第145話 キリア、冒険者デビュー4。
俺と華ちゃんは、一心同体の新メンバー、キリアを連れて北のダンジョンの揺らぎの中に入った。
揺らぎを抜け、入り口の空洞の中を少し先まで歩いていき、そこでキリアを振り返らせ、
「そこの黒い板が、このダンジョンの出入り口だ。ほら、今も人が消えていって、今度は人が現れただろ?」
「ほんとだ」
「今回は初めてだったから、揺らぎを通ってダンジョンの中に入ったが、次回は直接転移でダンジョンの中に入るからな」
「はい」
「それじゃあ、少し歩いて、人気のない横道に入ったら、転移で先までいってみよう」
「岩永さん、キリアに階段を見せなくていいですか?」
「一度くらい階段を使った方がいいか。それじゃあこのまま階段のあるところまで歩いていこう。ここから階段までは1キロだ。キリア、少し距離があるから疲れたら遠慮せずにすぐに言えよ」
「はい、でも1キロくらいなら平気です」
「無理はするなよ。無理してると、ここ一番で体が動かなくなったり何か失敗したりするからな」
「はい」
そこから先は、他の冒険者たちの邪魔にならないよう、華ちゃん、キリア、俺の順で洞窟をまっすぐ階段まで歩いていった。
15分ほどで洞窟を進んだら、洞窟が開けて空洞があらわれた。俺たちは空洞の真ん中に開いていた階段を下りていった。
階段を下り切った所はかなり広い空洞で、階段の正面にまっすぐ洞窟が続いている。
「やっぱり50段でした」と、華ちゃん。俺は最初から50段と思い込んでいたので全く気にしていなかった。そう言えば前回きた時珍しく華ちゃんが階段の段数を数えていなかったんだ。
「この前きた時はこの階層でケイブ・ウルフが何匹もいたけど、冒険者たちが普通に往来しているところを見ると、この階にはケイブ・ウルフはもういないようだな」
「そうみたいですね。どうします?」
「もう一階層下がって、どこかの枝道に入ってみるか?」
「岩永さん、この階層の階段の位置は分かります?」
「分からないけど、おそらく、この本道をまっすぐいけばそのうち階段があるんじゃないか。
キリア、疲れてないか?」
「大丈夫です」
「よし、ここも1キロも進めばまた階段があるだろうから、頑張っていこう」
「はい」
階段の下り口から、15分ほど洞窟を歩いていったら、洞窟が開けて空洞があり、上の階層と同じように、下り階段があった。
「階段を下りてから一休みしよう」
「「はい」」
階段を下りていき、おそらく50段下りたところで次の階層に出た。
階段を下りた先はかなり広い空洞で、階段を下り立った俺たちの正面には、上の階層と同じように洞窟が続いていた。空洞を見回すと、左手の壁際に少し奥まった場所があったので、俺たちは目立たないようにその奥まったところに入り、そこで休憩することにした。
「よっこらしょ」そう言って俺は洞窟の岩のむき出しの地面に腰を下ろした。
華ちゃんもキリアも腰を下ろしたが、なぜか『よっこらしょ』とは口にしなかった。『よっこらしょ』は世界を繋ぐ共通語ではなかったようだ。
「俺は、炭酸水を飲むけど、二人は何にする?」
「わたしも炭酸水で」と華ちゃん。華ちゃんには500CC入りのコーラのペットボトルに冷たい炭酸水を入れたものを手渡し、
「キリアは?」
「わたしは水をお願いします」
キリアには同じペットボトルに冷たい水を詰めたものを作って渡した。
俺は華ちゃんと同じ炭酸水にした。
炭酸水を一口飲んだところでずーっと以前、乾燥果物や煎った木の実を子どもたちのおやつにと思って買っていたことを急に思い出した。
「干しブドウみたいな乾燥果物とか、ピスタチオみたいな木の実があるけど食べるかい?」
「デーツはありますか?」
「デーツって何だっけ?」
「えーと、日本語だと、ナツメヤシ? かな?」
「ナツメ?」
「ナツメとは違うみたいです。ナツメは赤い実ですがデーツは黒っぽいこげ茶色?の実だったと思います」
「じゃあ、これかな?」
そう言って俺はアイテムボックスからそれらしいものを小皿に入れて華ちゃんに手渡した。
「これです。これです。甘いし、栄養いっぱいなんです」
華ちゃんがデーツをおいしそうに食べるものだから俺も食べたくなった。
「キリアもデーツを食べてみるか?」
「はい」
キリアにもデーツを小皿に入れて渡してやり、俺も小皿にとったデーツをアイテムボックスから取り出して一粒つまんでみた。
「甘いなー。確かに疲れた時は効きそうだ」
そうやって3人揃ってまったりしていたら、階段に向かって冒険者たちが数人、空洞に続く洞窟から駆けてきた。3人とも武器は持っていたが、荷物は何も持っていなかった。
「なんか、前回も似たようなことがあったな」
「ですね。何かあったんでしょうか?」
「あったんだろうな」
奥の方から駆けてきた冒険者は3人ほどで、3人が3人とも慌てているように見えた。その3人は特に俺たちに警告するわけでもなく、そのまま階段を上っていった。
「いっちゃいましたね」
「そうだな。
あっ! またこっちに向かって冒険者がやってくる。こんどは4、5人いるぞ」
今度の冒険者たちもそのまま階段を駆け上がっていった。
「俺たちに気づいていなかったのかな。この辺り少し奥まってるし」
「そうかもしれませんが、何を慌てていたんでしょう?」
「ここで待っていたら、なにか変わったモンスターがやってくるかもしれない。もうちょっとここにいよう。
このデーツ、うまいな」
「わたしが以前食べていたデーツよりおいしいと思います」
「やっぱ、天然物ってことかな?」
「わたしが以前食べたものは輸入物だったと思いますが天然物だったと思います。きっと種類が違うんでしょう」
「そりゃそうか。俺たちがこの実をデーツって言ってるけど、あくまで日本語に近いのがデーツってだけだしな」
「そうでしたね」
俺と華ちゃんが、デーツ談義をしているあいだにキリアは小皿に入れたデーツを全部食べてしまったようなので、
「キリア、デーツ以外にもまだいろいろあるが」
「もういいです」
「遠慮するなよ」
「大丈夫です」
とか話していたら、今度は洞窟から10人くらいまとまって現れて階段まで駆けていき、そのまま階段を駆け上がっていった。
「誰も俺たちを見てなかったな」
「そうですね」
「何が出てくるかな。
とんでもないやつが出てきたら、すぐに逃げないとマズいけど、どうとでもなるだろう」
そんな呑気なことを言っていたら、洞窟の奥の方から低い震動音が聞こえてきた。
「何か近づいてくるぞ!」
「重そうな音ですよね」
「洞窟の広さから言って、そこまでデカいのがやってくるとは思えないが、まさかドラゴンってことはないよな。もしドラゴンなら一目散に逃げないとな。
その時は二人とも、すぐに俺の手を取ってくれよ」
「「はい」」




