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掌編集  作者: (=`ω´=)


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目眩

 今朝からなにやら調子が可笑しいなとは感じていたのだが、退社時間になるまでその原因が把握できなかった。

 彼は風邪や頭痛、船酔いに二日酔いなどその手の不調は一通り人並みに経験してはいたが、発熱の頭痛も伴わない純粋なる目眩というものを経験したことがなく、自分の不調の原因をしばらく気の迷いだと思い込んでいたのである。

 それが気のせいではないと明確に意識したのは、職場からの帰路、なにもない路上で不意に左足の膝から力が抜け、そのまま横転しかけてからだった。

 あれ?

 と、彼はことここに至って、ようやくその不調が気のせいなどではないことを悟った。

 なんとかその場に倒れることこそ未然に防げはしたが、それでも足元に力が入らないという事実には変わりがない。

 なんか想像以上に、やばそうだな。

 そんなことを考えつつ、彼は慎重な足取りで家路を急いだ。

 路上でいき倒れるよりは自宅で寝込んだ方がいいに決まっている。


 いつもの倍近くの時間をかけてどうにか帰宅をしたあと、彼はのろのろと着替えてそのままベッドの上に倒れこみ、気を失うように眠った。

 そして夜中に喉の渇きに耐えきれずに起き出し、ただの水道水を大量に飲んでからまたベッドに倒れ込む。

 スマホを取り出して簡単な文面で体調不良を記し、数日欠勤することをメールで告げた。


 彼が次に目をさましたとき、枕元のスマホの液晶を確認すると、驚いたことに日付が三日ほど経過していた。

 彼はその場で半身を起こし、もはや以前ほどには不調を感じなくなっていることを確認する。

 立ち上がり、汗に濡れて重たくなっていた服を着替えてから、職場へ電話を入れた。

 電話に出た同僚に名乗ると、

 あれ?

 と不審そうな声が応じる。

 その人なら、今ここに居て仕事をしていますけど。

 そんなはずはない。

 そう思い、彼はその足で職場へとむかう。

 通い慣れた道を進んで職場に着くと、そこには確かに彼にしか見えない男が机にむかっている。

 これはどうしたことか。

 そう思いつつ彼がもう一人の自分の肩に手を置くと、その衝撃で彼は目を醒ます。

 ベッドの上で目を見開いた彼は意識が不明瞭なままであり、しばらく自分がどこに居るのか判断がつかなかった。

 なにもしていないのに、周囲の風景がぐらぐらと揺らいでいるような気がした。



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