第117話 田原一葉2
明日は、防衛省に跳んでポーションを卸す日だ。ポーションの用意はもう終わっているし、買い物は明日すればいいので、ダンジョンアタックはどうしようかと昨夜考えていたのだが、特に何か用事があるわけでもなかったので、華ちゃんと相談したところ、ピョンちゃんの顔を見がてらダンジョンアタックしようということになった。
昼食は屋敷でとるとリサに伝えて、戦闘服に身を包んだ俺と華ちゃんはピョンちゃんの待つ楽園に跳んだ。
ピョンちゃんを肩に乗せた華ちゃんが俺の手を握り、俺がピョンちゃんの頭に手を当てて昨日の最後に立っていた石室の中に転移した。
華ちゃんはすぐにライトとデテクトアノマリーをかけ、部屋の中に異常がないことを確認し、俺たちはいつも通り探索を再開した。
それから、何回かモンスターと戦い、宝箱も3個ばかり見つけることができた。宝箱の中はいずれも金貨だった。このところ金貨が入った宝箱を見つけることが多くなったし、中に入っている金貨の枚数も多くなってきたようだ。
「そろそろ昼だ。屋敷に戻ろうか」
「はい」
いちど楽園に跳んでピョンちゃんを降ろしたあと、屋敷の居間に転移した。
華ちゃんと居間でヘルメットと手袋、それに革鎧の上を脱いでいたら、子どもたちがやってきた。
「「ご主人さま、おかえりなさい」」「「ハナおねえさん、おかえりなさい」」
「「ただいま」」
「食事の準備はできていますが、ご主人さまにお客さまです。応接室に通しました」とエヴァ。
「俺に客? 商業ギルドからかな?」
「いえ、名まえは聞いていませんが、ハナおねえさんのことも知っている女の人で、ハナおねえさんくらいの歳の人でした」
華ちゃんのことを知っていて、華ちゃんくらいの歳というとあの女子高生2人組しか思いつけない。
華ちゃんも何かイヤそうな顔をしている。とはいえ、会わずに追い返すわけにもいかない。
「客は2人だった?」
「いえ、一人です」
うん? 一緒に行動していないのか。
「なんだか、二人の女子高生のうちの一人がやって来たようだけど、華ちゃんはどうする?」
「わたしは会いません」
そうだよな。
「追い返すわけにもいかないから、俺だけで会ってくる。
みんなは食事を始めててくれ」
「「はい」」
みんなを残して俺は応接室に向かった。
応接室に入ると、確かにあの女子高生たちの一人がソファーに座っていた。顔ははっきり覚えていないので勇者の女子高生かそうでない方の女子高生だったのかは思い出せない。人物鑑定すればスキルが分かるから特定はできるが敢えて人物鑑定はしなかった。
「俺に用があるということだったけど、きみは華ちゃんと一緒にこの世界に召喚された女子高生だよね?」
「はい。ゼンジロウさんはどういった方なんですか?」
「あれ? 俺のこと覚えていない? きみらと一緒に召喚された男だよ」
「えっ!? あのダサかったおじさん? ってごめんなさい」
「まあいいよ。似たようなことを華ちゃんにも言われたから。
それできみの名まえは?」
「田原一葉」
「勇者だったっけ?」
「いえ、わたしはレンジャーです」
「そうだったか。俺もあんまり覚えてなくってな。
それで、うちにわざわざ、しかも一人でやって来たということは、神殿を逃げ出したってことかな?」
田原一葉が頷いた。多感な女子高生はいろいろ悩みもあるんだろう。あまり関わり合いたくないが、放り出すわけにもいかない。
「理由は聞かないが、俺にどうしてほしいんだ?」
もちろん匿ってほしい、そして養ってほしいってことだろう。意地悪な質問ではあるが一応聞いてみた。
「何でもしますから、ここに置いてもらえませんか?」
ここで華ちゃんの時のように意地悪な質問を重ねても無意味なので、
「ここにおいてやることはできない」
華ちゃんもいるしな。とは言わなかった。
目の前の田原一葉の顔が驚いたような顔をしていた。まあ、普通助けを求めれば相手がよほどの悪人でない限り助けてもらえると思うのは普通だからな。
「そのかわり、日本に帰してやろう」
「えっ!?」
「俺はこの世界と、日本との間を行き来できる。拉致された場所の近くにきみの家があるんだろうから近くまで運んでやろう。条件は俺のことと華ちゃんのことを帰ってから吹聴しないことだ。
約束できるなら、日本に帰してやるが」
「日本に帰れるんなら帰してください!」
華ちゃんには帰りたくない事情があったが、この娘にはなかったようだ。
「わかった。
その格好だと変だから、向こうの格好に着替えて帰った方がいいな」
俺は、最初に華ちゃんがスーパーで買った衣服を錬金工房で複製して、袋ごと田原一葉に渡した。袋の中を確認した田原一葉はかなり驚いていた。そりゃスーパーのシールが貼ってあれば誰でも驚くよな。衣服にはタグも付いていたので、ハサミも渡しておいた。
「サイズが少々合わなくても何とか着られるだろう。俺は部屋をいったん出てドアの前に立っているから着替えたら呼んでくれ」
5分ほどで着替えました。と、声がかかったので、部屋に入ったら、華ちゃんがよく着ている服を着ていたので少し驚いてしまった。今まで着ていた服はソファーの上に畳まれて置いてあった。いまアイテムボックスに収納してしまうとややこしそうなので、片付いたら後で回収しておこう。
「じゃあ、帰るか。
どこに出たい? 俺の知っているところ限定だが、あの街なら大抵の場所は分かるぞ。
そうそう、公園はいまのところ取り込み中だからなしな」
「取り込み中?」
「帰ったらテレビとか新聞とかで確認してみれば驚くと思うぞ。その時のお楽しみだ」
怪訝な顔をされたが、あんなのを説明するのも面倒だしな。
「で、どこに出たい?」
「XXX小学校はわかりますか? そこの正門あたりでお願いします」
「了解。それじゃあ、俺の手を取ってくれ」
田原一葉がおずおずと俺の手を親指と中指で摘まんだ。汚いものを持つようにしなくてもいいじゃないか、とは思ったが、はっきり言って見ず知らずのおっさんの手なんか握りたくないものな。
「それじゃあ、転移!」
XXX小学校正門前に二人して立っていたことに、田原一葉はひどく驚いていた。
「家族には適当な話をしておけよ。じゃあな」
俺はそのまま応接室に転移して、田原一葉が着ていた衣服を回収し食堂にいった。
田原一葉がどういった話を家族にするのか分からないし、俺のことや華ちゃんのことも周囲にペラペラ話すかもしれないが、その時はその時。俺のバックには防衛省が付いている。と思うんだよな。
明日防衛省にいったら、田原一葉を保護して日本に帰したと言っておけば、警察関係にも知らせてくれるだろう。




