第156話 グランドピアノ
自衛隊による火器を使わないダンジョン探索に付き合ってその日屋敷に帰ったら、良い時間になっていた。なので、防具を脱いだ俺はそのまま風呂に入ることにした。
湯舟にもちゃんと湯沸かし器からお湯が出てくるのだが、俺は面倒なので自分で作ったお湯を湯舟に使い、風呂から上がる時、お湯を入れ替えるようにしている。
体を洗う時や頭を洗う時は、蛇口をひねってお湯を出してそれを使っている。それだけでも圧倒的に便利だ。
風呂から上がり、服を着替えて居間に回ると、キリアが他の3人に取り囲まれて今日の自衛隊とのダンジョン探索について話をしていた。一種のヒーローだな。このところ、キリアばかり連れまわしているので、残りの3人が嫉妬的な気持ちを持っていたらマズいと思って子どもたちの様子を見ているのだが、3人とも素直にキリアの活躍を喜んでいるようで、そういったところ全く感じられなかった。みんな気立てが良かったということなのだろう。
「そろそろ、みんな風呂に入れよ」
「「はい!」」
4人元気よく2階に上がっていった。すぐに2階から下りてきて脱衣場にいったようだ。
そうこうしていたら、2階から着替えた華ちゃんが下りてきて、はるかさんも外回りから帰ってきて、居間に集合した形になった。
「はるかさん、外回りはどうでした?」
「街並みを見るだけでも勉強になります。
善次郎さんたちの方はどうでしたか?」
「さすがは自衛隊と言ったところでした。おそらく、ダンジョンの一般開放への弾みがつきそうな気がします」
「そうだったんだ」
「そういえば、はるかさん。
今週の金、土、日の2泊3日で熱海にいくこと伝えていましたっけ?」
「いえ、聞いていません」
「ありゃー。これはマズったな。
みんなで熱海にいこうと予約してたんですよ。もちろんはるかさんも一緒に8人で。
都合が悪かったですか?」
「いえ、そんなことはありません。ありがとうございます」
「行きは東京から新幹線で熱海まで。帰りは直接ここに帰ってきます」
「なるほど、リサさんや子どもたちは喜びそうですね」
「泊るところは、温泉旅館なので食事も期待できそうですよ」
「わたしも楽しみです」
俺とはるかさんが話をしていたら、華ちゃんがピアノを弾き始めた。珍しく楽譜を広げての演奏だ。
どこかで聞いたことのある演奏なのだが、曲名など俺にはわかるはずもなく、ただいい曲だなあと聞いていたら、はるかさんが、
「これは、スメタナのモルダウでは?」
では? と聞かれても俺では答えようがない。
「そうなんですか?」と問い直したら、華ちゃんが、「はい、モルダウです」とピアノに向かったまま答えてくれた。
はるかさんも音楽に造詣が深かったのか! 俺のように音痴な人間は、子どものころから音楽を敬遠してきた関係で、音楽について何もわからない。だからこそ、歳を取った今になって、音楽に対する造詣の深い人は無条件に尊敬してしまう。
モルダウの後、もう一曲華ちゃんがピアノを弾き終わったころ、子どもたちが風呂から上がり、着替えて居間にやって来たので、華ちゃんがヘアドライヤー魔法で子どもたちの髪を乾かしてやった。
子どもたちの髪の毛を乾かしながら、華ちゃんが俺に、
「さっき弾いた曲も今の曲も、オリヴィアはもう弾けるんですよ」
「えっ! ほんと?」
「そろそろ、アップライトピアノの限界かもしれません」
「それって、グランドピアノに買い替えるってこと?」
「できれば」
「わかった。せっかく買うなら、ちゃんとしたピアノを買おう」
「そうですね。スタインウェイくらいだと指に反応してちゃんと音がでますし、一生ものになります」
「よく分かんないけど、あの街の楽器屋で買えるかな?」
「難しいかも」
「そう言えば、あの店だとグランドピアノも300万くらいまでしか扱っていないって言ってたはずだ。そのスータンは300万ってことはないんだろ?」
「値段は分かりませんが、銀座辺りの楽器屋さんにいった方が無難だと思います」
「分かった。明日にでもいってみよう」
俺と華ちゃんがそんな話をしていたら、オリヴィアが目を見開いていた。ついでにはるかさんまで驚いていた。
華ちゃんの魔法で髪の毛が乾いた子どもたちは、リサの手伝いをすると言って台所に駆けていった。4人とも気立てがいい上に働き者、オリヴィアとキリアにはそれぞれすごい才能まであった。
この分だとエヴァにもイオナにも才能が有りそうな気がしたが、そういった期待は子どもの負担になるので、口に出すことはもちろん、顔にも出さないようにしないといけない。未婚の俺は、もちろん子育ての経験もないが、子どもたちのことで、気付いたこと、思いついたことはできる限りやっていくつもりだ。
その後、すぐに食事の用意が整ったので、居間に残っていた3人で食堂にいき、
「いただきます」「「いただきます」」
その日の夕食も揃った『いただきます』から始まった。
翌日。
ポーションの配達を済ませて帰ってきた子どもたちは、すぐに屋敷の内外の掃除を始めた。リサは買い物に出かけているし、はるかさんは今日も朝から街歩きに出ているので、居間にいるのは着替え終わった俺と華ちゃんだけだ。そろそろピアノを買いに日本に飛ぼうと思ったのだが、まだ9時前だ。せめて、あと1時間は時間を潰す必要がある。
俺は屋敷を出て物置小屋に入り軽油タンクを見てみたが、思った以上に減っていなかった。ということで軽油を補充することは止めてプロパンガスを補充することにした。
風呂場の裏に置かれた6本のプロパンガスのうちバルブを開いていた2本をアイテムボックスの能力で点検したところ、こっちの方も湯舟のお湯は俺が入れている関係かそれほどガスが減っていなかった。案外プロパンガスは長持ちなのだと感心した。
それでもあまり時間が潰せなかったのだが、早い分には向こうで時間が潰せるだろうと思って、居間に戻った俺は華ちゃんを連れて東京駅の八重洲側に転移した。
「ちょっと早かったけど、銀座まで歩いていけばいい時間になるだろう」
「そうですね。でも、まだ9時過ぎだから1時間以上時間がありそうですね」
「喫茶店にでも入っていよう。朝早くても喫茶店なら開いてるだろ」
「ですね」
そういうことで、俺と華ちゃんは八重洲から銀座に向けて歩いていった。
スメタナ モルダウ ピアノ版。
https://www.youtube.com/watch?v=Tlez_NZutcc




