第128話 インヴェスタ―Z3、素人株に手を出す。
隣街の本屋にいこうと思っていたのだが、開店時間までまだ間があったので、時間調整しようと開いていた証券会社に入っていった。5人の女の子を従え椅子に座った俺に対して窓口の女性が、
「岩永さま、大変な金額ご送金いただきありがとうございます。こちらからごあいさつに伺おうと連絡差し上げましたが連絡が取れませんでした。
今日はどういったご用命でしょうか?」
「10億分株を売ってください」
「はい? えーと、10億分の株を売るということでしょうか?」
「そういうこと」
エアコンはちゃんと効いているのに、なぜか窓口の女性は額の汗をハンカチで拭いて、
「岩永さまのお口座には、株の残高はございませんが」
「わたしも、そうだと思うよ。
だから、株を売ってもらいたいんだけど」
「株の『空売り』ということでしょうか?」
「『からうり』は何だか分かんないけど、売ってくれればいいだけ。できれば超優良株を売ってもらいたいんですよ。ちゃんと超優良株を考えておこうと思ってたんだけど忙しくて考えてなかったものでね。
だから証券会社の考える超優良株を10億分売ってくれればいいですよ」
「申し訳ございません。信用取引は投資経験のないお客さまには勧められない規則になっておりまして。岩永さまの顧客プロフィールには投資経験なしと書かれていますし」
「それじゃあ、超優良株売ってくれないの?」
「何度も、申し訳ございません。
信用取引ではなく、こういった投資信託を購入されてはいかがでしょう。投資のプロが株を厳選して運用していますので安心です」
そう言って彼女は投資信託のパンフレットを何種類か見せてくれた。
俺は一通りパンフレットを見て、
「ちょっとパンフレットを見たけど、何が安心なの?」
「は?」
俺は、一枚のパンフレットに描かれたグラフを指さして、
「投資信託の何が、どう安心なのかなと思って。
だって、基準価格って元は1万だよね? そのパンフレットを見る限り、ちょっと前の基準価格8500切ってるよ」
「このファンドの運用期間、インデックスは15パーセント近く下落していますから」
「同じ頃スタートしてるけど、こっちの投信は基準価格が8200だよね。そっちは9100だし。どれも1万切ってるけど、何であれ損してるよね? プロの優劣じゃなくて、劣り具合を競ってるの?」
「結果は結果ですので、そのようにお考えになっても仕方がありません」
「話は戻るけど、これだけ下で競い合ってるのに、安心なの?」
「申し訳ございません」
「結局、こっちを選んだか、そっちを選んだかでこれだけ差が出るなら、株を選ぶのとそんなに差がないと思うけど」
「おっしゃる通りです」
「それくらいなら、株の方が良いんだけど。優良株のリストみたいなのないかな?」
「かしこまりました。
こちらが、弊社のアナリストが推薦しています今月の優良銘柄になっております」
今度は20社くらいの名まえと、いろいろなデータが書かれたパンフレットを彼女が見せてくれた。
「それじゃあ、この会社の株を10億円分売ってください」
「先ほども申しましたが、空売りはできません」
「えーと、空売りはわかんないけど、わたしはその株を売ってもらいたいだけなんですが?」
「ですから、株を持たない状態から株を売るには、株を借りてその株を売ることになります。
あっ! もしかして岩永さまがおっしゃる『売ってくれ』というのは、岩永さまに『売る』ということですか?」
「もちろん」
10億円で株を売ってくれって最初に言ってたのに忘れちゃったのか? 窓口のくせにしっかりしてくれよ。証券会社の中に入ったのは今日が初めてだけど、最近の証券会社の窓口はたるんでるんじゃないか?
「かしこまりました。
証券会社は通常、お客さまに株を直接売るのではなく、お客さまの代わりにマーケットに注文を出すだけですので、今後間違いのないよう、岩永さまが購入したい場合は『買い』、売却したい場合は『売り』とおっしゃって下さるようお願いします」
「なるほど、了解しました。
なら、この株を10億円で買えるだけ買ってください」
「えーと、この銘柄1つだけで10億円ですか?
「そう」
「かしこまりました」
そこで彼女はまた額の汗を拭き、
「買値はいくらにしましょうか。現在のマーケットでの買値は450円ちょうどです。この値段で指値注文すると、
……、
2百21万9千株の注文となります。株数が株数ですので全部の株が約定するかどうかは分かりません」
「そうなんだ。難しいんですね。でも注文しちゃいけないってことはないんでしょ?」
「もちろんです」
「それじゃあ、そのまま注文してください」
「かしこまりました。
……。
発注しました。
これが岩永さまのお出しになった注文です」
お姉さんが暑くもないのにまたまたハンカチで額を拭いて、モニターを回して画面を見せてくれた。値段の列の真ん中あたりに450の数字があり、その数字の右に2342000とでていた。
見ていると、2342000の数字がだんだん減っていき、そのうち全部なくなり、右に並んだ数字の一番上に対応する値段の列の数字は449になった。
「全株約定したようです」
数字が変わっていくのが面白かったのでそのままモニターを見ていたら、449が448になり、そのあと飛び飛びですぐに441になった。これってマズいんじゃね?
とはいえ、もう証券口座の中にはお金はないので、どうしようもない。あとで銀行口座を確認して前回の20億ちょっとが防衛省から振り込まれているかみてみないとな。
インヴェスターZの活動は多難である。
証券会社で暇を潰せたので、お姉さんに礼を言って5人を引き連れ店を出た。
「岩永さん、どういった会社の株を買ったんですか?」
「儲かりそうな株?」
「そ、そうだったんですね」
「あまり考えず、なんとなく証券会社の進める株の中から適当に選んだだけだから。でもあれはスポーツ用品の会社だったかな? 潰れなければどうってことない」
子どもたちでは理解できなかったろうが、なにがしかの経験にはなったろう。
証券会社を出た時には10時を過ぎていたので、道を戻って本屋に入った。
「「これがぜんぶ本!?」」「すごい」「何だか怖い」
そう言えば、向こうにあった図書館は、実際はそれ相応の数の本を収蔵しているのだろうが、ざっと見50冊くらいしか本がなかったものな。
「それじゃあ、お前たちの勉強の本を探すぞ!」
「「はい」」
「華ちゃん頼む。俺はその辺にいるから」
「はい」
子どもたちは華ちゃんに任せて俺はコミックコーナーに回った。大人とはそんなものだ。
さーて、今日は何を買おうかな?
市場内の通常取引で上場株は何株まで買えるのか調べたんですが、分かりませんでした。市場外なら規制があるのですが市場内取引ではどうも規制がないようだったので、この作品中では、全株式が浮動株なら発行済み株式数まで市場に注文を出して買ってしまえることにしています。




