第161話 温泉旅行3、旅館
送迎バス乗り場に行くと、俺たちの泊る旅館の名前を書いた小型バスが停まっていた。添乗員の手順的には最初にバスの時間を確認しておかなくてはならなかったのだが、結果オーライ。結果オーライだったおかげで減点はないがもちろん加点もなく添乗員評価は65点で変わらず。
俺たちが乗り込んで5分ほどしてバスは発車した。俺たちのほかに60代くらいの夫婦が1組乗っただけだ。バスは20人乗りくらいだったので入りは半分。俺たちはバスの後ろから詰めていって、老夫婦は前の方の座席に座った。
発車したバスは、広い道に出て、道なりに進み、そこから山の方に上っていき10分ほどで旅館に到着した。
旅館の大きな玄関に入るとロビーがあり、チェックインの受け付けをしてもらうため、奥の方にあったカウンターに俺たちは歩いていった。もちろん旗を持った俺の後には7人ついてきている。
「予約していた、岩永です」。カウンターの後ろの係の人にそう言って宿泊券を見せた。
「岩永さま、8名さまですね。承っています。
ご住所と、お名まえを宿帳にご記入ください」
見た目は宿泊カードだが、宿帳か。さすがは旅館だ。
俺は、自分の名まえと住所を書き、華ちゃんとリサ以下5名も俺の家族ということで同じカードに記入した。したがって名字は暗黙の岩永だ(注1)。はるかさんだけ、別カードで木内はるかという名まえと、練馬の住所を書いた。
カードには食品アレルギーがどうのとか書いてあったが、問題なしにしておいた。
書き終えたカードを係の人に渡したところで、控えていた別の係の人が、
「お部屋の準備は終わっていますので、少し早いですがご利用いただけます。お荷物の方は?」
「自分で運ぶので大丈夫です」
みんな見た目は手ぶらなので、係の人は何か思ったのかもしれないが、すぐに。
「それでは、こちらにどうぞ」と、言って先に立って案内してくれた。
俺たちは係の人の後からエレベーターに乗って、目的の階に。エレベーターの中で、係の人から大浴場はどこそこ、などと説明を受けた。
エレベーターを出た俺たちは、すこし歩いて部屋に案内された。
「こちらのお部屋です」
係の人に続いて部屋の上り口で靴を脱いで、部屋の中に。開いたふすまの先が和室でその先が籐椅子などを置いたバルコニー風の部屋になって、さらにその先は部屋の大きさ一杯のガラス窓で、そこから熱海の街並みと青い海が見えた。もちろんその景色にリサたちは目を瞠っている。
4人部屋2つの続き部屋を頼んでいるので、
「食事は8人一緒でお願いします」
「かしこまりました。
お食事をお運びするのはこちらのお部屋でよろしいですか?」
「はい、それで」
係の人が、続き部屋のドアを開けて、そっちも案内してくれ、最後に隣の部屋から4人分の座椅子を運んで座卓の周りに並べ、座卓の上には8人分の湯呑を並べてお茶を淹れ、お茶請けも並べたところで、
「ご夕食は何時にお持ちしましょうか?」と聞いてきたので、
「6時からお願いします。こっちの部屋で8人揃って食べられるようお願いします」
「かしこまりました」。そう言って係の人は一礼して部屋を出ていった。
銘々皿に乗ったお茶請けは饅頭だ。
座布団の敷いてある座椅子に座って緑茶をすすり、饅頭を包みから出して一齧り。栗が丸ごと入ったくり饅頭だった。あんこと栗が絶妙で薄皮の生地が生生地っぽくてなかなかのものだ。お土産に買って帰ろう。これこそが旅館側の営業戦略なのだろうが見事にはまってしまった。
子どもたちは当然正座できないので、足を伸ばして座っている。残りの3人はさすがに足を斜めにして座椅子に座っていた。もちろん俺は胡坐をかいている。
「せっかくだからお茶を飲んでから、部屋割りを決めてしまおう」
男が俺一人で二部屋しかとっていない以上、俺が1部屋、残りの7人が1部屋ということはあり得ないので、順当に考えれば、華ちゃん、はるかさん、リサ+子どもたちのうちの一人。
もう一部屋が俺と残った子ども3人だな。
「……。こんな感じかな?」
華ちゃんたち3人は問題なかったようだが、今度は子どもたちが、みんな一緒に俺の部屋で寝たいと言い出した。布団は5組程度敷けるので問題はない。というか、7組だって敷けるのだが。
「それじゃあ、そうしよう」
ということで、俺の部屋には俺と子どもたち4人で5人。隣りの華ちゃんたちは3人ということになった。
それから、俺は荷物をアイテムボックスから出して各自に配った。
「よそいきは普段着に着替えた方がいいぞ」
そう言ったら子どもたちが服を脱ぎ始めたので、俺はいったん部屋の外に出た。俺のよそいきは錬金工房でいつでも新品にリニューアルできるので普段着と変わらないから、上着を脱いだくらいであとはそのままだ。
5分ほどでみんな着替えたようなので、俺は部屋の中に入っていき、
「まずは風呂だな。
タオルとか諸々は風呂場にあるはずだから着替えと浴衣だけ持っていけばいい。
浴衣の着方は華ちゃんたちに聞いてくれ」
俺以外は小物入れを持ち、それぞれ洗面台の脇の物入れの中に入っていた浴衣を用意した。
俺も浴衣を持って出発!
さすがに添乗員用の旗は立てなかったが、ぞろぞろと旅館のスリッパをはいた俺たちはエレベーターに乗って、一階の大浴場にいった。ちなみに玄関のある階はロビー階で実質2階だった。紛らわしい。
注1:
宿帳(宿泊者名簿)に虚偽記載すると、旅館業法違反となり、起訴されて刑が確定すると、軽犯罪相当の処罰並びに前科が付くそうです。別件逮捕に利用されるくらいで、実例はほとんどないそうです。
いちおう想定した旅館はありますが、立地やその他はかなり変えています。




