第130話 お腹(なか)いっぱいなので
昼食の中華料理で俺でさえお腹がいっぱいになった。子どもたちはこれ以上歩けそうにない。
店を出たところで「ちょっと、量が多かったですね」と、華ちゃん。華ちゃんだけ元気に見える。今まで気付かなかったが、見かけによらず華ちゃんは健啖家だったようだ。そういえばこの前の焼肉の時も食べ終わって元気だったものな。
「みんなで珍しいものを腹いっぱい食べたんだからいいんじゃないか。
みんな歩けそうにないから、屋敷に戻ろう。裏道までもう少しだけ頑張ってくれ」
連れだって大通りからわき道に入り、周囲を見渡して、
「いつものように俺の手を取ってくれ。屋敷の居間に転移する」
みんなの手が俺の手を取ったところで、俺たちは屋敷の居間に転移した。
「みんな腹いっぱいだから、ソファーの上で休んでろ」
「「はーい」」
「わたしは大丈夫だからピアノを弾いてもいいですか?」と、オリヴィア。
「もちろんだ。だけど、無理はするなよ」
「はい」
積極的なことはいいことだが、まだ子どもだ。追い込んでまで頑張る必要はないからな。
エヴァとキリアとイオナがソファーに座ってお腹をさすっている中、オリヴィアがピアノを弾き始めた。オリヴィアの斜め後ろには華ちゃんが立ってオリヴィアの指先を見つめている。
オリヴィアが弾き始めたのは、どこかで聞いたことのあるゆっくりした曲だった。まだピアノを始めてそれほどというか全然日にちが経っていないはずだが、ちゃんとした曲だ。
その曲を聞いていたら何だか眠くなってきた。眠くなるほどピアノが上手いということなのだろう。
そうやってうつらうつらしていたのだが、急に今日の夕食のことを思い出し、ハッ! としてしまった。夕食は、はるかさんの歓迎会で例のレストランにいくことになっている。今の状態では華ちゃん以外ほとんど物を食べられなくなってしまう。歓迎会でそれだと、さすがにマズい。
何かよく効く消化薬が欲しいと思ったところで、ヒールポーションを思い出した。
ちょっといいヒールポーションを錬金工房で作り出した俺は、さっそくそれを飲んでみた。
それまで腹が張っていたが、嘘のように腹の中が落ち着いてしまった。こういった効能もあったのか。素晴らしいじゃないか。
「おーい。このポーションを飲んでみろ。お腹がパンパンなのが治るぞ」
ちょっといいヒールポーションを華ちゃんを含めみんなに配った。
みんなヒールポーションの瓶のふたを開けてごくごくと飲み干した。空瓶はすぐ回収して素材ボックスに入れている。ゼロエミッションだからな。
「どうだ?」
「ご主人さま、すっかり良くなりました。
今のは?」
「ヒールポーションだ。ギルドに卸してるヒールポーションより少し効きがいいはずだ」
「食べ過ぎでヒールポーション!?」
「気にするな。俺にとっちゃ、ことポーションに関してはたいてい大したことないから」
「ご主人さま、ありがとうございます」
「さすがはご主人さま」
「納得です」
「イオナはご主人さまのためなら、何でもできます!」
若干一名重いヤツがいた。
「イオナ、あまり気にするな」
「はい!」イオナにしたら元気いっぱいの返事だったが、いまいち俺の言葉の意味が伝わっていなかったのか?
「今の一本が100万円!」
華ちゃんは現実的だった。
みんな元気になったようで、エヴァたちがオリヴィアに代わって順番にピアノを弾き始めたが、やはり、オリヴィアが頭抜けていた。才能があったということだろう。
オリヴィアのこの才能がピアノに限るのか、音楽全般なのかはわからないが、俺に買われて、たまたま目に入ったピアノを俺が買って、そのピアノと華ちゃんのおかげで自分の才能に気づけたわけだろうから、かなり運のいいことだと思う。
子どもたちがピアノの練習をしているあいだ、俺は風呂の用意をすることにした。早めに入ってしまえば、全員風呂を済ませてから歓迎会に臨めるからだ。決してエヴァたち3人のピアノの音から逃れようと思ったわけではない。
俺が風呂から上がり、子どもたちが風呂に入っていたら、はるかさんとリサが街歩きから帰ってきた。
「「ただいま帰りました」」
「「お帰りなさい」」
「リサさんありがとうございました」
「どういたしまして」
「リサ、ご苦労さん」俺が労をねぎらうとリサは軽く頭を下げた。
「はるかさん、どうでした?」
「いろいろな場所を案内していただきました。
お昼も一緒に食堂でいただいて、楽しい経験でした」
「子どもたちが今風呂に入っているので、子どもたちが風呂から出たら、3人で風呂に入ってさっぱりしてください。
風呂から上がって休憩したら、夕食に出かけましょう」
「はい」
それから、しばらくして子どもたちが風呂から上がって居間にやってきた。華ちゃんが子どもたちの髪を乾かす間、俺は次の風呂の準備をしておいた。ちょっと前まで風呂までいってお湯を替えたりお湯を継ぎ足したりしていたのだが、慣れてきたおかげか、風呂の中の状況が意識すれば掴めるようになってきた。そこで、居間に居ながら風呂のお湯を操作したら簡単に風呂の準備ができるようになったのだが、形式上風呂場までいって風呂の準備をしている。
子どもたちも華ちゃんたちも風呂を使ったあと、ちゃんと後片付けしているのでほとんど手間はかからない。シャンプーやボディーソープ、それに石鹸はある程度使ったものはそのまま回収して素材ボックスに突っ込み、新しく錬金工房で作って置き換えていく。
居間に戻った俺は、風呂の準備ができたことを華ちゃんたち3人に告げた。
「岩永さん、ありがとうございます。
はるかさん、リサさん、お風呂に入ってきましょう」
「「はい」」
華ちゃんたち3人は揃って居間を出ていった。部屋に戻って着替えやタオルを持ってそれから風呂に入ることになる。
子どもたちに今日買った勉強の本を渡すのを忘れていたので、
「今日本屋で買った本を配るから、ちゃんと仕舞っておけよ」
そう言って、アイテムボックスの中に入れていた本や勉強道具を居間のテーブルの上に置いてやったら、居間の棚に各自で置いている文房具やら国語の本と一緒に置いたようだ。




