第125話 オー! エスニック!
俺がなんとなく子どもたちに将来の希望を聞いてみたら、みんな真面目な良い子だった。しかも俺のことまで考えていてくれていたのには正直かなり嬉しかった。
それを後ろで聞いていたはるかさんに、
「善次郎さんは子どもたちに本当に慕われているんですね」と、羨ましそうに言われてしまった。
「ちょっと早いけど、風呂の支度をしてくる」
俺は少しだけ気恥ずかしかったので、そう言い残して風呂場にいき風呂の準備を始めた。
準備が終わっていったん居間に戻ったら、子どもたちは今日の夕食の手伝いを免除されていたようで、さっきまでと同様にピアノの周りに集まって、今は先生の華ちゃんが模範演奏中だった。
「わるいけど、はるかさんは夕食が終わったら華ちゃんとリサと3人で風呂に入ってください」
「はい。わたしは夕食まで部屋の片づけなんかをしています」
はるかさんはそう言って2階に上がっていった。
「華ちゃん、はるかさんをよろしくな」
「はい」
ピアノを優雅に弾いていた華ちゃんにも言っておいた。
後は、食事のとき風呂のことをリサに伝えればいい。俺が言い忘れたとしても、どうせ華ちゃんが伝えてくれると思うけどな。なにせ俺たちは一心同体だからな。あっ、今思い出したが明日リサにはるかさんを案内するよう言わなくちゃいけなかったんだ。こっちは忘れられないぞ。
それから俺は先に風呂に入った。
アパートで暮らしていたころは、夏になればシャワーだけで済ませていたし、後は2、3日に1度の入浴だったが、この屋敷だとみんなを風呂に入れなければいけないので、俺まで毎日風呂に入っている。何気に健康的だ。もちろん調子が悪くなればヒールポーションで一発なのだろうが、そのおかげか風邪はおろか体調不良になったことは一度もない。
俺は最後に湯舟に肩まで浸かって100まで数え、それから風呂から上がり、子どもたち用に風呂の準備をして子どもたちを呼んだ。着替え終わった俺は、廊下で着替えを持った子どもたちにすれ違い、頭をタオルで拭きながら居間に。
「ふー、いい湯だった」
「岩永さん、頭を乾かしましょうか?」
「いや、もうほとんど乾いているから大丈夫。
そういえば、はるかさんだけど、今日街を案内したもののほとんど転移で移動した関係で全く道が分からなかったハズなんだ。そもそも、俺自身道を知っているわけじゃなかったからしかたなかったんだけどな。それで、明日はリサを付けて街歩きさせようと思うんだ」
「フフ。岩永さんらしい」
「まあな。
それで、明日の昼食は、はるかさんとリサにはそのまま外食をさせて、俺たちはどこかにいって昼食にしよう。明日の夕食ははるかさんの歓迎会を兼ねて例のレストランにいけばリサが夕食を作らなくても済むしな」
「それだったら、明日は子どもたちを連れて日本の本屋さんにいってみませんか?
子どもたちも将来のことを考えているようだから、役に立つような本が見つかるかもしれません。
例えば商人になりたいって言っていたエヴァには今は難しいでしょうが簿記とかきっと役立つはずです。
今は国語の勉強だけしかしていませんが、エヴァに限らず算数の教材なんかを揃えておけば役立つと思うし」
「なるほど、それもそうだな。
いき先はこの前の隣街の本屋でいいかな?」
「あそこの本屋ならわたしもよく知っていますから、あそこでいいと思います」
「華ちゃんを知ってる人は大丈夫かな?」
「休みの日でもありませんし、大丈夫でしょう」
「なら、そうしよう。昼もあの辺りで食事すればいいものな。
そう言えば、うっかり、すっかり忘れていたが旅行の予約もしなくちゃな」
「そうでしたね」
そんな話を華ちゃんとしていたら子どもたちが風呂から上がってきた。華ちゃんは背の高さの順に並んだ子どもたちにヘヤードライヤー魔法で温風を送ってやり、子どもたちは自分の髪の毛をワシャワシャさせて髪の毛を乾かした。
「そろそろ、夕食だろうから、お前たち、リサのところにいって料理を運ぶのを手伝ってこい」
「「はい!」」
元気に4人が駆けだしていった。後ろから4人を見たが、だいぶ肉付きが良くなってきている。特にイオナは手足が細かったが今では他の子とそんなに差はないようだ。
子どもたちが駆けていって5分ほどで夕食の準備ができたとオリヴィアがやってきた。2階のはるかさんを呼びにはエヴァがいったらしい。
はるかさんが食堂にやってきたところでみんなが揃った。
「少し気温が高くなったようだから、エアコンを点けるか」
俺がそう言うと子どもたちが手分けして、スタンドライトを点け、窓を閉めていく。
エアコンのコントローラーは俺が操作してエアコンを点けた。
「それじゃあ、『いただきます』」
「「いただきます」」。はるかさんも遅れなかった。
各人のテーブルには、野菜サラダと、おそらくカボチャのスープ、そして大き目の皿に今日のメイン。メインの横には芋をふかしたものが添えてあった。
今日のメインは、えーと? これはなんだ?
