第146話 バジリスク
北のダンジョンの第3階層へ下りた先の空洞の隅で休憩していたら、冒険者たちが何かに追われているように奥の方から逃げてきて、そのまま階段を駆け上っていった。
そのあと、洞窟の奥の方ら何か重たいものがやってくる震動音が聞こえてきた。
俺は立ち上がり、今までアイテムボックスに仕舞っていた如意棒を取り出した。華ちゃんも立ち上がり、キリアは立ち上がって剣を鞘から引き抜いた。
震動音は段々と大きくなり、とうとうそいつが現れた。
「大トカゲだ!」
洞窟から空洞に現れたのは洞窟と同じ岩色で、ところどころに黒と濃い緑色の模様の入った大トカゲだった。体高は2メートル半はあり頭の先からしっぽの先までは10メートルは超えている。しかもそいつには足が6本生えていた。
大トカゲは俺たちに気付いたのか気付かなかったのか分からないが俺たちを無視してドシンドシンと足音を響かせて上り階段に向かっていった。
「華ちゃん、あれだけ大きいと相当重い。グラビテーでいけるんじゃないか?」
「やってみます。グラヴィティ!」
ドーン。と、足元に震動が伝わってきた。大トカゲは、空洞の床にへばりついて身動きできないようだ。こちら側から見える3本の足はてんでに妙な具合に折れ曲がっている。
「華ちゃん、あいつの頭に向けて、ファイヤーアローだ」
「ファイヤーアロー!」
華ちゃんの右手から、白い光の矢が放たれて、大トカゲのこめかみ辺りを射抜いた。それだけでオオトカゲはピクリとも動かなくなった。グラビテーの必要があったかはなはだ疑問だが、結果オーライ。
「華ちゃん、あいつをアイテムボックスに収納するから、その前に鑑定してみてくれ」
「鑑定!
名まえはバジリスクでした」
「おーっと、バジリスクっていうと大物だぞ。いちおう俺のラノベとゲーム知識から言うと、こいつの目で凝視されると石になるというし、吐く息でさえ猛毒らしい。
俺たちがこいつの傍によってもなんともないところを見ると、少なくとも吐く息が猛毒という訳じゃなさそうだな。
それじゃあ、収納」
目の前からバジリスクが消え俺のアイテムボックスに移動した。
「しかし、吐息が毒でなくとも、毒を持ってる可能性はあるよな。フグは毒を持っててもおいしいけど、こいつは食べられるのかな?」
「あんなに大きいと、食べられたとしても大味で、おいしくないんじゃないでしょうか」
「俺もそんな気がする」
俺と華ちゃんが食材としてのバジリスクについて考察していたら、キリアが半分口を開けたまま固まっていた。
「おい、キリア、どうした?」
「は、はい。ご主人さまも、ハナおねえさんもあんな怪物が怖くなかったようだし、簡単にたおしちゃったし、わたし見ていただけなのに、何だか目が回ってしまいました」
「それでいいんだ。慣れだから、初めのうち目が回っていても、すぐに慣れる。大丈夫だ」
「本当に慣れるでしょうか?」
「さっき、冒険者たちが目の前を逃げていったろ?」
「はい」
「あれは、バジリスクが怖くて逃げたんだ。キリアもそう思うだろ?」
「はい」
「だけど、キリアはバジリスクを見ても逃げなかったじゃないか。それに怖くて体が震えるわけでもなくちゃんと立っていたぞ」
「そうでした。不思議とこわくはありませんでした。でも、それは、ご主人さまとハナおねえさんと一緒だったからだと思います」
「別にそれでいいじゃないか。これから先もいつもキリアは俺たちと一緒なんだから」
「そうでした。急に安心しました」
「そいつはよかった。
さて、大物を仕留めたけど、まだ時間は早いから、奥の方にいってみるか」
「「はい」」
バジリスクを華ちゃんの手で斃した俺たちは、洞窟の奥に向けて歩いていった。今歩いているのは第3階層の本道と思うが、他の冒険者はどこにもいなかった。階段を駆け上がって逃げていった冒険者の数はそれほどでもなかったところを考えあわせると、第3階層で稼いでいる冒険者の数はそれほど多くなさそうだ。それか、バジリスクが本道を歩いていることなど知らずに今も枝道で稼いでいるのかもしれない。
第3階層の本道を15分くらい歩いたら洞窟の先にまた空洞が広がっていた。その空洞には後ろを向いたバジリスクらしきオオトカゲがいた。下り階段の前に陣取っているようだ。
「華ちゃん、グラビテーで身動きできないようにしてから、横に回り込んでファイヤーアローで頭を撃ち抜いてやれ」
「はい。
グラヴィティー!」
ドーン。前回と同じように足元に震動が伝わってきた。後ろ向きの大トカゲも空洞の床にへばりついて身動きできなくなった。
俺たちは大トカゲの横に回り込んで、そこから華ちゃんが前回と同じようにファイヤーアローを放ち、大トカゲのこめかみを撃ち抜いた。
「収納」
俺の仕事は収納だけだな。
「しっかし、華ちゃんのファイヤーアローは威力あるなー。
おっと、俺の如意棒、真っ黒だぞ。それに鎧も相当黒くなってる」
「わたしのメイスも真っ黒。鎧もかなり黒くなってます。
キリアの剣の鞘も丸盾も変化ないみたいだけど、鎧は明らかに黒くなってます」
「誰もヘルメットは黒くなっていないところを見ると、魔法の道具は黒くならないのかもな。そう考えると、キリアの剣も丸盾も魔法がかかっているのかも知れないぞ」
「そうかもしれませんね」
「えっ、この剣が魔法の剣で、この盾が魔法の盾?」
「剣について言えば、剣身もただものじゃないほど切れそうだったし、可能性は高いと思うぞ」
「そうなんですか?」
「確証はないが、よかったじゃないか」
「そ、そうですね」
「簡単に大物は斃したのは良かったけれど、一度くらいキリアに剣を使わせたいが、適当なモンスターが出てこないかな」
「そこの階段を下りてから枝道に入ってみますか?」と、華ちゃん。
「3階層までの本道には罠はないという話だったから、逆に言えば4階層以降罠があるってことだろ?」
「それじゃあどうします?」
「いや、いつも通りライトとデテクトアノマリーとデテクトライフでいこう」
ということで、俺たちは階段を下っていった。




