ループループ
いきなりなんの前触れもなく、わたし自身と相似形でありながら、しかし明らかに数十年分の加齢を顔をした女がわたしに前に現れれた。
「タイムマシンができたので、ちょっと寄ってみた」
「年食ったなあ」
お互い、そんなことをいいあったあと、二人して微妙な表情になる。
「そういえば、こういうやり取りだったわ」
「っていうか、タイムマシンて実現できんの?
やっぱ、ワームホールとか利用するわけ」
相変わらず、噛み合わない会話になる。
本人同士であることがわかっているから、互い遠慮とか配慮をする気がない。
「重力場を利用した時空の歪みを利用する方法も理論上は実現可能だとされているけど、実証した人はいない」
「ということは、詳しくは説明するつもりがないってことだね」
「このわたしがここまで苦労して開発した成果をただで教えるもんですか。
それでも、実現が可能であるとこうして見せつけられただけで、将来的には大きな励みになるはず」
「で、わざわざ大昔の自分を励ましに来たってわけ?」
「まさか。
若き日の自分の馬鹿さ加減を確認しておきたかっただけよ」
そういってその女、自称未来のわたしは来たときと同じ唐突さで姿を消す。
なんだったんだ、今のは。
そもそもわたし、理系の学部には通っているだけど単なる一学生ってだけで、研究者なるつもりもないんだけど。
さて、それから月日は流れ、わたしは大学を卒業してそこそこの会社に入社して働きはじめ、どうにかよさそうな男を捕まえ損ねたりしているうちに、順調に婚期を逃がしつつあった。
当初の予定通り、タイムマシンを開発するような大層な学者先生にはなっていない。
そのかわり、タキオン粒子の存在が確認されたり、ナンタラ粒子加速器を利用するとそのタキオンの生成が可能であるとかいうことが、ニュースを賑やかすようになった。
そのタキオンとやらは光速を超えて過去に出る粒子らしいのだが、あくまで粒子サイズの世界でのことであり、普通の人が想像するようなタイムマシンをとはあまり関連がないそうだが。
さらにまた月日が流れて研究が進み、そうした遡時効果を利用した製品なども次第に実用化されるようになった。
とはいえ、仮に過去に干渉をしようとしても、干渉した結果がすでにこの固定されており、変更のしようがないことも知られるようになっていたが。
つまり、この世界は少なくとも人間レベルでは完全に決定論的な世界であり、どうあがいてもタイムパラドックスなどは起こらない、らしい。
その意味は、正直なところ、わたしにはよく理解できなかったのだが、ぼちぼち老後が気になる年齢に差し掛かるに従って、わたしは過去の、若い頃の自分にいくばかの忠告を与えたい気分になっていた。
誰にだって過去を振り返って後悔することのひとつやふたつ、あるはずである。
当然、わたしにもある。
幸いなことに、タイムトラベルはすでに実用化され、いくつかの代理店ができて庶民でもどうにか手の届く価格で各種の手続きを代行してくれる仕組みができあがっていた。
「タイムマシンができたので、ちょっと寄ってみた」
わたしは、目を丸く見開いて驚いている学生時代のわたしにそういった。
「年食ったなあ」
そのわたしがそういうのを聞いて、わたしの頭に血が昇る。
「そういえば、こういうやり取りだったわ」
「っていうか、タイムマシンて実現できんの?
やっぱ、ワームホールとか利用するわけ」




