第133話 確認事項
午後から、真・第2層の先の揺らぎと、その先のダンジョン間で電線を通すことができるか華ちゃんと確認しにいくことにした。これができれば、屋敷の現代化工事に引き続き画期的なことだが、あまり期待はできない。
そんなことを話していたら、食事の準備ができたと、エヴァが知らせにきた。
「エヴァ、ありがとう」
そこで、少し前、イオナが俺のところにやってきて何か言いかけていたことを思い出した。
「エヴァ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「はい」
「さっき一度イオナが俺のところにやってきて、何か言いたかったようなんだがそのまま戻っていったんだ。エヴァは何か心当たりはないか?」
「わたしから、言っちゃうとマズいかもしれませんが、ご主人さまなら」
「何だ?」
「実は、イオナは何が自分にできるのか悩んでいるようです」
オリヴィアはピアノの才能があったし、キリアは冒険者を目指している。エヴァもちゃんと自分の目標を持っている。
まだ12、3歳のイオナだ。これからいろんなものを見聞きしてその中で考えていけばいいだけで、ほかの3人がどうであれ、気にする必要など何もないのにな。
ただ、イオナの場合、俺に恩を返したいという気持ちが強すぎるきらいがあるのは確かだ。
俺がイオナに望むことを、俺からイオナに話せばイオナはそれに向かって進んでいけるかもしれない。
じゃあ、俺はイオナに何を望む?
正直言って今の俺には何一つとまでは言えないがほとんど不自由はないので、望むとすればイオナが将来独り立ちして幸せな生活を送ってくれるだけで十分だ。
これが日本の中高校生ならば、学校に通っているうちに自分の進路なりを見つけることができるのだろうが。まあ、進路を見つけることもできずにアルバイトをしていた俺が言えた話ではないがな。
「分かった。エヴァ、教えてくれてありがとう。
それじゃあ、食事にいこうか」
「フフフ」
華ちゃんは何が面白かったのか半分笑いながら俺の方を一度見た。その後、よく分からないままエヴァともども3人で一緒に食堂に移動した。
……。
「ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした」」
昼食を食べ終え、アイスをみんなで食べた後、俺と華ちゃんは着替えのため2階に上がっていった。午後からはるかさんは街に出て調査をするのだそうだ。
支度を終えた俺たちは、さっそく真・第2層の先の行き止まりに転移した。すかさず華ちゃんがライトとデテクトアノマリーをかけ、振り返ってデテクトライフをかけた。揺らぎが赤く点滅を始めただけで、そのほかの異常はなかった。俺たちは緑に点滅を始めたがすぐに華ちゃんがデスペルマジックで点滅を消してくれた。華ちゃんの頭の上のライトも消えたのでライトをかけなおしている。
俺は錬金工房で5メートルほどの電気コードを作り、
「華ちゃん、このコードの先を持っててくれるかい?」
「はい」
コードの一端を華ちゃんに持ってもらって、俺はコードを伸ばしながら揺らぎの中に入っていった。
揺らぎに入ったと同時に俺は向こうの洞窟に出たのだが、予想に反してコードはつながったままだった。コードの先端は岩から数センチ離れた空中に浮かんでいる。すごく不思議な感じがする。
もし、揺らぎでコードが切断されるのなら、人が移動中揺らぎをまたいだまま止まってしまえば、そこで人間が前後に泣き別れてしまうのだろうから、この結果はある意味当然だったのかもしれない。
一人納得した俺は次に手にしたコードを少し引っ張ってみた。そしたらちゃんと数センチこっち側にズレてきた。これなら電気を通せるはずだ。日本側からここまで電線を引っ張ることは自衛隊に頼めば何とかなるだろうが、向う側は楽園までしか電線を引けないだろう。それでも大進歩だ。
とりあえずの確認が終わったので俺は華ちゃんの待つ向こう側に転移して戻った。
「繋がってたみたいですね」と、華ちゃん。コードが緩まなかったことと、少し引っ張られたことからそう判断したのだろう。
「繋がってた。コードの先が空中に浮かんでた」
「それで、どうします?」
「将来的には自衛隊に頼んで向こうから電線を引いてもらえばいいと思うけど、こっち側は楽園どまりだろ?」
「そうでしたね」
「それに、モンスターが普通に出てくるような場所だから、何か対策を考えないとマズいよな」
「ですね。
この前、北のダンジョンで岩永さんが洞窟の地面に穴を掘ったじゃないですか?」
「うん」
「穴が掘れたんだから、地面にケーブルを埋設するのはどうでしょう」
「確かに。あの時も後から砂利みたいな小石で埋めて華ちゃんの重力魔法で固めちゃったものな。ああいった形ならモンスターに電線が荒らされることもないか。
自衛隊もダンジョン内から撤収するとかしたとか言ってたから、そのうちあっち側の出口までケーブルを敷いてやろう。
こっち側は階段まで電線を敷いておいてもいいな。とはいえ、ただ単純に電線を引くわけにもいかないから、こっちも専門家に任せないとだめかな。LANのケーブルにも規格があるようだし。
確認はできたから、一度ピョンちゃんの顔を見てそれから帰るか」
「はい」
華ちゃんを連れて楽園の中央の空き地に跳んだ俺は、台座の上に置き忘れていた大金貨をアイテムボックスに収納しておいた。もちろんその瞬間、目の前にあった下り階段は見えなくなった。
ピョンちゃんはすぐに華ちゃんが現れたことを察知して、華ちゃんのところに飛んできてその肩に止まり、しきりに頭を華ちゃんのヘルメットとそこからはみ出ている髪の毛に擦り付けていた。なんだか、犬のようなヤツである。
それから、1時間余り。華ちゃんはピョンちゃんと戯れ、俺はビニールシートを地面に敷いて横になっていた。しかし、この大空洞の天井も謎だよな。下からだとどこまで続いているのか全く分からないし、なぜか陽の光で空洞全体は明るいし。夜の間にここを訪れたことはないが、夜の時間もこのまま明るくて、暗闇がないようだと、逆に植物も含めて生き物にとってよくないんじゃないかと思うが、植物は見事に生い茂っているし、ピョンちゃんも元気いっぱい。他の鳥も元気いっぱいのような気がする。だからこその楽園なのかと妙に納得した。




