエスカレーターから降りることができたようだ。
「みんな、こっち」
華ちゃんの先導で俺たちは水着売り場に歩いていった。
水着売り場はどこかのテナントの一角で、シーズンは終わろうとしていたが、それでも沢山女性の水着は売られていた。しかし男物の水着は見当たらなかった。
女子たちが水着を選ぶ間、さすがの俺も女性の水着売り場を徘徊する度胸はないので、
「男物の水着を売ってるところを探してくる」と、言い残してさすらいの旅に出た。そう言えばこの階はレディースフロアと書いてあったから、男物なんかあるわけないものな。
店の人に聞くしかないか。
「すみません。男物の水着はどこで売ってますか?」
テナントではなくデパートの制服を着た女の人が運よくこっちにきたので、尋ねてみた。
「それでしたら、その先のエスカレーターを上がって右手、すぐです」と、教えてくれた。
言われた通り俺はエスカレーターで上の階に出て、右を向いたら男物のスポーツ用品売り場で、その隅っこに水着を売っていた。
見ると競泳用の水着がメインで、ブーメランから、太ももまでのハーフパンツタイプのものを置いていた。
俺のサイズにあうハーフパンツタイプの水着を探したのだが、小さいのと大きいのしかなく、俺に合うものが一つもなかった。その代り、ブーメランは俺のサイズピッタリのものが何枚もあった。
うーん。ブーメランなどはいたことはないし、ブーメラン姿を女子の前に晒す勇気が俺にあるのだろうか?