「リサ、このメインの皿に乗っているのはなんだ?」
「はるかさんが日本からいらっしゃったので、珍しいものをお出ししようと思い用意しました。なかなか手に入らないものですが、街の食材屋に仕入れを頼んでやっと手に入れることができました」
珍しいものを手間暇かけて手に入れたとなると、それなりのものなのだろうが、
「たしかにお皿の上でこれを見るのは初めてだけど、俺には蜘蛛の姿煮に見えるのだが」
「はい。エスニ蜘蛛の甘露煮です。午前中からハチミツと岩塩で煮込んでいますので、丸ごと食べることができます」
エスニに何か特別な意味があるのかもしれないが、俺にとっては、異国料理といったところなのだろう。
郷に入っては郷に従え。俺はハチミツで煮込まれたせいか紅茶色をした蜘蛛の胸の真ん中にフォークを突き刺してみた。
フォークは木製のフォークなのだがゼリーに突き刺したような感覚だ。よく見ると蜘蛛も半分透き通っている。ナイフは不要なようだ。
ハチミツソースのかかった蜘蛛から、フォークを使って足を1本根元から切り離し、恐る恐る口に運んで口に入れた。まだ噛んではいない。
ニオイは全くない。舌触りは見た目通りゼリー、煮凝りとも言う。ハチミツで煮たせいか今のところ甘さだけが舌に伝わってきている。
さーて、思い切って噛むぞ!
ゆっくりと歯を動かして蜘蛛の足を口の中で噛み切ったら、薄い皮の中から蜘蛛の足の身が出てきた。
やや繊維質なのかもしれないがカニカマ的な食感と甘辛さ、そして若干の苦み。その苦みは口に残らなくてしつこくない。そのせいか味のアクセントとなっている。美味いじゃないか。すぐに蜘蛛の足を1本食べてしまった。食感をタラバガニや毛ガニじゃなくカニカマ的という表現が庶民的で俺らしい。
俺が蜘蛛を食べるのを見ていた華ちゃんもはるかさんも意を決したようでナイフを動かして蜘蛛の脚を口に入れた。その間にもリサだけは蜘蛛をおいしそうに食べている。子どもたちも俺たち日本人組同様初めて蜘蛛を食べたようだが、目を瞑るようなこともなく普通に食べていた。
「「なにこれ、おいしい」」華ちゃんとはるかさんの第一声だ。
足は分かった。それでは、腹はどうだ? 丸々と太った蜘蛛の腹部。こげ茶の横縞模様がある。これはナイフを使って輪切りにした方が良さそうだ。
腹の先っちょの手前にフォークを突き刺し、それからナイフで腹を輪切りにした。木製のナイフなので切れは良くない。ナイフで切った部分だけ少し潰れてしまったが、輪切りになった腹の先をフォークで突き刺して口の中に。
味的には脚と同じだが、こちらの方が苦みが強かったが、その苦みが不思議と塩味で引き立ったハチミツの甘みによくあっている。
それからあっという間に蜘蛛の腹を全部食べてしまった。
ある一線を越えた以上俺に怖いものはない。
頭の部分を脚の付いた胸から切り離し、フォークを突き刺して口に入れてひと噛み。
脳みそが中にあったせいか、頭の味は一味違い、ややねっとりした食感と、苦みではなくハチミツとは違う甘味があった。
残った胸は、食感だけややもっさりしていたが脚と同じような味だった。
残った7本の脚を食べて、結局蜘蛛を丸ごと食べきってしまった俺は、テーブルの上に出されていたスライスしたパンを取り、皿に残った紅茶色のソースを付けて食べてみた。これもなかなかのものだ。
待てよ、俺のアイテムボックスにはダンジョンで仕留めた大蜘蛛がそれなりの数入っているが食べたらうまいかもしれないぞ。茹でるにしてもかなり大きな鍋が必要だが、鍋などちょちょいのちょいで作れるからそのうち試してみるか? いやいや、別に鍋で煮なくても、錬金工房で料理くらい簡単にできるはずだ。中っても即死しなけりゃポーションで何とでもなるし。そのうち試してみるか。




