第123話 街歩き2
はるかさんに『一心同体』の自慢話をしていたら急に華ちゃんが服を着替えてくると言って居間から出ていってしまった。
「あれっ? 先週、この部屋の中にピアノはありませんでしたよね?」
「先週向こうで買ってきて据えつけたんですよ」
「善次郎さんがお弾きになるんですか?」
「華ちゃんがね。あれも天才っていうのかな。一度聞いた曲は弾けるみたいです」
「それは羨ましいですね。わたしはそういったものは全然できませんから」
「俺も全然だめで、小学校の時の笛だけですよ。アッハッハ」
……。
「ご主人さま、昼食のしたくができました」と、エヴァがやってきた。
「ありがと。
はるかさん、いきましょうか」
「はい」
食堂にいくと、華ちゃんを含めみんなが立って俺とはるかさんを待っていてくれた。
「そうか、はるかさんの座る場所だな。
華ちゃんの左を空けるように、リサとエヴァが左にズレるか」
俺の向かい側の席は俺から見てリサ、エヴァ、はるかさん、華ちゃんの並びになった。
ちなみに、俺の側は、オリヴィア、キリア、イオナ、俺の順だ。
「それじゃあ、いただきます」「「いただきます」」
食事しながら、
「明後日測量の人が入って、明明後日とその次の日、向こうから人と機械がやってきてこの屋敷を大改修することになった。
子どもたちは危ないから、明後日はいいとして、明明後日とその次の日はどっかにいっていた方が良いと思うが、どこが良いかな?」
「楽園はどうです? ピョンちゃんもいるしすごくきれいだし。わたしが付いていますから」と、華ちゃん。
「確かに、華ちゃんが子どもたちを見ていてくれるなら安心だしな。
食べ物と飲み物を持っていけばピクニックのようなものだし、そうするか。
朝がたみんなを運んで夕方迎えにいこう」
「楽園というのは?」と、楽園を知らないはるかさん。
「ダンジョンの中にモンスターのいない不思議な大空洞があるんです。そこには草木が茂って綺麗な花が咲き乱れ、おいしいイチゴやリンゴが生ってるんです。
別荘でも建てたいんですが、だいぶ先でしょう」
すっかり忘れていたが、あのダンジョンは悪の組織、アキナ神殿の私有物だった。あそこにいる連中じゃ誰も楽園に入ることはできないから、どうでもいいというか、ザマーみろって感じだ。
「工事の時はるかさんはどうします?」
「わたしもできれば、その楽園に連れていっていただきたいところですが、要望をレポートした手前、工事の邪魔にならないよう、様子を見ておきます」
「いずれお連れしますよ」
食事も終わったところで、恒例のアイスクリームタイムだ。
「アイスクリームをデザートにみんなに出しているんですが、はるかさんは何食べます? いちおう、サーティー〇ンアイスクリームです」
「それじゃあ、安定のバニラで」
はるかさんにバニラアイスを手渡し、順番に希望アイスを配っていった。俺はいつも通り安定の抹茶だ。
「はるかさん、少し休んだら街を案内しましょう。
かく言うわたしもあまり詳しくはないんですがね。
華ちゃんはどうする?」
「わたしは子どもたちにピアノを教えています」
「それもいいな。了解。
はるかさんは、今の服装よりももっとラフというか地味な格好の方がいいから、着替えてきた方が良いな。
居間で待ってますから」
「それじゃあ、着替えてきます」
俺の場合そもそも地味な服しか持っていないので、日本用といってもこっちでもそこまで違和感はないと思うが、人を連れ歩くのに、わる目立ちする必要もないので部屋に戻ってこっち用の衣服に着替えた。
居間に下りてはるかさんを待っていたら、リサと子どもたちが食後の後片付けを終わり居間にやってきて華ちゃんのピアノを囲んだ。
俺はそのあと普段着に着替えて居間に下りてきたはるかさんを連れ、久しぶりに歩いて屋敷の門を出た。よく考えたら、足を使って門を出たのは商業ギルドの馬車に乗り降りした時以来で、門から出て10メートルも歩いたことがなかった。
「この通りは大通りの裏道なので、すぐそこを曲がれば大通りにでられるはずです」
「この辺りは大きなお屋敷が並んでるんですね」
「お屋敷街みたいですね。うちはこの辺りではあまり広くない屋敷だそうです」
「なんとまあ、贅沢な」
「日本じゃ考えられませんけどね。
はるかさんはこの世界の調査ということですから、表通りに出て適当に店の中を覗いたりするだけでも調査になるでしょう。
あっ、そうだ。この街には図書館があるんです」
「ぜひ行ってみたいです」
「本の数はそれほどではないですが、手書きだし趣はありますよ。わたしは一度だけ子どもたちを連れて入ったことがあるんですが、すぐ出ちゃいました。
確か、こっち、いや、あっちだったか?」
図書館の場所の記憶はあるが、道を全く覚えていなかった。
「めんどうだから、転移で跳んでいきましょう。はるかさん、わたしの手を持ってくれますか?」
「はい」
はるかさんが俺の手を取ったところで、図書館の前に転移した。偶然かどうかはわからないが、近くに人はほとんどいなかった。
「ここが図書館です」
「立派な建物ですね」
「建築や建設技術は発達しているのかもしれませんね。たいていの道は石で舗装されているし、街をでた先の街道はコンクリートみたいなもので舗装されているし」
「ふーん。そうなんですね」
図書館の中に入る前、
「はるかさん、そのうちこの街を独り歩きすることもあるでしょうから、ある程度のお金は必要でしょう。ここの図書館でも入館料を取られますからね」
そう言って俺は小袋の中に金貨10枚と銀貨を10枚入れてはるかさんに渡した。
はるかさんが小袋を受け取り中身を確認したところで、
「感覚的なものですが、そこに入っている金貨1枚がだいたい5万円くらいかなって思っています。それで、銀貨10枚で金貨1枚。銀貨の下は小銀貨で2枚で銀貨1枚。その下が大銅貨で10枚で小銀貨1枚。大銅貨の下がただの銅貨で10枚で大銅貨になります」
「ということは、金貨は銅貨1000枚。銅貨は50円と考えればいいってことですね。
というか、この袋の中だけでも55万円?」
「大まかにいえばそうなんですが、物によっては日本人の感覚からズレた値段設定のものもあるので正確ではありません。この街の高級レストランでうちのみんなで夕食を食べれば金貨10枚近くしますから。もとの金貨1枚は5万というところが間違ってるかもしれませんしね」
「それは理解できますが、そんな食事をいつも?」
「そんなことはありませんが、リサが大変そうな時などたまにいっています」
「善次郎さんはみんなを大切にして優しいんですね」
「一緒に暮らしている以上、みんなの笑顔を見ている方が気持ちいいですから」
「なるほど。子どもたちが善次郎さんを慕う気持ちが分かります」
そのあと、図書館に入り所定の入館料を2人分支払った。
俺自身は本を読む気はなかったのではるかさんの後について歩くだけだ。はるかさんは閲覧台の上の本を興味深そうに読んでいる。
はるかさんが図書館の本を読破してくれたら、俺はそのエッセンスを聞くだけでいいな。そうだ、その時は子どもたちや華ちゃん、それにリサ。全員でエッセンスを吸収するため勉強会を開いてもいいかもしれない。休憩時間にお茶とお菓子がでればどこかのサロン風サークルだ。




